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九話 新たな繋がり
まだすべてを許せない
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◇ ◇ ◇
昼食を終えた後、俺は言われた通りに荷物をまとめ、東郷さんの部屋へ移動した。
中には誰もおらず、がらんとしていた。
俺の所よりもやや広めで、大きなダブルベッドが置かれた部屋。すでにベッドメイクが済み、昨夜の情事の痕跡は消えている。
もしかして今日もする気なのだろうか?
いや。昨夜は薬を飲まされて苦しむ俺を助けるため、仕方なく東郷さんは抱いたんだ。色々と言われはしたが、すべて真に受けてはいけない。
俺の成長を期待しているから守ろうとしてくれていることは、東郷さんの本心だと思っている。それだけでも夢のようなのだが……。
ふと物憂げなため息をついてしまい、俺は小さく首を振る。
一度現実で繋がったからといって、他に何かあるかもしれないと考えるのは浅はかだ。
俺はこんな女々しい人間だったのか?
相手に何か言われた訳でもない。自分の憶測だけで心を浮つかせ、苦しむなんて。
……東郷さんがこれ以上は練習できないと判断したほどだ。俺は自分が思っているほど疲れているのだろう。だから心も弱って揺らいでいるのかもしれない。
荷物をクローゼットの中へとしまい、俺はベッドに寝転がる。
せめて強化合宿が終わって解散するまで、東郷さんの手を煩わせることがないようにしなければ。
心と体を回復させるために俺はまぶたを閉じる。
ひと寝入りした後、少し『至高英雄』をプレイしておこう。
前に進みたい。
せめて現実で東郷さんに応え切れない分、仮想で強さを磨きたい。
それに英正のことも気になる。伝令が上手くいかなくてもいいから、早く無事を確かめたい――。
考えている内に思考が鈍くなっていく。
意識を手放す直前に浮かんでいたのは、華候焔の顔。
体の奥に熱を灯しながら、俺は眠りの底へと落ちていった。
――唇が甘く疼く。
優しくも強引に起こされ、俺は薄く目を開く。
間近になっている顔は陰になってよく分からない。
ただ、つい最近覚えてしまった感触で、誰が何をしているのかは寝ぼけた頭でも分かった。
東郷さんが俺にキスしている。
唇を重ねるだけの優しい口付け。これを淫らなものに変えたくなくて、俺はなんの反応も返さず、まぶたを降ろして寝たふりを続ける。
しばらくして東郷さんが顔を上げ、唇が寂しさを覚えてしまう。
目を閉じていて表情は分からないが、気配で見下ろされていることは分かる。
俺の寝顔を見つめながら、東郷さんの手がそっと俺の頭を撫でた。
「……誠人……」
ポツリと名を読んだ東郷さんの声が、あまりに切なげで俺の胸奥が甘く疼いてしまう。
早く確かめたい。このまま体を起こして抱きついてしまいたい。
だが、考えなしにすべてを曝け出し、安堵して与えられる快楽のまま愚かになる訳にはいかない。
東郷さんのことをもっと知らなければ。
本当に敵ではないのだと確信するまでは、まだすべてを許せない。
きっと今まぶたを開けば、東郷さんの本音が分かるだろうが……。
誘惑に流されまいと堪えながら、俺は東郷さんが部屋を出るまで寝たふりを続けた。
昼食を終えた後、俺は言われた通りに荷物をまとめ、東郷さんの部屋へ移動した。
中には誰もおらず、がらんとしていた。
俺の所よりもやや広めで、大きなダブルベッドが置かれた部屋。すでにベッドメイクが済み、昨夜の情事の痕跡は消えている。
もしかして今日もする気なのだろうか?
いや。昨夜は薬を飲まされて苦しむ俺を助けるため、仕方なく東郷さんは抱いたんだ。色々と言われはしたが、すべて真に受けてはいけない。
俺の成長を期待しているから守ろうとしてくれていることは、東郷さんの本心だと思っている。それだけでも夢のようなのだが……。
ふと物憂げなため息をついてしまい、俺は小さく首を振る。
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俺はこんな女々しい人間だったのか?
相手に何か言われた訳でもない。自分の憶測だけで心を浮つかせ、苦しむなんて。
……東郷さんがこれ以上は練習できないと判断したほどだ。俺は自分が思っているほど疲れているのだろう。だから心も弱って揺らいでいるのかもしれない。
荷物をクローゼットの中へとしまい、俺はベッドに寝転がる。
せめて強化合宿が終わって解散するまで、東郷さんの手を煩わせることがないようにしなければ。
心と体を回復させるために俺はまぶたを閉じる。
ひと寝入りした後、少し『至高英雄』をプレイしておこう。
前に進みたい。
せめて現実で東郷さんに応え切れない分、仮想で強さを磨きたい。
それに英正のことも気になる。伝令が上手くいかなくてもいいから、早く無事を確かめたい――。
考えている内に思考が鈍くなっていく。
意識を手放す直前に浮かんでいたのは、華候焔の顔。
体の奥に熱を灯しながら、俺は眠りの底へと落ちていった。
――唇が甘く疼く。
優しくも強引に起こされ、俺は薄く目を開く。
間近になっている顔は陰になってよく分からない。
ただ、つい最近覚えてしまった感触で、誰が何をしているのかは寝ぼけた頭でも分かった。
東郷さんが俺にキスしている。
唇を重ねるだけの優しい口付け。これを淫らなものに変えたくなくて、俺はなんの反応も返さず、まぶたを降ろして寝たふりを続ける。
しばらくして東郷さんが顔を上げ、唇が寂しさを覚えてしまう。
目を閉じていて表情は分からないが、気配で見下ろされていることは分かる。
俺の寝顔を見つめながら、東郷さんの手がそっと俺の頭を撫でた。
「……誠人……」
ポツリと名を読んだ東郷さんの声が、あまりに切なげで俺の胸奥が甘く疼いてしまう。
早く確かめたい。このまま体を起こして抱きついてしまいたい。
だが、考えなしにすべてを曝け出し、安堵して与えられる快楽のまま愚かになる訳にはいかない。
東郷さんのことをもっと知らなければ。
本当に敵ではないのだと確信するまでは、まだすべてを許せない。
きっと今まぶたを開けば、東郷さんの本音が分かるだろうが……。
誘惑に流されまいと堪えながら、俺は東郷さんが部屋を出るまで寝たふりを続けた。
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