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三話 逃れられぬ世界
興味
しおりを挟む必要な手配を終えた後、俺たちは城内にある訓練場へ向かう。
疎らに兵士たちが腕立て伏せなどの筋トレをしたり、手合わせしたりしている。
その中を突き進み、俺は武具置き場の壁に立てかけてあった棍をふたつ手にした。
「英正、これを。俺の訓練に付き合って欲しい」
棍のひとつを差し出すと、英正は小刻みに身を震わせる。
なかなか棍を手にしないことに首を傾げていると、英正は思いっきり顔に力を入れ、痛みを堪えるかのような表情をしていた。
「領主様と、特訓……っ」
「き、急にどうしたんだ?」
「まさかこのような栄誉を、私が承れる日が来るとは思わなくて……」
言いながら英正の目に涙がキラリと光る。
予測できない反応に俺が困惑していると、肩に乗っていた白澤が教えてくれた。
「英正は忠誠心一〇〇ですからー。ここまで心をがっちり掴んでるとこうなるんですー。敬愛する領主サマに必要とされることに、心底喜んでくれるんですー」
「そ、そうなのか……なんというか、落ち着かないな」
「これから他の将からも心酔される領主サマになられるよう、頑張って下さいねー。誠人サマなら目指せますよー」
ぞんざいな扱いを受けるのはどうかと思うが、ここまで慕われるというか、崇拝されるのは慣れない。
俺は自分の未熟さも弱さも痛感している。
今の状況に振り回されながら、どうにか抗おうと手探りしながらやっているような状態だ。
持ち上げられるだけ、自分が道化に思えてならない。
英正が悪い訳ではないが、こんな人間がこれから何人もできると思うと気が重い。
期待に応える――それもまた強くなるための糧か……と考えていると、
「領主様、私めの準備は整いました! いつでも始められます!」
いつの間にか距離を取った英正が、棍を構えて声を張り上げる。
腰を落として俺を真っ直ぐに見つめる眼差しは、今まで相対した誰よりも澄んでいる。
勝ちを求める気がまったく感じられない。
とにかく俺に応えたい一心だ。わざと負ける気もないが、捻じ伏せる気もない。
練習試合でも、互いに練習で技を掛け合う乱取りでなければ、勝ちたいという色気がのぞくことがほとんどだ。
すべてを俺に応えるだけに振っている相手。
……どんな戦いをしてくれるのだろうか?
胸の奥が高揚し、思わず俺は口端を引き上げていた。
「英正、行くぞ。俺に応えたいなら、遠慮せずに全力でやって欲しい」
「はい、そのつもりです! 領主様に必要として頂けるよう、今出せる力の限りを尽くします!」
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