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九話 新たな繋がり
華候焔との繋がり
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負けたプレイヤーの解放――一瞬、耳障りの良い言葉を並べ、俺を油断させようとしているのだろうかと疑ってしまう。
だが澗宇の澄み切った瞳に力強さを見出し、これが彼の本音なのだと確信した。
本音には本音で返そう。
俺は澗宇の眼差しを真っ直ぐに受け止め、素直な疑問をぶつける。
「領土の規模や抱えている武将の数を考えれば、俺よりも澗宇のほうが総合力は上だと思う。なぜ自ら頂点を目指さないんだ?」
「……頂点を目指すには、僕という人間はあまりに無力なんです。武将の数が多いのは、出来る限り戦いを望まないプレイヤーたちを保護してきたから。そして領土を広げて安易に手出しされない国造りができたのは……兄のおかげなんです」
澗宇の顔が今にも泣き出しそうに歪む。
「この『至高英雄』には兄と一緒に参加しました。年の離れた兄でとにかく強い人で……わざと僕に討たれて、敗者となって姿を武将に変えてから、僕を守るために仕えてくれたんです。現実と同じ、誰にも負けない最強の武人――」
「まさか……澗宇の兄は、華候焔なのか?」
「はい。現実でもこちらでもまったく似ていませんが、実の兄弟なんです」
このか弱く純真な少年が、華候焔と兄弟……。
姿が似ていないのは当然だが、雰囲気や言動など共通するものが一切ない。
わざわざ弟のために領主を降り、武将として力を振るっていたことを考えると、兄弟仲は悪くないのだろう。ある程度関わり合っていたなら、もう少し似たところがあってもいいはずだが――。
俺がにわかに信じられずに目を丸くしていると、澗宇は苦笑を零した。
「兄は華候焔という役を演じていますから、ことさら似ていないと感じると思います……僕のために裏切りの常習犯だなんて言われるようになって、それすら『ハクが付いていい』なんて笑い飛ばして……」
「なぜ澗宇のために裏切りを繰り返したんだ?」
「僕の味方を見つけるために直接領主の所へ行って登用され、人柄や強さを見極めようとしたらしいのですが、味方になり得ないと判断して内部から潰したり、僕の領土を攻めたからと寝返ったりしていたんです」
裏切り常習犯の理由が、まさか弟を思ってのことだなんて想像すらできなかった。
俺は何度か目を瞬かせた後、思わず口元を緩めた。
「そうか……焔にも理由があったんだな」
自然と俺の口から漏れた華候焔の愛称。今度は澗宇が目を丸くした。
「兄が誠人さんとずっと離れずにいるから、仲良くされているとは思っていましたが……兄をここまで受け入れてくれる人は初めてです」
話の終わりに澗宇は笑みを浮かべ、安堵したように長い息をついた。
だが澗宇の澄み切った瞳に力強さを見出し、これが彼の本音なのだと確信した。
本音には本音で返そう。
俺は澗宇の眼差しを真っ直ぐに受け止め、素直な疑問をぶつける。
「領土の規模や抱えている武将の数を考えれば、俺よりも澗宇のほうが総合力は上だと思う。なぜ自ら頂点を目指さないんだ?」
「……頂点を目指すには、僕という人間はあまりに無力なんです。武将の数が多いのは、出来る限り戦いを望まないプレイヤーたちを保護してきたから。そして領土を広げて安易に手出しされない国造りができたのは……兄のおかげなんです」
澗宇の顔が今にも泣き出しそうに歪む。
「この『至高英雄』には兄と一緒に参加しました。年の離れた兄でとにかく強い人で……わざと僕に討たれて、敗者となって姿を武将に変えてから、僕を守るために仕えてくれたんです。現実と同じ、誰にも負けない最強の武人――」
「まさか……澗宇の兄は、華候焔なのか?」
「はい。現実でもこちらでもまったく似ていませんが、実の兄弟なんです」
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姿が似ていないのは当然だが、雰囲気や言動など共通するものが一切ない。
わざわざ弟のために領主を降り、武将として力を振るっていたことを考えると、兄弟仲は悪くないのだろう。ある程度関わり合っていたなら、もう少し似たところがあってもいいはずだが――。
俺がにわかに信じられずに目を丸くしていると、澗宇は苦笑を零した。
「兄は華候焔という役を演じていますから、ことさら似ていないと感じると思います……僕のために裏切りの常習犯だなんて言われるようになって、それすら『ハクが付いていい』なんて笑い飛ばして……」
「なぜ澗宇のために裏切りを繰り返したんだ?」
「僕の味方を見つけるために直接領主の所へ行って登用され、人柄や強さを見極めようとしたらしいのですが、味方になり得ないと判断して内部から潰したり、僕の領土を攻めたからと寝返ったりしていたんです」
裏切り常習犯の理由が、まさか弟を思ってのことだなんて想像すらできなかった。
俺は何度か目を瞬かせた後、思わず口元を緩めた。
「そうか……焔にも理由があったんだな」
自然と俺の口から漏れた華候焔の愛称。今度は澗宇が目を丸くした。
「兄が誠人さんとずっと離れずにいるから、仲良くされているとは思っていましたが……兄をここまで受け入れてくれる人は初めてです」
話の終わりに澗宇は笑みを浮かべ、安堵したように長い息をついた。
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