68 / 345
四話 追い駆ける者、待つ者
暴走
しおりを挟む
「おやおや、まさか雷獣化できる将がいたとは……」
隣で感嘆の息を吐きながら才明が呟く。
「雷獣化?」
「体に雷を宿し、身体能力を爆発的に上げる技です。しかも相手が触れれば、小さな雷に打たれてしまう……非常に強力な技ですが、厄介で扱いづらいのですよ」
才明の話を聞きながら、俺はなんとなくその厄介さに気づく。
手合わせをしたから、動きを見れば英正がどういう状態かは察しがつく。
槍の縦横無尽に振り回し、素早い身のこなしで拳を振るい、体当たりで敵兵を吹っ飛ばす――無茶苦茶だ。とにかく手当たり次第、その瞬間にやりたいことを反射でこなしているような動きだ。
理性の欠片も感じさせない戦い方。俺の背筋がゾッとなった。
「……雷獣化すると、我を忘れてしまうのか」
「その通り、狂戦士と化します。敵味方関係なく、近くにいる者を殲滅してしまうのですよ。どうやら予定通りみたいですね、味方の兵が彼の近くにまったくいないようですから」
言われてみれば、確かに英正の周りで倒れているのは敵兵ばかり。
触れるだけで雷に打たれてしまうのだ。いくら兵が多くとも、これでは数の暴力が利かない。
この技を授けてくれたのは華候焔だ。おそらく彼の提案で、英正はこの技を身に着けたのだろう。
獣と化しても勝ちを渇望する姿に目を奪われていると、さらに才明が教えてくれる。
「このままだと戦には勝ちますが、雷獣化はやり過ぎると元に戻らず、力を使い果たして死んでしまいます」
「な……っ」
「そろそろ元に戻すことをおすすめしますが、自分では戻れないのですよ。誰かがあの槍を彼から奪わないといけません」
「……槍に触れても雷に打たれるのだろ?」
「ええ。なので腕の良い弓使いに矢を射ってもらい、手放させるのですが……誰かおりますか?」
「華候焔だな。弓の腕も立つ」
「あの人、弓もいけるのですか? 本当に武の怪物ですねえ。ということは、彼がここへ駆けつけるまで待たなくてはいけませんね。それまで保てばいいのですが……」
英正の周辺は多くの敵兵が倒れている。しかし数百メートルほど離れたならば、未だ敵味方がぶつかり合う激戦の最中だ。
きっと華候焔は駆け付けようとしているのだろう。しかし果たして間に合うのだろうか?
俺は一瞬考え、そして馬を降りた。
「白澤、俺を雷から守ることはできるか?」
「できますけれど、完全には防ぎ切れませんよー。誠人サマが英正に討たれちゃったらおしまいですよー? 華候焔を待ちましょうー」
「いや、待っていたら英正の負担が大きくなるだけだ。先に着いた者がどうにかしたほうがいい。白澤、頼んだぞ」
俺は肩で引き止めようと訴える白澤をそのままに、英正の元へ駆け出した。
隣で感嘆の息を吐きながら才明が呟く。
「雷獣化?」
「体に雷を宿し、身体能力を爆発的に上げる技です。しかも相手が触れれば、小さな雷に打たれてしまう……非常に強力な技ですが、厄介で扱いづらいのですよ」
才明の話を聞きながら、俺はなんとなくその厄介さに気づく。
手合わせをしたから、動きを見れば英正がどういう状態かは察しがつく。
槍の縦横無尽に振り回し、素早い身のこなしで拳を振るい、体当たりで敵兵を吹っ飛ばす――無茶苦茶だ。とにかく手当たり次第、その瞬間にやりたいことを反射でこなしているような動きだ。
理性の欠片も感じさせない戦い方。俺の背筋がゾッとなった。
「……雷獣化すると、我を忘れてしまうのか」
「その通り、狂戦士と化します。敵味方関係なく、近くにいる者を殲滅してしまうのですよ。どうやら予定通りみたいですね、味方の兵が彼の近くにまったくいないようですから」
言われてみれば、確かに英正の周りで倒れているのは敵兵ばかり。
触れるだけで雷に打たれてしまうのだ。いくら兵が多くとも、これでは数の暴力が利かない。
この技を授けてくれたのは華候焔だ。おそらく彼の提案で、英正はこの技を身に着けたのだろう。
獣と化しても勝ちを渇望する姿に目を奪われていると、さらに才明が教えてくれる。
「このままだと戦には勝ちますが、雷獣化はやり過ぎると元に戻らず、力を使い果たして死んでしまいます」
「な……っ」
「そろそろ元に戻すことをおすすめしますが、自分では戻れないのですよ。誰かがあの槍を彼から奪わないといけません」
「……槍に触れても雷に打たれるのだろ?」
「ええ。なので腕の良い弓使いに矢を射ってもらい、手放させるのですが……誰かおりますか?」
「華候焔だな。弓の腕も立つ」
「あの人、弓もいけるのですか? 本当に武の怪物ですねえ。ということは、彼がここへ駆けつけるまで待たなくてはいけませんね。それまで保てばいいのですが……」
英正の周辺は多くの敵兵が倒れている。しかし数百メートルほど離れたならば、未だ敵味方がぶつかり合う激戦の最中だ。
きっと華候焔は駆け付けようとしているのだろう。しかし果たして間に合うのだろうか?
俺は一瞬考え、そして馬を降りた。
「白澤、俺を雷から守ることはできるか?」
「できますけれど、完全には防ぎ切れませんよー。誠人サマが英正に討たれちゃったらおしまいですよー? 華候焔を待ちましょうー」
「いや、待っていたら英正の負担が大きくなるだけだ。先に着いた者がどうにかしたほうがいい。白澤、頼んだぞ」
俺は肩で引き止めようと訴える白澤をそのままに、英正の元へ駆け出した。
4
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

異世界で騎士団寮長になりまして
円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎
天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。
王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。
異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。
「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」
「「そういうこと」」
グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。
一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。
やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。
二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる