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四話 追い駆ける者、待つ者
暴走
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「おやおや、まさか雷獣化できる将がいたとは……」
隣で感嘆の息を吐きながら才明が呟く。
「雷獣化?」
「体に雷を宿し、身体能力を爆発的に上げる技です。しかも相手が触れれば、小さな雷に打たれてしまう……非常に強力な技ですが、厄介で扱いづらいのですよ」
才明の話を聞きながら、俺はなんとなくその厄介さに気づく。
手合わせをしたから、動きを見れば英正がどういう状態かは察しがつく。
槍の縦横無尽に振り回し、素早い身のこなしで拳を振るい、体当たりで敵兵を吹っ飛ばす――無茶苦茶だ。とにかく手当たり次第、その瞬間にやりたいことを反射でこなしているような動きだ。
理性の欠片も感じさせない戦い方。俺の背筋がゾッとなった。
「……雷獣化すると、我を忘れてしまうのか」
「その通り、狂戦士と化します。敵味方関係なく、近くにいる者を殲滅してしまうのですよ。どうやら予定通りみたいですね、味方の兵が彼の近くにまったくいないようですから」
言われてみれば、確かに英正の周りで倒れているのは敵兵ばかり。
触れるだけで雷に打たれてしまうのだ。いくら兵が多くとも、これでは数の暴力が利かない。
この技を授けてくれたのは華候焔だ。おそらく彼の提案で、英正はこの技を身に着けたのだろう。
獣と化しても勝ちを渇望する姿に目を奪われていると、さらに才明が教えてくれる。
「このままだと戦には勝ちますが、雷獣化はやり過ぎると元に戻らず、力を使い果たして死んでしまいます」
「な……っ」
「そろそろ元に戻すことをおすすめしますが、自分では戻れないのですよ。誰かがあの槍を彼から奪わないといけません」
「……槍に触れても雷に打たれるのだろ?」
「ええ。なので腕の良い弓使いに矢を射ってもらい、手放させるのですが……誰かおりますか?」
「華候焔だな。弓の腕も立つ」
「あの人、弓もいけるのですか? 本当に武の怪物ですねえ。ということは、彼がここへ駆けつけるまで待たなくてはいけませんね。それまで保てばいいのですが……」
英正の周辺は多くの敵兵が倒れている。しかし数百メートルほど離れたならば、未だ敵味方がぶつかり合う激戦の最中だ。
きっと華候焔は駆け付けようとしているのだろう。しかし果たして間に合うのだろうか?
俺は一瞬考え、そして馬を降りた。
「白澤、俺を雷から守ることはできるか?」
「できますけれど、完全には防ぎ切れませんよー。誠人サマが英正に討たれちゃったらおしまいですよー? 華候焔を待ちましょうー」
「いや、待っていたら英正の負担が大きくなるだけだ。先に着いた者がどうにかしたほうがいい。白澤、頼んだぞ」
俺は肩で引き止めようと訴える白澤をそのままに、英正の元へ駆け出した。
隣で感嘆の息を吐きながら才明が呟く。
「雷獣化?」
「体に雷を宿し、身体能力を爆発的に上げる技です。しかも相手が触れれば、小さな雷に打たれてしまう……非常に強力な技ですが、厄介で扱いづらいのですよ」
才明の話を聞きながら、俺はなんとなくその厄介さに気づく。
手合わせをしたから、動きを見れば英正がどういう状態かは察しがつく。
槍の縦横無尽に振り回し、素早い身のこなしで拳を振るい、体当たりで敵兵を吹っ飛ばす――無茶苦茶だ。とにかく手当たり次第、その瞬間にやりたいことを反射でこなしているような動きだ。
理性の欠片も感じさせない戦い方。俺の背筋がゾッとなった。
「……雷獣化すると、我を忘れてしまうのか」
「その通り、狂戦士と化します。敵味方関係なく、近くにいる者を殲滅してしまうのですよ。どうやら予定通りみたいですね、味方の兵が彼の近くにまったくいないようですから」
言われてみれば、確かに英正の周りで倒れているのは敵兵ばかり。
触れるだけで雷に打たれてしまうのだ。いくら兵が多くとも、これでは数の暴力が利かない。
この技を授けてくれたのは華候焔だ。おそらく彼の提案で、英正はこの技を身に着けたのだろう。
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「このままだと戦には勝ちますが、雷獣化はやり過ぎると元に戻らず、力を使い果たして死んでしまいます」
「な……っ」
「そろそろ元に戻すことをおすすめしますが、自分では戻れないのですよ。誰かがあの槍を彼から奪わないといけません」
「……槍に触れても雷に打たれるのだろ?」
「ええ。なので腕の良い弓使いに矢を射ってもらい、手放させるのですが……誰かおりますか?」
「華候焔だな。弓の腕も立つ」
「あの人、弓もいけるのですか? 本当に武の怪物ですねえ。ということは、彼がここへ駆けつけるまで待たなくてはいけませんね。それまで保てばいいのですが……」
英正の周辺は多くの敵兵が倒れている。しかし数百メートルほど離れたならば、未だ敵味方がぶつかり合う激戦の最中だ。
きっと華候焔は駆け付けようとしているのだろう。しかし果たして間に合うのだろうか?
俺は一瞬考え、そして馬を降りた。
「白澤、俺を雷から守ることはできるか?」
「できますけれど、完全には防ぎ切れませんよー。誠人サマが英正に討たれちゃったらおしまいですよー? 華候焔を待ちましょうー」
「いや、待っていたら英正の負担が大きくなるだけだ。先に着いた者がどうにかしたほうがいい。白澤、頼んだぞ」
俺は肩で引き止めようと訴える白澤をそのままに、英正の元へ駆け出した。
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