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十話 至高への一歩

●情愛にまどろむ中で

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   ◇ ◇ ◇

 温もりの中、ゆっくりと意識が浮上していく。

 まだ寝足りない体が俺のまぶたを重くする。
 それでもそろそろ起きて朝の支度をせねばと目を開く。

 視界に広がった一面の肌色と強靭な胸筋に、俺は思考を止める。

 ……焔、俺を腕に閉じ込めて寝るんじゃない。
 寝起きなのに急激に羞恥の熱が集まり、全身がそわそわと落ち着かなくなる。それは体の奥が覚えてしまった甘い疼きに似すぎていて、思わず俺は身悶えそうになった。

「……っ……ふぅ……」

 息を逃がして昂りそうな熱を逃がし、少しずつ華候焔の体から自分を離していく。

 もう散々抱かれて前も後ろも秘所を曝け出したというのに。雄であることをやめさせられそうなほどの快楽に啼かされ、悦び、自らも貪欲に求めるほどなのに。今のほうが恥ずかしくてたまらない。

 心音が速い。
 自分のおかしな様子に泣きたくなっている中、ふと華候焔の寝顔が視界に入る。

 完全に気を許し、安らかに眠る顔。昨夜は空が白けそうになる頃まで、俺を抱くことを楽しんだ。ちょっとのことでは起きなさそうだ。

 もし今、俺が華候焔を裏切って剣を突き立てれば、きっと何も知らぬまま刃を受け入れてしまうだろう。それだけ無防備な自分を俺に晒してくれている。

 ……ああ、いつまで経っても俺の頭がおかしいままだ。

 俺は離していった体を、わざわざ再び華候焔へ近づけ、首を伸ばして口元にキスを贈る。

 起こせばただでは済まないと分かっているのに。
 まるで強請りながら起こそうとしているような自分に、ますます顔が熱くなった。

 早く離れなければ、と布団から抜け出ようとしたが、もう遅かった。

「……逃げるな。誠人の気持ちは分かったから」

 いつの間にか目を覚ました華候焔がニヤリと笑い、俺を腕に閉じ込め直して唇を塞いでくる。

 まだ体は昨夜の情事の疲れを残しているというのに。
 容赦なく舌を絡め取られて、情愛に満ちた口付けに酔いしれていく。

 このままだと昨夜よりも華候焔に溺れてしまう――そんな予感に囚われかけた時だった。

「誠人様、やりました! コンパウンドボウの大量生産、完成しました!」

 突然部屋の扉が勢いよく開き、才明が慌ただしく寝台まで駆け寄ってくる。

 いきなり甘い空気を壊され、俺も華候焔も唖然となって顔を離す。
 普段の才明なら、空気を読んでもっと待っていただろうに。それができないほど興奮していることが分かってしまい、俺は俺は顔を綻ばせる。しかし、

「才明、後にしろ……やっと誠人が積極的になってくれたのに……」

 俺を深く抱き込んだかと思えば、低く怒気を孕んだ声で華候焔が才明をけん制する。

 いくら才明でも華候焔の怒りを一心に浴びたら手足は震え、そのまま固まってしまうだろう。

 しかし切望を叶えた才明に恐れなどなかった。

「昨夜はいっぱい楽しんだでしょう、華候焔殿? 次は私の番です」

 才明は糸目をニンマリとさせて胸を張る。

「さあ、朝食を終えたら色々と仕込みますよ。楽しみにしていて下さいね、誠人様」

 ……いつになく才明が強い。
 まったく折れない才明に、俺と華候焔はいうことを聞くしかなかった。
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