116 / 345
七話 現実が繋がる時
新たな出会い
しおりを挟む
「あー残念……でも個人的に話を聞きたいので、正代選手、練習後に取材いいですか? 長くはかかりませんから」
言いながら仲林さんは俺の手を握り、名刺を渡してくる。
その手を東郷さんは軽く払い、俺から引き離してしまった。
「では私たちはこれで。練習に行かせてもらいます」
仲林さんの話を聞かず、東郷さんは俺の肩に手を置いて一緒に歩くよう促してくる。
……これは現実なのか? ゲームをしている時よりも夢を見ているようだ。
試合では誰も寄せ付けぬ冷たさすら感じたのに、まさかこんなに距離が近い人だったなんて意外すぎる。
練習に行かなければいけないのは間違いない。俺は名刺をズボンのポケットにしまい、東郷さんの歩みに合わせながら施設の中へ入っていく。
ロビーに入ると既に練習している選手たちの掛け声や、バンッと投げ技を受けた音が聞こえてくる。
俺も気を引き締めてやらねばと意気込んでいると、不意に東郷さんが足を止める。思わず振り向けば、感情が見えない鋭い目が俺を見つめていた。
気のせいだろうか。前の試合で見せた冷ややかな眼差しとは違い、どこか気遣いというか、優しさが見え隠れしているような気がした。
「東郷さん、どうされましたか?」
俺が尋ねると東郷さんからかすかに息を引く音がした。
「いや、すまない。少し考え事をしてしまった……今回は俺の頼みを受けて合宿へ参加してくれて感謝する、正代君」
「こちらこそ貴重な機会を頂き、ありがとうございます。自分では東郷さんのお相手は力量不足かもしれませんが、精一杯頑張ります。すぐに準備しますので――」
軽い緊張を覚えながら俺は口を動かし続ける。
俺に常敗を与え続ける相手。その顔を見ると次こそは負けたくないと闘志が燃える。
それと同時に強くあり続ける姿に憧れのような、畏れのような、悔しさ以外の感情も入り混じる。
まだ準備運動すらしていないのに鼓動が早くなる。
思うように言葉をまとめられずにいると、階段側から疎らな足音が聞こえてきた。
俺と東郷さんが振り向くと、背広を着た人たちが談笑しながらこちらへ向かって来ていた。
不意に彼らの中央を歩く口ひげを生やした身なりのいい男性が、俺たちに向けて「やあ」と軽く手を挙げた。
「君が正代君だね、よく来てくれた。うちの東郷が世話になるよ」
オールバックの黒髪に、日本人離れした鷲鼻。上質な濃いグレーの背広をまとっていても着負けしない、凛とした佇まい。
手を差し出され、俺は戸惑いながらも男性と握手を交わす。
がっちりと俺を握ってくる手は力強く、内に秘めた活力が伝わってきた。
言いながら仲林さんは俺の手を握り、名刺を渡してくる。
その手を東郷さんは軽く払い、俺から引き離してしまった。
「では私たちはこれで。練習に行かせてもらいます」
仲林さんの話を聞かず、東郷さんは俺の肩に手を置いて一緒に歩くよう促してくる。
……これは現実なのか? ゲームをしている時よりも夢を見ているようだ。
試合では誰も寄せ付けぬ冷たさすら感じたのに、まさかこんなに距離が近い人だったなんて意外すぎる。
練習に行かなければいけないのは間違いない。俺は名刺をズボンのポケットにしまい、東郷さんの歩みに合わせながら施設の中へ入っていく。
ロビーに入ると既に練習している選手たちの掛け声や、バンッと投げ技を受けた音が聞こえてくる。
俺も気を引き締めてやらねばと意気込んでいると、不意に東郷さんが足を止める。思わず振り向けば、感情が見えない鋭い目が俺を見つめていた。
気のせいだろうか。前の試合で見せた冷ややかな眼差しとは違い、どこか気遣いというか、優しさが見え隠れしているような気がした。
「東郷さん、どうされましたか?」
俺が尋ねると東郷さんからかすかに息を引く音がした。
「いや、すまない。少し考え事をしてしまった……今回は俺の頼みを受けて合宿へ参加してくれて感謝する、正代君」
「こちらこそ貴重な機会を頂き、ありがとうございます。自分では東郷さんのお相手は力量不足かもしれませんが、精一杯頑張ります。すぐに準備しますので――」
軽い緊張を覚えながら俺は口を動かし続ける。
俺に常敗を与え続ける相手。その顔を見ると次こそは負けたくないと闘志が燃える。
それと同時に強くあり続ける姿に憧れのような、畏れのような、悔しさ以外の感情も入り混じる。
まだ準備運動すらしていないのに鼓動が早くなる。
思うように言葉をまとめられずにいると、階段側から疎らな足音が聞こえてきた。
俺と東郷さんが振り向くと、背広を着た人たちが談笑しながらこちらへ向かって来ていた。
不意に彼らの中央を歩く口ひげを生やした身なりのいい男性が、俺たちに向けて「やあ」と軽く手を挙げた。
「君が正代君だね、よく来てくれた。うちの東郷が世話になるよ」
オールバックの黒髪に、日本人離れした鷲鼻。上質な濃いグレーの背広をまとっていても着負けしない、凛とした佇まい。
手を差し出され、俺は戸惑いながらも男性と握手を交わす。
がっちりと俺を握ってくる手は力強く、内に秘めた活力が伝わってきた。
2
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

異世界で騎士団寮長になりまして
円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎
天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。
王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。
異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。
「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」
「「そういうこと」」
グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。
一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。
やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。
二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる