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四話 追い駆ける者、待つ者
狐と狐2
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「顔を上げてくれないか。敵地に侵入している以上、いつ気づかれるか分からない。早く本題に入りたい」
「焦らずとも大丈夫ですよ、誠人様。ここにいる兵士たちには、私の意見に賛同した者のみで編成されておりますから」
立ち上がりながら才明が飄々と告げてくる。
つまり、兵士たちも俺たちの侵入を見通していた?
俺は内心ギョッとする。華候焔も想定外だったらしく、動揺に目を見開く。
「まさかここにいる兵士どもは全員、太史翔の元を離れたがっているのか」
「ええ、そうなんですよ。だってあの人、人使いが荒いですし、ケチですし、度量も小さいですし……私を軍師にしたいと言ってくれたのは嬉しかったですが、お気に入りの鎧を戦場で映えるように飾らせて欲しいと頼んで見事な鳳凰の鎧に仕上げたら、怒り出して左遷するような男なのですよ」
「鳳凰なら威厳があっていいと思うんだがな」
「場を和ませる領主もいいものだと思いまして、それはもう可憐で見る者を必ず笑わせるような……フフ、いい出来だったのですがねえ」
……性格に難あり、だ。
俺と同じように感じたのか、華候焔の顔が引きつっている。
それでもすぐに不敵な笑みを浮かべ、才明へ顔を突きつけた。
「試したのか、太史翔を?」
「フフ……だって領主は我らを値踏みし、使えるかどうかを試すというのに、逆は許さぬとは面白くないでしょう。あれぐらいの悪ふざけ、他愛のないことと笑い飛ばして欲しかったのですがね」
肩をすくめながら才明は苦笑すると、俺の全身を舐め回すようにジロジロと見てくる。
「誠人様、貴方はどうなのでしょうね? この世界で知らぬ者はいない華候焔を登用し、先日の戦を勝ち抜いた――まさか勝つとは思いませんでしたよ。それに裏切り常習の厄介な男が、わざわざ自らが動いて尽くしている……いったいどんな魅力があるのか、気になってしまいました」
「だから俺たちが来やすいようにしていたというのか?」
「そうですよ。誠人様の領土の情報は筒抜けでしたので、軍師が不在なことは把握済みでした。だから仲間の中で一番前に陣を構え、誠人様がたが訪れやすいようにしていたのです。連戦ともなれば兵は満身創痍……こちらの陣営から将を引き抜き、兵力を削ぎつつ手駒を増やさなければ勝ち目はないと踏みました」
こちらの手の内が完全に読まれている。
足元を見られているような気分になっていると、華候焔が短く首を横に振った。
「確かに軍師はいないから、お前を仲間に引き入れたい。だが将の数が増えずとも、どうにかできると思う。安心してくれ」
「嘘をついてますね。そんなに虚勢を張らなくても大丈夫ですから。貴方がたがここへ現れたという今の結果が答えと思いますが?」
「虚勢だと? 俺がそんな臆病者に見えるのか? 才明の目は節穴だな」
「何度でも気が済むまで言えばいいですよ。言葉を重ねるだけ貴方の未熟さが出てくるばかりですが」
「焦らずとも大丈夫ですよ、誠人様。ここにいる兵士たちには、私の意見に賛同した者のみで編成されておりますから」
立ち上がりながら才明が飄々と告げてくる。
つまり、兵士たちも俺たちの侵入を見通していた?
俺は内心ギョッとする。華候焔も想定外だったらしく、動揺に目を見開く。
「まさかここにいる兵士どもは全員、太史翔の元を離れたがっているのか」
「ええ、そうなんですよ。だってあの人、人使いが荒いですし、ケチですし、度量も小さいですし……私を軍師にしたいと言ってくれたのは嬉しかったですが、お気に入りの鎧を戦場で映えるように飾らせて欲しいと頼んで見事な鳳凰の鎧に仕上げたら、怒り出して左遷するような男なのですよ」
「鳳凰なら威厳があっていいと思うんだがな」
「場を和ませる領主もいいものだと思いまして、それはもう可憐で見る者を必ず笑わせるような……フフ、いい出来だったのですがねえ」
……性格に難あり、だ。
俺と同じように感じたのか、華候焔の顔が引きつっている。
それでもすぐに不敵な笑みを浮かべ、才明へ顔を突きつけた。
「試したのか、太史翔を?」
「フフ……だって領主は我らを値踏みし、使えるかどうかを試すというのに、逆は許さぬとは面白くないでしょう。あれぐらいの悪ふざけ、他愛のないことと笑い飛ばして欲しかったのですがね」
肩をすくめながら才明は苦笑すると、俺の全身を舐め回すようにジロジロと見てくる。
「誠人様、貴方はどうなのでしょうね? この世界で知らぬ者はいない華候焔を登用し、先日の戦を勝ち抜いた――まさか勝つとは思いませんでしたよ。それに裏切り常習の厄介な男が、わざわざ自らが動いて尽くしている……いったいどんな魅力があるのか、気になってしまいました」
「だから俺たちが来やすいようにしていたというのか?」
「そうですよ。誠人様の領土の情報は筒抜けでしたので、軍師が不在なことは把握済みでした。だから仲間の中で一番前に陣を構え、誠人様がたが訪れやすいようにしていたのです。連戦ともなれば兵は満身創痍……こちらの陣営から将を引き抜き、兵力を削ぎつつ手駒を増やさなければ勝ち目はないと踏みました」
こちらの手の内が完全に読まれている。
足元を見られているような気分になっていると、華候焔が短く首を横に振った。
「確かに軍師はいないから、お前を仲間に引き入れたい。だが将の数が増えずとも、どうにかできると思う。安心してくれ」
「嘘をついてますね。そんなに虚勢を張らなくても大丈夫ですから。貴方がたがここへ現れたという今の結果が答えと思いますが?」
「虚勢だと? 俺がそんな臆病者に見えるのか? 才明の目は節穴だな」
「何度でも気が済むまで言えばいいですよ。言葉を重ねるだけ貴方の未熟さが出てくるばかりですが」
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