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六話 将の育成は体を張って
感覚の共有で経験を
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ぞくり。表涼の笑みに俺の背筋がざわつく。
既に魔性を宿しているその体から、羽勳と同じような気配を感じる。
毒を以て毒を制す。そんな言葉が俺の頭をよぎる。
狙いは分かったが、にわかに受け入れがたく俺が困惑していると、才明がこっちへ来て欲しそうに手招く。
望まれるままに歩み寄れば、才明は俺にそっと耳打ちした。
「彼には羽勳だけでなく、他の将の相手もしてもらう予定なのですが……実は将に成り上がったばかりでは、経験が何も詰まれていない状態なのですよ」
「それは、つまり?」
「なぜか経験豊富な設定なのに、男を知らぬという矛盾を宿しております」
一瞬理解できずに俺は眉間にシワを寄せる。そして理解して表涼を二度見した。
「ま、待て! じゃあ今は何も知らず、行為に憧れているだけということにならないか? あんなに百戦錬磨の気配を漂わせているのに……」
「そうなんですよ。さすがに経験ゼロで羽勳の相手をさせるのはどうかと思うので、表涼の育成を誠人様にお願いします」
「俺が、その、行為を教えるのか!?」
「はい。あ、でも表涼を抱くのではありませんよ。誠人様にしばらくこちらを着けてもらい、表涼と感覚の共有をしてもらいます」
才明は懐を弄り、緑の翡翠で作られたような腕輪を取り出す。
細くシンプルな輪だが、中央に真紅の丸い石が埋め込まれている。
感覚の共有とはなんだ? と首を傾げていると、才明が「ちょっと失礼」と俺の右手を取って腕輪をはめてしまう。
その途端、赤い石が強く輝いて光の筋を生む。目で辿って行けばそれは表涼に向かい、彼の手首にある同じ腕輪に繋がっていた。
「これは托生の腕輪。本来は熟達した武将が若き将を早く育てるため、これを着けて戦い方や技を体感させて経験を積ませ、コツを覚えさせることができます。しかし今回は性の経験……誠人様には今日と明日、華候焔殿や英正殿に抱き潰されて頂きます。もちろん私も協力しますから」
「なんだその注文は! 無理に知らない者に教えるよりも、羽勳を登用しない道を選んだほうがいい」
「しかし、そうなれば羽勳は太史翔の元へ戻り、ここを効率よく攻めて来るでしょう。こちらの実情を知ってしまいましたからね。ただの敵よりも厄介……ならば味方に引き入れ、魔性の性欲に付き合える餌を与えたほうが得策です」
ただの気まぐれでも戯れでもなく、勝つために必要な策。受け入れなくてはいけないと思いはしても、いつまでも心が納得できず渋っていると――。
――ガッ。大きな手が俺の肩をしっかりと掴んだ。
「話は聞かせてもらったぞ。モタモタしていたら太史翔が攻めて来る。一刻も早く手を打たないとな!」
顔を見ずとも、手の重みと声で華候焔だと分かってしまう。
一番厄介な者に聞かれてしまったと後悔しても、もう遅かった。
華候焔は問答無用で俺を肩に担ぎ、心の底から愉快げに笑った。
「昼間は俺がたっぷりと仕込んでやるから、夜はどうするか英正と才明で話し合って決めろ」
「分かりました。色々なことをさせるほど経験が増えますから、思いつく限り誠人様に教えて差し上げて下さい」
それはもうにこやかな声で才明が華候焔を煽るような注文をつける。
正規の方法では負けるしかない弱小領主には選択権がないのだ……と俺の気が遠退く。
そんな途方に暮れるしかない俺へ、表涼は「領主様と共にに頑張ります」とうっとりした笑顔で決意を露わにしていた。
既に魔性を宿しているその体から、羽勳と同じような気配を感じる。
毒を以て毒を制す。そんな言葉が俺の頭をよぎる。
狙いは分かったが、にわかに受け入れがたく俺が困惑していると、才明がこっちへ来て欲しそうに手招く。
望まれるままに歩み寄れば、才明は俺にそっと耳打ちした。
「彼には羽勳だけでなく、他の将の相手もしてもらう予定なのですが……実は将に成り上がったばかりでは、経験が何も詰まれていない状態なのですよ」
「それは、つまり?」
「なぜか経験豊富な設定なのに、男を知らぬという矛盾を宿しております」
一瞬理解できずに俺は眉間にシワを寄せる。そして理解して表涼を二度見した。
「ま、待て! じゃあ今は何も知らず、行為に憧れているだけということにならないか? あんなに百戦錬磨の気配を漂わせているのに……」
「そうなんですよ。さすがに経験ゼロで羽勳の相手をさせるのはどうかと思うので、表涼の育成を誠人様にお願いします」
「俺が、その、行為を教えるのか!?」
「はい。あ、でも表涼を抱くのではありませんよ。誠人様にしばらくこちらを着けてもらい、表涼と感覚の共有をしてもらいます」
才明は懐を弄り、緑の翡翠で作られたような腕輪を取り出す。
細くシンプルな輪だが、中央に真紅の丸い石が埋め込まれている。
感覚の共有とはなんだ? と首を傾げていると、才明が「ちょっと失礼」と俺の右手を取って腕輪をはめてしまう。
その途端、赤い石が強く輝いて光の筋を生む。目で辿って行けばそれは表涼に向かい、彼の手首にある同じ腕輪に繋がっていた。
「これは托生の腕輪。本来は熟達した武将が若き将を早く育てるため、これを着けて戦い方や技を体感させて経験を積ませ、コツを覚えさせることができます。しかし今回は性の経験……誠人様には今日と明日、華候焔殿や英正殿に抱き潰されて頂きます。もちろん私も協力しますから」
「なんだその注文は! 無理に知らない者に教えるよりも、羽勳を登用しない道を選んだほうがいい」
「しかし、そうなれば羽勳は太史翔の元へ戻り、ここを効率よく攻めて来るでしょう。こちらの実情を知ってしまいましたからね。ただの敵よりも厄介……ならば味方に引き入れ、魔性の性欲に付き合える餌を与えたほうが得策です」
ただの気まぐれでも戯れでもなく、勝つために必要な策。受け入れなくてはいけないと思いはしても、いつまでも心が納得できず渋っていると――。
――ガッ。大きな手が俺の肩をしっかりと掴んだ。
「話は聞かせてもらったぞ。モタモタしていたら太史翔が攻めて来る。一刻も早く手を打たないとな!」
顔を見ずとも、手の重みと声で華候焔だと分かってしまう。
一番厄介な者に聞かれてしまったと後悔しても、もう遅かった。
華候焔は問答無用で俺を肩に担ぎ、心の底から愉快げに笑った。
「昼間は俺がたっぷりと仕込んでやるから、夜はどうするか英正と才明で話し合って決めろ」
「分かりました。色々なことをさせるほど経験が増えますから、思いつく限り誠人様に教えて差し上げて下さい」
それはもうにこやかな声で才明が華候焔を煽るような注文をつける。
正規の方法では負けるしかない弱小領主には選択権がないのだ……と俺の気が遠退く。
そんな途方に暮れるしかない俺へ、表涼は「領主様と共にに頑張ります」とうっとりした笑顔で決意を露わにしていた。
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