上 下
182 / 345
九話 新たな繋がり

●憂いを帯びたまま

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 宴を終え、身を清めてから俺は自室へと向かう。

 扉を開けて中へ入ろうとした時、ふと気配を感じて振り向く。
 俺が来た通路とは反対側から現れた英正が、俺と目が合った途端に立ち尽くし、困惑の表情を浮かべて固まった。

「誠人様……」

 見事に俺たちの望みを期待以上の形にしてくれた立役者のはずなのに、ここへ戻って来てからの英正はずっと表情を曇らせている。

 いったい何を憂いているのだろうか?
 心の中で首を傾げながら、俺は小さく微笑みながら英正に目配せする。

「こっちに来てくれ。英正がここへ戻って来てから、ずっと話を聞きたかったんだ」

 俺の声を聞いた途端、ひどく安堵したように英正の顔と肩から力みが抜ける。
 そして「はいっ」と見慣れた人懐っこい笑みを返し、早歩きで俺の元へ急いだ。

 部屋に入り、英正が扉を閉める。
 ――その直後、俺の体は背後から英正に抱きすくめられた。

 急な締め付けで覚えてしまった息苦しさを、俺は息をついて逃がしながら尋ねる。

「英正、どうしたんだ? 澗宇の所で何かあったのか?」

「……っ……」

 俺の耳に英正から息を詰まらせる音が聞こえてくる。口を開けば嗚咽が零れてきそうな気配に、無言の肯定を汲み取った。

 無理に言わせないほうが良い気がして、俺は話を切り替える。

「今日は英正の望みに応えたい。俺にどうして欲しい? 何がしたい?」

「……貴方が、欲しいです。私の望みはそれだけです」

 英正は腕の締め付けを緩めると、性急に俺の体を自分のほうへ向けさせ、がっつくように口付けてくる。

 人の舌を絡め取り、口内を弄る動きがせわしない。
 待ちきれなかったと焦っているようにも感じるが、どこか悲痛さがあるような、俺に縋りついているような気がしてしまう。

 何を思っているか分からないが、俺は受け止めるから落ち着いてくれ。
 俺は英正の背に手を回し、せわしないキスに応えながら落ち着くようにと優しく叩いてやる。

 しばらくして我に返ったように英正の動きが止まり、わずかに顔を離して俺を見つめる。
 欲情が抑えられず頬を紅潮させながらも、英正の瞳は色めき立ちながら憂いに潤んでいた。

「誠人様……今日は、加減ができません。貴方を乱したくてたまらないんです。それでも許して下さいますか……?」

 一瞬、俺に許しを求めた華候焔の顔が頭をよぎる。

 本気を出してもいいと受け入れておきながら、別の男の想いを受け入れてしまってもいいのか? と胸がざわついてしまう。

 だが命をかけて役目を果たした英正を無碍にはできない。
 対価を物ではなく己で払い続けることに重さを覚えながら、俺はコクリと短く頷いた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...