160 / 345
九話 新たな繋がり
垣間見える本気
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
華候焔の本気が寝台の上でどう出るのかと思っていたが、その片鱗は褥に入る前から始まっていた。
「ちょっと華候焔ー! 誠人サマに近いですー! そんなに宴の席でべったりしないで下さいー!」
宴の席で白澤が華候焔と真正面から向き合い、白い毛を逆立てながら怒鳴ってくる。
俺のために怒っているのは分かる。その気持ちは嬉しいが、見た目はどうしても白タオル。毛が立てばふわふわした白マフラーにしか見えない。
そんな迫力に欠ける白澤の非難に、華候焔がフン、と鼻で笑う。
「今日は誠人様の褒美を独り占めできるんだ。これぐらいやっても構わんだろう。なあ、誠人様?」
ずっと俺に身を寄せ、肩を抱きながら酒を楽しんでいた華候焔が俺を覗き込む。
眼差しがどこかうっとりとして、美女に相貌を崩しているかのような顔。周囲に俺と特別な関係があるのだと思わせる雰囲気に、俺は顔を熱くしてしまう。
「華候焔……その、俺も近いと思う。飲みにくくはないか?」
「飲みにくい訳がないだろう。最上の肴を愛でながら飲めるなんて最高だ」
低く優しい声で俺に語りかけると、華候焔は戯れに俺の頬へ口付ける。
事情を知らない者が見れば、酔いゆえの無礼講と思われるかもしれない。
だが酒は飲んでいるが華候焔は酔っていない。ほんのり頬が赤くなっているだけで、俺の肩を抱き続ける手は軽く身じろいでも離そうとしない。はっきりした意思を持って、皆がいる中で俺に密着している。
きっとこれも褒美の独り占めの一環なのだろう。
そして本気を出して周りに見せつけているのだろう。俺との仲を知らしめて、褒美が欲しければ俺を上回れと牽制しているようだ。
やり過ぎだ、と窘めることは容易だ。
しかし華候焔に本気を受け止めると言った以上、これも許容するしかない――子どものワガママみたいなものに見えてきて、俺は思わず華候焔の頭に手を伸ばす。
「……焔がそれでいいなら構わないが、わざと白澤を怒らせて遊ぶのはやめて欲しい」
つい子どもを宥めるように頭を撫でると、華候焔の体が一瞬固まる。
次の瞬間、ガバッと俺に抱き着いてきた。
「これは済まなかった! 誠人様を相手にしている最中に、わずかでも長毛玉に気を取られてしまうとは……」
「何をふざけたことを言っているんですかー! この酔っ払いオヤジー! 誠人サマ、こんな酔いどれの悪ふざけに付き合わなくても良いんですよー」
「これで俺の百の忠誠と力が手に入るんだぞ? 安いもんだろうが」
「その言い方はやめて下さいー! まるで誠人サマが安いみたいに聞こえるじゃないですかー!」
「うん? それは確かにそうだな。済まない」
「分かればよろしいですー」
……何を言っているんだ二人とも……。
むしろ白澤が酔っているんじゃないかと心の中で呟きつつ、俺は辺りを見渡す。
いつもなら末席にいる英正の姿はない。俺を取り合うように俺の近くを陣取る才明もいない。
英正は今ごろどこにいるだろうか? 才明はこれからの準備に動いているのだろうか?
ふと二人のこと考えていると、不意に華候焔が俺の耳元に唇を寄せて囁く。
「誠人、今は俺のことだけ考えろ。独り占めさせてくれ」
華候焔の本気が垣間見えて、俺の腰が甘く疼いてしまう。
なんて貪欲なんだと思いながら、俺は小さく息をつくしかなかった。
華候焔の本気が寝台の上でどう出るのかと思っていたが、その片鱗は褥に入る前から始まっていた。
「ちょっと華候焔ー! 誠人サマに近いですー! そんなに宴の席でべったりしないで下さいー!」
宴の席で白澤が華候焔と真正面から向き合い、白い毛を逆立てながら怒鳴ってくる。
俺のために怒っているのは分かる。その気持ちは嬉しいが、見た目はどうしても白タオル。毛が立てばふわふわした白マフラーにしか見えない。
そんな迫力に欠ける白澤の非難に、華候焔がフン、と鼻で笑う。
「今日は誠人様の褒美を独り占めできるんだ。これぐらいやっても構わんだろう。なあ、誠人様?」
ずっと俺に身を寄せ、肩を抱きながら酒を楽しんでいた華候焔が俺を覗き込む。
眼差しがどこかうっとりとして、美女に相貌を崩しているかのような顔。周囲に俺と特別な関係があるのだと思わせる雰囲気に、俺は顔を熱くしてしまう。
「華候焔……その、俺も近いと思う。飲みにくくはないか?」
「飲みにくい訳がないだろう。最上の肴を愛でながら飲めるなんて最高だ」
低く優しい声で俺に語りかけると、華候焔は戯れに俺の頬へ口付ける。
事情を知らない者が見れば、酔いゆえの無礼講と思われるかもしれない。
だが酒は飲んでいるが華候焔は酔っていない。ほんのり頬が赤くなっているだけで、俺の肩を抱き続ける手は軽く身じろいでも離そうとしない。はっきりした意思を持って、皆がいる中で俺に密着している。
きっとこれも褒美の独り占めの一環なのだろう。
そして本気を出して周りに見せつけているのだろう。俺との仲を知らしめて、褒美が欲しければ俺を上回れと牽制しているようだ。
やり過ぎだ、と窘めることは容易だ。
しかし華候焔に本気を受け止めると言った以上、これも許容するしかない――子どものワガママみたいなものに見えてきて、俺は思わず華候焔の頭に手を伸ばす。
「……焔がそれでいいなら構わないが、わざと白澤を怒らせて遊ぶのはやめて欲しい」
つい子どもを宥めるように頭を撫でると、華候焔の体が一瞬固まる。
次の瞬間、ガバッと俺に抱き着いてきた。
「これは済まなかった! 誠人様を相手にしている最中に、わずかでも長毛玉に気を取られてしまうとは……」
「何をふざけたことを言っているんですかー! この酔っ払いオヤジー! 誠人サマ、こんな酔いどれの悪ふざけに付き合わなくても良いんですよー」
「これで俺の百の忠誠と力が手に入るんだぞ? 安いもんだろうが」
「その言い方はやめて下さいー! まるで誠人サマが安いみたいに聞こえるじゃないですかー!」
「うん? それは確かにそうだな。済まない」
「分かればよろしいですー」
……何を言っているんだ二人とも……。
むしろ白澤が酔っているんじゃないかと心の中で呟きつつ、俺は辺りを見渡す。
いつもなら末席にいる英正の姿はない。俺を取り合うように俺の近くを陣取る才明もいない。
英正は今ごろどこにいるだろうか? 才明はこれからの準備に動いているのだろうか?
ふと二人のこと考えていると、不意に華候焔が俺の耳元に唇を寄せて囁く。
「誠人、今は俺のことだけ考えろ。独り占めさせてくれ」
華候焔の本気が垣間見えて、俺の腰が甘く疼いてしまう。
なんて貪欲なんだと思いながら、俺は小さく息をつくしかなかった。
0
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる