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八話 本当の仲間は誰?
複雑な心を晴らすために2
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何度も英正と棍を打ち付け合い、力を振るい続けていると、次第に胸に抱えていた燻りが気にならなくなっていく。
目の前の英正に神経が集中していく。
力を出せば、そのままを受け止めてくれる。
素直な戦い方だ。駆け引きらしいものがない。
手合わせの相手としては少し物足りなさを感じるが、今の俺はそんな英正の姿勢に癒しを覚える。
時折、俺と棍をぶつけて競り合わせる時、英正は俺に熱い視線をぶつけてくる。
真面目に手合わせしているが、内に秘めた想いが溢れ出てしまうのだろう。体を合わせてしまうと、相手の心の機微が見えやすくなってしまう。
ましてや素直な英正だ。分かりやす過ぎて、気を抜くと俺が恥ずかしさで顔を熱くしそうだ。
だから自分が揺れてしまわないよう、俺は戦うことに専念していく。
そうして思う存分に棍を振るっている内に心が晴れていく。
華候焔も才明もたぐい稀なる人材。彼らのペースに巻き込まれてしまうと自分を見失ってしまう。
彼らはそれぞれに狙いがあり、俺を利用するために領主であり続けさせようとしている――それでいい。おかげで俺は敗者にならず助かっている。完全に気を許せはしないが、不要に己の無力さと比べる必要はない。
俺は俺だ。心を揺らさぬことも強さの内だ。
考えの落としどころを見つけた瞬間、俺は大きく棍を振り上げ、英正の棍に強く打ち付け――カラン、カラン……。英正の手から弾かれた棍が転がった。
「参りました。やはり領主様はお強いですね」
額から汗を流し、軽く息を切らせながら英正が笑いかけてくる。
体とともに解れた心に、その笑顔はとてもよく沁みてむず痒くなった。
「ありがとう。英正のおかげで気が晴れた。またこれからも頑張れる」
「領主様……何かあったのですか?」
「……いや。俺が勝手に焦って不安になっていただけだ。何を知ったとしても、やるべきことは変わらない……やっと腹が括れた気がする」
事情をよく知らない英正がジッと俺の目を見つめてくる。
最初はどこか不思議そうな眼差し。だが次第に英正の目は俺の深い所を覗こうとするように、真剣で重みを感じるものへと変わっていく。
不意に英正の手が俺の頬へと伸びてくる。
何をするのかを察した時には、もう俺の唇は奪われていた。
互いに動き続けて体が温まったままでの口付け。
浅く差し込まれる舌のくすぐったさと熱さに、俺の意識がさらわれる。
優しい疼きを覚えていると、英正が顔を離して俺を見つめてくる。
いつになく大人びいた穏やかな笑みに俺の目まで奪われた。
「未熟者の私でも、領主様の背中を押させて頂くことができて嬉しいです……悩むことがあっても前に進む足を止めないその姿勢にあやかりたいです」
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいが、揺れてばかりの領主では――」
「揺れるからこそ支えたいと思いますし、私も強くなろうと足掻きたくなります。だから、どうか今のお心を大切にして下さい……誠人様」
言い終えてすぐ、また英正が唇を重ねてくる。
忠誠と想いが入り混じったキス。誰かに見られては困るのに跳ね除けることができず、俺はそのまま受け止めた。
目の前の英正に神経が集中していく。
力を出せば、そのままを受け止めてくれる。
素直な戦い方だ。駆け引きらしいものがない。
手合わせの相手としては少し物足りなさを感じるが、今の俺はそんな英正の姿勢に癒しを覚える。
時折、俺と棍をぶつけて競り合わせる時、英正は俺に熱い視線をぶつけてくる。
真面目に手合わせしているが、内に秘めた想いが溢れ出てしまうのだろう。体を合わせてしまうと、相手の心の機微が見えやすくなってしまう。
ましてや素直な英正だ。分かりやす過ぎて、気を抜くと俺が恥ずかしさで顔を熱くしそうだ。
だから自分が揺れてしまわないよう、俺は戦うことに専念していく。
そうして思う存分に棍を振るっている内に心が晴れていく。
華候焔も才明もたぐい稀なる人材。彼らのペースに巻き込まれてしまうと自分を見失ってしまう。
彼らはそれぞれに狙いがあり、俺を利用するために領主であり続けさせようとしている――それでいい。おかげで俺は敗者にならず助かっている。完全に気を許せはしないが、不要に己の無力さと比べる必要はない。
俺は俺だ。心を揺らさぬことも強さの内だ。
考えの落としどころを見つけた瞬間、俺は大きく棍を振り上げ、英正の棍に強く打ち付け――カラン、カラン……。英正の手から弾かれた棍が転がった。
「参りました。やはり領主様はお強いですね」
額から汗を流し、軽く息を切らせながら英正が笑いかけてくる。
体とともに解れた心に、その笑顔はとてもよく沁みてむず痒くなった。
「ありがとう。英正のおかげで気が晴れた。またこれからも頑張れる」
「領主様……何かあったのですか?」
「……いや。俺が勝手に焦って不安になっていただけだ。何を知ったとしても、やるべきことは変わらない……やっと腹が括れた気がする」
事情をよく知らない英正がジッと俺の目を見つめてくる。
最初はどこか不思議そうな眼差し。だが次第に英正の目は俺の深い所を覗こうとするように、真剣で重みを感じるものへと変わっていく。
不意に英正の手が俺の頬へと伸びてくる。
何をするのかを察した時には、もう俺の唇は奪われていた。
互いに動き続けて体が温まったままでの口付け。
浅く差し込まれる舌のくすぐったさと熱さに、俺の意識がさらわれる。
優しい疼きを覚えていると、英正が顔を離して俺を見つめてくる。
いつになく大人びいた穏やかな笑みに俺の目まで奪われた。
「未熟者の私でも、領主様の背中を押させて頂くことができて嬉しいです……悩むことがあっても前に進む足を止めないその姿勢にあやかりたいです」
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいが、揺れてばかりの領主では――」
「揺れるからこそ支えたいと思いますし、私も強くなろうと足掻きたくなります。だから、どうか今のお心を大切にして下さい……誠人様」
言い終えてすぐ、また英正が唇を重ねてくる。
忠誠と想いが入り混じったキス。誰かに見られては困るのに跳ね除けることができず、俺はそのまま受け止めた。
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