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四話 追い駆ける者、待つ者
犠牲ありきの作戦
しおりを挟む戦の場は、昨日まで敵陣が宿営地にしていた所からさほど離れていない平原になった。
先の戦で俺が山を利用して奇襲をかけたことを警戒しての配置だろう。
敵をこちらに追い込むと華候焔は言っていたが、障害が何もない現状で上手くいくのだろうか? と心配していたが――。
「始まりましたねー……あっ、華候焔と顔鐡が先頭を走って、隊を率いてますねー。うわー、二人とも凄いですよー! 敵兵が片っ端から吹っ飛んでますー」
小高い丘で待機する俺と一緒に戦を眺めていた白澤が、耳元で興奮気味に騒ぐ。
言われなくても、土煙から何人も人が飛ばされている光景が視界に入り、二人の猛将ぶりに俺は感嘆の息を吐くしかできなかった。
「あれだけ将に勢いがあると、敵の士気は大きく下がるだろうな」
「でしょうねー。だから早く決着をつけたがって、誠人様を狙い始めるかと――あ、言ってるそばから動き出しましたよー」
言われて目を細めて戦況を見れば、小さな黒い蠢きがこちらを向き、近づいてきているのが見える。
少しずつ俺のところまで、敵兵の怒声や移動からの地響きが届き、大きくなっていく。
間もなく衝突が始まると思い、俺は馬で丘を下りかける。と、
「領主様、急報です! こちらの手紙を、どうぞご覧になられて下さい」
兜を深々と被った一人の騎兵が丘を駆け上がり、俺に厚手の紙で綴られた手紙を運んでくる。
すぐに受け取って中身を確かめれば、そこには『才明より』と最初に書かれていた。
『そちらの作戦を利用し、すべての隊で集中して領主を討つ流れに持っていきました。誠人様のほうではなく、領主を演じている他の将の元へ行くように――』
敵隊は分散されず、俺の元には来ない。
――つまり才明の隊を除いたすべての敵兵が、英正の元へ向かう。
俺の顔から血の気が引いていく。
「どうされましたか、誠人サマー?」
白澤の声に俺は我に返り、戦意を高める。
「……英正が危ない! 今すぐ救援へ向かう」
「危険ですよー! 救援は華候焔たちに任せて、誠人サマは深入りせずに身を守ることに専念――」
「それじゃあ間に合わない。敵は一気に決めるつもりだ。今動かないと英正がやられる!」
俺は白澤の意見を聞かず、勢いよく丘を下りていく。才明からの手紙を握りしめながら――。
『――将を一人犠牲にすることになりますが、彼の分は私の智力で補います。彼らがその者を喰らう隙に、我らで叩きましょう』
最初から犠牲ありきの作戦だったとは。
不利をひっくり返すためには、非情も必要な時があることくらい分かっている。
だが、それは今じゃない。
すべてを言わなかった才明を恨みながら、私は隊を動かした。
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