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●五話 平等で甘美な褒美
ようやく辿り着いた中断ポイント
しおりを挟む意識が闇に沈んでいく。
連続で抱き潰されるというのはどうなんだ? という悩ましさを抱えながら、俺はようやく中断ポイントへ辿り着くことができた。
前は音声の案内だけだった中断の手続き。
しかし今、闇の中に白く小さな毛玉がフワフワと浮かんでいた。
「誠人サマー、お疲れ様ですー」
「白澤! どうしてここに?」
「直接労いたかったのに、皆さん誠人サマにがっついて声かけられなかったので、夢に入っちゃいましたー。いや、もう本っっっっ当にお疲れ様でしたー」
間延びした声で労いを強調され、俺は小さく吹き出した。
「ありがとう。大変だったが、褒美だから仕方ない。戦で命をかけてもらっているからな。これぐらいで納得してくれるなら、むしろありがたい」
「……ええー? えっちなこといっぱいされて抱き潰されたのに、よく言えますねー? もしかしてハマっちゃいましたー?」
「ち、違う。財も何もなくて報酬を与えられないのに、俺の体ひとつで勝てているんだ……負けたくないんだ」
現実で負けを重ねてきた身。それを打ち破るにはゲームと言えど、勝ちに貪欲でありたい。ましてや不穏な気配があるこのゲームで負ければ、取り返しのつかないことになる。
俺が気持ちを引き締めていると、白澤がふと呟いた。
「やっぱり強いですねー、誠人サマは」
「いいや、弱いんだ俺は。分かっているから強くありたいと足掻いている。つまり意地を張っているだけだ。強くなんかない」
「強いですよー。少なくともワタシなんかよりもずっと……」
引っかかる言い方に俺は首を傾げて尋ねかける。
だが白澤は「あー、そうそう」と声を上げて話題を切り替えた。
「顔鐡から伝言ですー。自分の褒美は宴の美酒で足りたから、どうかゆっくり休んで欲しい……とのことですよー」
あきらかに俺の状況を鑑みた上での判断だろう。本来なら顔鐡にも体を張った褒美を与える約束――あくまで戦いの手合わせだが――をしていたから、それを終わらせないと中断できない。
顔鐡の情けが今の俺には優しく沁みる。ゲームを再開した時には一番最初に手合わせしようと心に誓う。
「さあ誠人サマ、ゲームを中断しちゃいますかー?」
「ああ。ちゃんと三日以内に再開する。また次もよろしく頼む、白澤」
「……もちろんですー。将は増えましたけれど、ワタシのことも頼って下さいねー。ご帰還、お待ちしておりますー」
毛玉の両端から小さな手が飛び出て、ヒラヒラと振ってくる。
長い毛のせいで目鼻口が隠れて見えない――酒は飲めるから、口はあるらしい――白澤の感情を掴むのは難しいが、心から俺の戻りを望んでいる気配がした。
長いゲームでの時を終え、俺は現実に戻る。
時計を見ればやはり数分しか経っておらず、俺は顔をしかめながらVRのゴーグルを見つめるばかりだった。
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