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八話 本当の仲間は誰?
戦わない道
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しばらく俺は二人の話に耳を傾け続ける。
華候焔が手堅い道を選びたがるのはよく分かる。恐らく才明以外は誰もがこの意見に賛同すると思う。俺も本音は華候焔と同じだ。手を出すのは危険すぎる。
だが才明の、より多くの資材を得るために手を打ちたい気持ちも分かる。
ここで一気に力をつければ、他の領主たちを出し抜くことができる。弱小と侮っている今が一番隙を突けるだろう。
自分から攻め込まない領主。
……なぜ戦おうとしないのだろうか? 戦うゲームと分からずにゲームをしたのだろうか?
純粋な興味が湧き上がり、俺は思わず呟いた。
「一度会ってみたいな、澗宇に」
小声だったが、この場にいる全員が同時に俺を見た。
「ど、どうしたんだ? 敵である他領主に会えるとは思っていないが――」
「領主様がお望みでしたら、打診してみましょうか? もし叶うとすれば、相手の本城へこちらから向かうことになると思いますが……」
才明が口元に手を当てて考え込む。華候焔も腕を組んで思案し始める。
二人の様子が変わってしまい、内心俺が不安を覚えていると、白澤がフワリと上体を起こして俺に顔――タオルの端にしか見えないが――を向けた。
「誠人サマー、領主が領主に会う時は、ほとんどは戦で本城を落として領主を捕らえた時ですー」
「ほとんどは?」
「かなり珍しい例ですが、同盟を組んだ時に関係を深めるための宴を開きますー。その時に領主同士が顔を合わせて酒を飲み交わすのですー」
同盟。
もし手を結ぶことができれば、こちらにとっては利点が大きい気がする。
戦をしないとはいえ格上。しかも資源は豊富にある。
同盟を結んだとことが知れ渡れば、強力な後ろ盾を得たと他の領主たちを牽制することができる。
だが澗宇にも利点がなければ同盟は成り立たない。
華候焔や才明を始めとして優秀な将を登用しているが、人材の豊富さは澗宇のほうが上だろう。きっとこちらにあるものは相手もあるはず。
こちらから澗宇に差し出せるものがない。ならば同盟は無理だと俺は自分の中で結論付ける。しかし、
「良いじゃないですか、同盟。戦うことばかり考えておりましたが、相手が澗宇ならば話が通じる可能性があります」
才明が顔から手を離し、ニヤリと引き上がった口元を見せる。
「もし平和主義で戦を仕掛けないとすれば、歴然とした力の差があったとしても、こちらに危害を加える真似はしないでしょう……最悪でも門前払い。上手くいけば有力者との同盟。良い選択だと思いませんか、華候焔殿?」
話を振られた華候焔は、すぐに思案をやめなかった。
珍しく深刻な顔で考え続け――フッ、と笑った。
「ああ。たまには平和的解決っていうのも良いと思うぞ。使者を出して返事を待つだけだしな」
「では同盟を打診してみましょう。よろしいですか誠人様?」
才明に確認を取られて俺は「ああ」と頷く。
その時、ふと華候焔の表情が緩んだ気がした。
俺の判断に安堵した? 澗宇の所へ攻め込まないことになったからか?
いつもの華候焔らしくない気配に、俺の胸が小さくざわついた。
華候焔が手堅い道を選びたがるのはよく分かる。恐らく才明以外は誰もがこの意見に賛同すると思う。俺も本音は華候焔と同じだ。手を出すのは危険すぎる。
だが才明の、より多くの資材を得るために手を打ちたい気持ちも分かる。
ここで一気に力をつければ、他の領主たちを出し抜くことができる。弱小と侮っている今が一番隙を突けるだろう。
自分から攻め込まない領主。
……なぜ戦おうとしないのだろうか? 戦うゲームと分からずにゲームをしたのだろうか?
純粋な興味が湧き上がり、俺は思わず呟いた。
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小声だったが、この場にいる全員が同時に俺を見た。
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才明が口元に手を当てて考え込む。華候焔も腕を組んで思案し始める。
二人の様子が変わってしまい、内心俺が不安を覚えていると、白澤がフワリと上体を起こして俺に顔――タオルの端にしか見えないが――を向けた。
「誠人サマー、領主が領主に会う時は、ほとんどは戦で本城を落として領主を捕らえた時ですー」
「ほとんどは?」
「かなり珍しい例ですが、同盟を組んだ時に関係を深めるための宴を開きますー。その時に領主同士が顔を合わせて酒を飲み交わすのですー」
同盟。
もし手を結ぶことができれば、こちらにとっては利点が大きい気がする。
戦をしないとはいえ格上。しかも資源は豊富にある。
同盟を結んだとことが知れ渡れば、強力な後ろ盾を得たと他の領主たちを牽制することができる。
だが澗宇にも利点がなければ同盟は成り立たない。
華候焔や才明を始めとして優秀な将を登用しているが、人材の豊富さは澗宇のほうが上だろう。きっとこちらにあるものは相手もあるはず。
こちらから澗宇に差し出せるものがない。ならば同盟は無理だと俺は自分の中で結論付ける。しかし、
「良いじゃないですか、同盟。戦うことばかり考えておりましたが、相手が澗宇ならば話が通じる可能性があります」
才明が顔から手を離し、ニヤリと引き上がった口元を見せる。
「もし平和主義で戦を仕掛けないとすれば、歴然とした力の差があったとしても、こちらに危害を加える真似はしないでしょう……最悪でも門前払い。上手くいけば有力者との同盟。良い選択だと思いませんか、華候焔殿?」
話を振られた華候焔は、すぐに思案をやめなかった。
珍しく深刻な顔で考え続け――フッ、と笑った。
「ああ。たまには平和的解決っていうのも良いと思うぞ。使者を出して返事を待つだけだしな」
「では同盟を打診してみましょう。よろしいですか誠人様?」
才明に確認を取られて俺は「ああ」と頷く。
その時、ふと華候焔の表情が緩んだ気がした。
俺の判断に安堵した? 澗宇の所へ攻め込まないことになったからか?
いつもの華候焔らしくない気配に、俺の胸が小さくざわついた。
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