161 / 345
九話 新たな繋がり
●手加減の本気
しおりを挟む 結局、辺りをウロウロしてるうちにすっかり夜が明けてきたようだった。
自販機は鵜の森交差点の上州屋の前に見つけたので、そこでコーヒーやら買って、しばし雑談。
そこからでも、相模外科は嫌でも視界に入る……。
遠目から見ても、やっぱりそこだけ切り取ったように暗い……。
でも、視界に入れないようにしてなんとなくダベる。
「100円玉で買える温もりって……今は、110円って言いなおさないとなー」
「自販機100円って、それいつの話だよ!」
「尾崎豊って、知らね? 今度カラオケで歌ってやるよ……俺、結構上手いよ」
「へぇ、見延君……声、良いしね! 今度、聞かせてよ」
しょうもない雑談が続く。
「この建物って、なんで斜めってるの?」
「ここの上州屋って、元々アルペンだったからね……森野の方にも上州屋あるけど、そっちも元アルペン」
灰峰さん、妙なことに詳しい。
「どんだけ、アルペン好きなんだよ……上州屋」
スキー用品のアルペンから釣具屋と華麗なる転身を遂げたこの上州屋。
このパターンって、意外と多くて、知ってるだけでも3-4件はこのパターンだった。
店の前の自販機前で、若造共がだべってて、さぞ近所迷惑に思えるけど。
ご近所っても、目の前にあるのは畑……ぶっちゃけ、何もない。
この数年後、灰峰姉さんの影響で、立派な釣り人となった俺は、ここの常連になるのだけど、それは暫く先のお話。
まぁ、釣りに関しては、この灰峰姉さんが師匠的な感じになって、あっちこっち行くことになるのだけど、その行く先々で割と心霊現象を体験するハメになる。
それはともかく、時刻は午前4時……すっかり空が明るくなっていた。
待望の夜明けである。
待ってましたとばかりに、俺達は、朝日を浴びながら、相模外科の前に再び立っていた。
今度は、フルメンバー……そのまま帰るのも何だからと、とりあえず目の前まで来てみた。
さすがに、灰峰ねーさんに色々吹き込まれたので俺も、ややビビり。
「……で、どうよ? つか、先陣は任せたよ……ねーさん」
「いや、何があったのか知らないけど、なんか……嘘みたいに雰囲気が変わってる……なにこれ? 何が起きたの?」
「ホントだ……夜が明けたら、いきなり雰囲気変わったな……」
相変わらずだったら、今日は撤退と言ってた灰峰ねーさんもさっきと様子が違うと言って、今度は乗り気。
徳重も同じようなこと言ってる。
ホントかよ? でもなんとなく、前に来た時に感じてた圧迫感が和らいだような気がする。
「なんかもう俺達だけみたいだし、すっかり明るくなってるから、中見て回ってみる? ここで解散っても消化不良っしょ」
と言うか、コンビニ探すと言っときながら、単に辺りをウロウロして自販機囲んでただけだった俺達。
ぶっちゃけ皆、何も言わなかっただけで、思いは一つ!
『明るくなってから、こよーぜ!』
要は、モノの見事に揃いも揃って、ヘタれてたってのが実情。
もっとも、明るくなったら、無駄に強気化……そんなもんなんである。
「……なんだこれ。……ホントに同じ場所なのかな?」
確かに明るくなったのもあるだろうけど、もう入った時の雰囲気が全然違う。
夜明け間際の冷たい空気は相変わらずなんだけど、ただの廃墟……そんな感じだった。
ちなみに、地下室はスルー!
だって、そこだけは常闇なんだもん。
「なんか、ちょっと目を放した隙に建物自体がごっそり入れ替わったんじゃないかって、気もするね……それくらい、雰囲気が違う……さすがに、これは君達でも解るんじゃないかな?」
「そこまでかよ……確かに、雰囲気がぜんぜん違うけど……」
「そこまでだよ……まぁ、これなら、多分大丈夫だから、物理的に気をつければ、何の問題もないと思うよ」
そして、何となく皆バラけて、あちこち好き勝手に歩き回る。
須磨さんは、灰峰ねーさんに付いてったらしく、俺ソロ状態!
俺は二階を散策する。
なんとなく上には行きたくなかったもんで、階段付近をうろついて、部屋の中を覗いてみたり、背後を気にしながら、いつでも撤退できるように……この辺、俺ヘタレ。
須磨さんと灰峰ねーさんがキャイキャイ言いながら、下に降りてったのを見送り、俺も帰ろうかなと思ってたら、反対側の階段から高藤がぬっと姿を見せる。
ちょっとビビったのは内緒。
「高藤ちゃん、ちゃーっす! どうよーっ! なんか面白い事あった?」
二階の廊下を、もう三回目くらい往復して、何も居ないって確認済み。
もう怖くもなんとも無くなってたから、高藤への挨拶も軽いもの。
「おーうっ! 見延っ! なんだ上にいないと思ったら、こんなとこで一人でウロウロしてたのかい? てか、怖くなったんだろ? ベイビー! 何なら、俺様が熱い抱擁でも……」
高藤はたまにこの手のホモネタを振ってくる。
まぁ、俺はいつも華麗にスルーなんだけどな!
「いらねぇよ……さっき、灰峰ねーさんと須磨さんがもう帰らね? って言って下に降りてったよ。……他は上? なんか飽きたし、そろそろ俺らも撤収しねぇか?」
「そうだな……まぁ、夜中に比べて明るいし、全然怖くないし……ちょっと拍子抜けしたな。全くつまらん……俺はここに刺激を求めてきたんだぜ……」
「俺は、そんなスリリングな展開とか、御免こうむるよ」
お互い歩み寄りながら、そんな話をする。
この時点で、俺達は……油断しきってた。
お互い、ソロで動いてて仲間と会って、安心したってのもあったのかもしれない。
けど、その時の俺は文字通り無防備だった……。
――それは、突然の事だった。
背後に人の気配を感じて、思わず立ち止まった……。
自販機は鵜の森交差点の上州屋の前に見つけたので、そこでコーヒーやら買って、しばし雑談。
そこからでも、相模外科は嫌でも視界に入る……。
遠目から見ても、やっぱりそこだけ切り取ったように暗い……。
でも、視界に入れないようにしてなんとなくダベる。
「100円玉で買える温もりって……今は、110円って言いなおさないとなー」
「自販機100円って、それいつの話だよ!」
「尾崎豊って、知らね? 今度カラオケで歌ってやるよ……俺、結構上手いよ」
「へぇ、見延君……声、良いしね! 今度、聞かせてよ」
しょうもない雑談が続く。
「この建物って、なんで斜めってるの?」
「ここの上州屋って、元々アルペンだったからね……森野の方にも上州屋あるけど、そっちも元アルペン」
灰峰さん、妙なことに詳しい。
「どんだけ、アルペン好きなんだよ……上州屋」
スキー用品のアルペンから釣具屋と華麗なる転身を遂げたこの上州屋。
このパターンって、意外と多くて、知ってるだけでも3-4件はこのパターンだった。
店の前の自販機前で、若造共がだべってて、さぞ近所迷惑に思えるけど。
ご近所っても、目の前にあるのは畑……ぶっちゃけ、何もない。
この数年後、灰峰姉さんの影響で、立派な釣り人となった俺は、ここの常連になるのだけど、それは暫く先のお話。
まぁ、釣りに関しては、この灰峰姉さんが師匠的な感じになって、あっちこっち行くことになるのだけど、その行く先々で割と心霊現象を体験するハメになる。
それはともかく、時刻は午前4時……すっかり空が明るくなっていた。
待望の夜明けである。
待ってましたとばかりに、俺達は、朝日を浴びながら、相模外科の前に再び立っていた。
今度は、フルメンバー……そのまま帰るのも何だからと、とりあえず目の前まで来てみた。
さすがに、灰峰ねーさんに色々吹き込まれたので俺も、ややビビり。
「……で、どうよ? つか、先陣は任せたよ……ねーさん」
「いや、何があったのか知らないけど、なんか……嘘みたいに雰囲気が変わってる……なにこれ? 何が起きたの?」
「ホントだ……夜が明けたら、いきなり雰囲気変わったな……」
相変わらずだったら、今日は撤退と言ってた灰峰ねーさんもさっきと様子が違うと言って、今度は乗り気。
徳重も同じようなこと言ってる。
ホントかよ? でもなんとなく、前に来た時に感じてた圧迫感が和らいだような気がする。
「なんかもう俺達だけみたいだし、すっかり明るくなってるから、中見て回ってみる? ここで解散っても消化不良っしょ」
と言うか、コンビニ探すと言っときながら、単に辺りをウロウロして自販機囲んでただけだった俺達。
ぶっちゃけ皆、何も言わなかっただけで、思いは一つ!
『明るくなってから、こよーぜ!』
要は、モノの見事に揃いも揃って、ヘタれてたってのが実情。
もっとも、明るくなったら、無駄に強気化……そんなもんなんである。
「……なんだこれ。……ホントに同じ場所なのかな?」
確かに明るくなったのもあるだろうけど、もう入った時の雰囲気が全然違う。
夜明け間際の冷たい空気は相変わらずなんだけど、ただの廃墟……そんな感じだった。
ちなみに、地下室はスルー!
だって、そこだけは常闇なんだもん。
「なんか、ちょっと目を放した隙に建物自体がごっそり入れ替わったんじゃないかって、気もするね……それくらい、雰囲気が違う……さすがに、これは君達でも解るんじゃないかな?」
「そこまでかよ……確かに、雰囲気がぜんぜん違うけど……」
「そこまでだよ……まぁ、これなら、多分大丈夫だから、物理的に気をつければ、何の問題もないと思うよ」
そして、何となく皆バラけて、あちこち好き勝手に歩き回る。
須磨さんは、灰峰ねーさんに付いてったらしく、俺ソロ状態!
俺は二階を散策する。
なんとなく上には行きたくなかったもんで、階段付近をうろついて、部屋の中を覗いてみたり、背後を気にしながら、いつでも撤退できるように……この辺、俺ヘタレ。
須磨さんと灰峰ねーさんがキャイキャイ言いながら、下に降りてったのを見送り、俺も帰ろうかなと思ってたら、反対側の階段から高藤がぬっと姿を見せる。
ちょっとビビったのは内緒。
「高藤ちゃん、ちゃーっす! どうよーっ! なんか面白い事あった?」
二階の廊下を、もう三回目くらい往復して、何も居ないって確認済み。
もう怖くもなんとも無くなってたから、高藤への挨拶も軽いもの。
「おーうっ! 見延っ! なんだ上にいないと思ったら、こんなとこで一人でウロウロしてたのかい? てか、怖くなったんだろ? ベイビー! 何なら、俺様が熱い抱擁でも……」
高藤はたまにこの手のホモネタを振ってくる。
まぁ、俺はいつも華麗にスルーなんだけどな!
「いらねぇよ……さっき、灰峰ねーさんと須磨さんがもう帰らね? って言って下に降りてったよ。……他は上? なんか飽きたし、そろそろ俺らも撤収しねぇか?」
「そうだな……まぁ、夜中に比べて明るいし、全然怖くないし……ちょっと拍子抜けしたな。全くつまらん……俺はここに刺激を求めてきたんだぜ……」
「俺は、そんなスリリングな展開とか、御免こうむるよ」
お互い歩み寄りながら、そんな話をする。
この時点で、俺達は……油断しきってた。
お互い、ソロで動いてて仲間と会って、安心したってのもあったのかもしれない。
けど、その時の俺は文字通り無防備だった……。
――それは、突然の事だった。
背後に人の気配を感じて、思わず立ち止まった……。
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる