152 / 345
八話 本当の仲間は誰?
本気
しおりを挟む
戯れの言葉……にしては声が重い。
本気で言っているのかと俺が目を見張っていると、華候焔がうっすらと微笑む。
「才明から色々教えてもらって、誠人も知り始めているのだろ? この世界のことを……本当は俺が先に教えたかったところだが、先を越されてしまった。これ以上後手に回るのは性じゃない」
思いがけず気にかけていたことを言われ、俺は息を飲み込む。
こんな言い方をするということは、やはり華候焔も現実にいる誰かなのか。
知りたい。
華候焔の正体も、この世界の真実も。
自分の心が前のめりになってくのを感じる。だが、すぐには頷けなかった。
心を捧げて欲しいというのは、恋愛する相手として受け入れろということなのか?
華候焔に心まで預けて愛でられろと? この世界でも、現実でも――。
一気に体がカッと熱くなり、俺は華候焔から目を逸らす。
こうして体の関係を持っているのは、勝ち上がるための褒美としてやむを得なく、だ。好きでやっている訳じゃない。
それを褒美目的以外でも関係を持つということになれば、俺は……。
即決できない俺をからかうように、華候焔が小さく吹き出す。
おもむろに華候焔は俺の耳元へ唇を寄せてそっと囁く。
「ずっと俺は、心置きなく本気になれる人間が欲しかったんだ。こっちでも、あっちでも……誠人。俺は本気を出して生きたい」
「焔……」
「頼む。俺に許しをくれ……誠人」
俺よりも遥かに力があり、経験も知識も豊富な、確固たる自分をもっている強者。
なのに今、華候焔が俺に弱さを晒している。
なぜそこまで俺を求めてくれる?
俺が華候焔に勝ることなど何もないのに。
少し考えて、俺は答えを決める。
一度息を大きく吸い込んでから、華候焔のたくましい背中に手を回した。
「焔、俺から提案させてくれ」
「なんだ、誠人?」
「こういうことで取り引きするのは嫌だ。だから澗宇のことも、他のことも、無理に教えてくれなくてもいい」
「……そうか。つまり俺を拒むと――」
「いや。焔の本気を受け止める。だから本気を出してくれ……それについて見返りは求めない」
華候焔の息遣いが止まる。
その刹那――ぎゅう、と。華候焔は俺を力強く抱き締めた。
「許して、くれるのか……ありがとう」
低くかすれた声に、華候焔の心が伝わってくる。
本気を出せば誰もついて来ない。相手の心身が壊れる。だから力を抑え、世を遊んで生きるしかなかった。
ふと華候焔が東郷さんと重なる。
東郷さんは遊びとは無縁だが、あの人も本気を出せず、自分を抑えるしかない人だから。
本気で言っているのかと俺が目を見張っていると、華候焔がうっすらと微笑む。
「才明から色々教えてもらって、誠人も知り始めているのだろ? この世界のことを……本当は俺が先に教えたかったところだが、先を越されてしまった。これ以上後手に回るのは性じゃない」
思いがけず気にかけていたことを言われ、俺は息を飲み込む。
こんな言い方をするということは、やはり華候焔も現実にいる誰かなのか。
知りたい。
華候焔の正体も、この世界の真実も。
自分の心が前のめりになってくのを感じる。だが、すぐには頷けなかった。
心を捧げて欲しいというのは、恋愛する相手として受け入れろということなのか?
華候焔に心まで預けて愛でられろと? この世界でも、現実でも――。
一気に体がカッと熱くなり、俺は華候焔から目を逸らす。
こうして体の関係を持っているのは、勝ち上がるための褒美としてやむを得なく、だ。好きでやっている訳じゃない。
それを褒美目的以外でも関係を持つということになれば、俺は……。
即決できない俺をからかうように、華候焔が小さく吹き出す。
おもむろに華候焔は俺の耳元へ唇を寄せてそっと囁く。
「ずっと俺は、心置きなく本気になれる人間が欲しかったんだ。こっちでも、あっちでも……誠人。俺は本気を出して生きたい」
「焔……」
「頼む。俺に許しをくれ……誠人」
俺よりも遥かに力があり、経験も知識も豊富な、確固たる自分をもっている強者。
なのに今、華候焔が俺に弱さを晒している。
なぜそこまで俺を求めてくれる?
俺が華候焔に勝ることなど何もないのに。
少し考えて、俺は答えを決める。
一度息を大きく吸い込んでから、華候焔のたくましい背中に手を回した。
「焔、俺から提案させてくれ」
「なんだ、誠人?」
「こういうことで取り引きするのは嫌だ。だから澗宇のことも、他のことも、無理に教えてくれなくてもいい」
「……そうか。つまり俺を拒むと――」
「いや。焔の本気を受け止める。だから本気を出してくれ……それについて見返りは求めない」
華候焔の息遣いが止まる。
その刹那――ぎゅう、と。華候焔は俺を力強く抱き締めた。
「許して、くれるのか……ありがとう」
低くかすれた声に、華候焔の心が伝わってくる。
本気を出せば誰もついて来ない。相手の心身が壊れる。だから力を抑え、世を遊んで生きるしかなかった。
ふと華候焔が東郷さんと重なる。
東郷さんは遊びとは無縁だが、あの人も本気を出せず、自分を抑えるしかない人だから。
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる