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二話 初めての戦
意味ありげな眼差し
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中央で賑やかに騒いでいる華候焔や白澤を眺めてから、俺はふと視線を横にずらす。
広間には小隊の隊長たちも呼んでいるが、その中に一人、硬い表情で緊張し続ける英正の姿があった。
俺よりも年が若いなら、酒の席など無縁だろう。
酔って談笑する年上たちに囲まれて、どうすればいいか分からないという戸惑いが手に取るように分かる。正直なところ、俺も似たようなものだ。
俺が見ていることに気づき、英正はハッとなり姿勢を正して頭を下げる。そして用があると思ってしまったのか、慌てた様子で立ち上がり、俺の前までやって来て跪いた。
「領主様、何か御用でしょうか?」
「いや、用があった訳ではないんだが、宴を楽しんでいないように見えて気になったんだ」
「とんでもない、楽しんでおります! ただ私のような者が、まさか登城できる身になり、領主様のお役に立てる日が巡ってくるとは思わなかったもので……今もまだ夢の中にいるかのようです」
英正が名もなき兵士から将へと昇格してから、まだ一日しか経っていない。
それなのにほぼ経験皆無で戦場に立たされ、領主の身代わりになって囮となったのだ。もし俺が英正なら、確かに夢だと思ってしまうだろう。
間近で華候焔が守っていたとはいえ、英正もよく頑張ってくれた。
俺は顔を上げた英正に対し、深々と頭を下げた。
「英正がいてくれたおかげで、俺は敵将を倒すことができた。本当にありがとう」
「もったいないお言葉です……! 私は甲冑をまとい、馬に乗っていただけ……そんなことしかできずとも、領主さまのお役に立てていたのならば光栄です。次までには必ず力をつけ、今度は力を振るってお役に立ってみせます」
「それは頼もしいな。期待しているぞ、英正」
「もし私めが結果を出したならば、その時は……」
高揚しながら話していた英正が言葉を止める。
ずっと真っ直ぐに俺を見据えていた目は泳ぎ、口をまごつかせていたが、「いえ、なんでもありません」と悔しげに首を横に振った。
何か望みがあるなら言って欲しいと促そうとしたが――ガシッ!
いつの間にかこちらへ来た華候焔が、英正の肩に腕を乗せてきた。
「オラ英正、お前も飲め……っ。ちゃんと役に立ったんだから、お前にもたっぷりと飲む権利がある。こっち来い。飲ませてやるから」
「い、いえ、結構です! 私は領主様ともう少し話を――」
「俺の酒が飲めないなんて言うなよ? 人生始まったばかりのお前に、俺が人生の楽しみ方を教えてやろう!」
問答無用で華候焔は英正の襟首を掴み、ズルズルと中央へと引きずっていく。
そして白澤と一緒に顔より大きな杯に酒を注ぎ、英正に飲ませていた。
ワッと男たちの笑いが響き渡り、宴をさらに賑やかにしていく。
英正や他の兵士たちの戦は今日で終わりだ。
……だが、俺はまだ区切りがついていない。
俺の胸が重みを覚える。
息をついて華候焔に視線を定めれば、すぐに俺の目に気づいて瞳を流してくる。
妖しさと愉悦を含んだ眼差しに、酒を飲んでもいないのに体の奥がカッと熱くなった。
広間には小隊の隊長たちも呼んでいるが、その中に一人、硬い表情で緊張し続ける英正の姿があった。
俺よりも年が若いなら、酒の席など無縁だろう。
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俺が見ていることに気づき、英正はハッとなり姿勢を正して頭を下げる。そして用があると思ってしまったのか、慌てた様子で立ち上がり、俺の前までやって来て跪いた。
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「いや、用があった訳ではないんだが、宴を楽しんでいないように見えて気になったんだ」
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それなのにほぼ経験皆無で戦場に立たされ、領主の身代わりになって囮となったのだ。もし俺が英正なら、確かに夢だと思ってしまうだろう。
間近で華候焔が守っていたとはいえ、英正もよく頑張ってくれた。
俺は顔を上げた英正に対し、深々と頭を下げた。
「英正がいてくれたおかげで、俺は敵将を倒すことができた。本当にありがとう」
「もったいないお言葉です……! 私は甲冑をまとい、馬に乗っていただけ……そんなことしかできずとも、領主さまのお役に立てていたのならば光栄です。次までには必ず力をつけ、今度は力を振るってお役に立ってみせます」
「それは頼もしいな。期待しているぞ、英正」
「もし私めが結果を出したならば、その時は……」
高揚しながら話していた英正が言葉を止める。
ずっと真っ直ぐに俺を見据えていた目は泳ぎ、口をまごつかせていたが、「いえ、なんでもありません」と悔しげに首を横に振った。
何か望みがあるなら言って欲しいと促そうとしたが――ガシッ!
いつの間にかこちらへ来た華候焔が、英正の肩に腕を乗せてきた。
「オラ英正、お前も飲め……っ。ちゃんと役に立ったんだから、お前にもたっぷりと飲む権利がある。こっち来い。飲ませてやるから」
「い、いえ、結構です! 私は領主様ともう少し話を――」
「俺の酒が飲めないなんて言うなよ? 人生始まったばかりのお前に、俺が人生の楽しみ方を教えてやろう!」
問答無用で華候焔は英正の襟首を掴み、ズルズルと中央へと引きずっていく。
そして白澤と一緒に顔より大きな杯に酒を注ぎ、英正に飲ませていた。
ワッと男たちの笑いが響き渡り、宴をさらに賑やかにしていく。
英正や他の兵士たちの戦は今日で終わりだ。
……だが、俺はまだ区切りがついていない。
俺の胸が重みを覚える。
息をついて華候焔に視線を定めれば、すぐに俺の目に気づいて瞳を流してくる。
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