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二話 初めての戦
決着
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「技は出させんぞ! てやぁぁっ!」
鋭く切りつけてくる剣を弾いても、顔鐡はすぐに刃を俺に定めて振り下ろす。
激しい連撃から身を守ることで精一杯だ。
衝撃に腕が痺れ、骨まで震える。剣を振るうほうも体力を削るが、守るほうもキツい。
竹砕棍を手放してしまえば圧倒的に不利になる。
大きく顔鐡を弾き飛ばし、距離を稼がなければ技に入れない。
だが今の俺の力では現実的じゃない。
顔鐡に力があるだけでなく甲冑をまとっている分、重量がある。それに立派な体躯。鎧の下はさぞ猛々しい筋肉が詰まっていることだろう。
純粋な力では勝てない。
だが力さえあれば必ず勝利する訳ではないことぐらい知っている。
スゥ、と息を吸い込んで肺に空気を取り込む。
体を動かすための大切な燃料の補給。俺が何か企んでいると顔鐡が悟り、顔をしかめながら剣撃の素早さを上げてくる。
それだけ俺に意識を集中しているという証。
もっと力め。俺を捻じ伏せようと足掻け。そうすれば――。
剛をギリギリまで演じ、不意を突いて俺は力を抜く。
顔鐡の剣を柔らかく流しながら俺は馬を後退させる。
「うわ……っ!」
力を入れ過ぎていた顔鐡は堪え切れず、大きく前に身を倒して体勢を崩す。
隙が生まれた。
俺は竹砕棍を振り回し、技を繰り出す動きに入った。
周囲に火の気配が生まれていく。
――俺が技の火をまとうよりも、顔鐡が体を起こすほうが早かった。
「させるかぁ……っ!」
剣を構えながら馬を進ませ、俺のガラ空きになっている胴体へ剣で斬り込もうとしてくる。
このままでは相討ち。
……痛み分けで構わない。意地でも最後まで立ち続けてみせる。
俺は覚悟を決めて、竹砕棍を顔鐡へと振るう。
刹那――ビシィッ!
俺と顔鐡の間に鋭い何かが割り込む。
顔鐡の目が大きく見開かれている。
俺に向かっていたはずの剣が弾かれ、顔鐡の腕が大きく開く。
味方の矢がここまで届いた。
思いもしなかった援助を心強く感じながら、俺は技を繰り出した。
「炎舞撃っ!」
辺りに生まれた火の気配が一気に顔鐡へ集まり、たちまち大炎となって立ち昇る。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっっ!」
防御することもできず技の直撃を食らい、顔鐡が絶叫する。
敵兵たちがざわつく。
そして「ひぃ……っ」と小さな悲鳴を上げながら、一人、また一人と逃げていく。
戦意の喪失と動揺が一帯に広がり、あっという間に兵士たちが逃げ惑う敗者と化す。
未だ炎の中に自軍の大将がいるにもかかわらず。
火が消える頃には戦いに燃え尽きて地に伏せる馬と、倒れ込んだ顔鐡の姿があった。
どうにか勝てた。
しかし味方の矢がなければ、今頃は……。
勝った実感を持てずにいると、こちらへ駆けてくる馬の音が聞こえてくる。
顔を上げると、どこか自慢げに微笑みながら馬を駆る華候焔の姿。
その手には弓が握られていた。
……あの矢は華候焔のものだったか。
さらなるお膳立てをされてしまった上での勝利。
俺はこの世界ではまだまだ弱く、未熟なのだと痛感しながら華候焔を迎えた。
鋭く切りつけてくる剣を弾いても、顔鐡はすぐに刃を俺に定めて振り下ろす。
激しい連撃から身を守ることで精一杯だ。
衝撃に腕が痺れ、骨まで震える。剣を振るうほうも体力を削るが、守るほうもキツい。
竹砕棍を手放してしまえば圧倒的に不利になる。
大きく顔鐡を弾き飛ばし、距離を稼がなければ技に入れない。
だが今の俺の力では現実的じゃない。
顔鐡に力があるだけでなく甲冑をまとっている分、重量がある。それに立派な体躯。鎧の下はさぞ猛々しい筋肉が詰まっていることだろう。
純粋な力では勝てない。
だが力さえあれば必ず勝利する訳ではないことぐらい知っている。
スゥ、と息を吸い込んで肺に空気を取り込む。
体を動かすための大切な燃料の補給。俺が何か企んでいると顔鐡が悟り、顔をしかめながら剣撃の素早さを上げてくる。
それだけ俺に意識を集中しているという証。
もっと力め。俺を捻じ伏せようと足掻け。そうすれば――。
剛をギリギリまで演じ、不意を突いて俺は力を抜く。
顔鐡の剣を柔らかく流しながら俺は馬を後退させる。
「うわ……っ!」
力を入れ過ぎていた顔鐡は堪え切れず、大きく前に身を倒して体勢を崩す。
隙が生まれた。
俺は竹砕棍を振り回し、技を繰り出す動きに入った。
周囲に火の気配が生まれていく。
――俺が技の火をまとうよりも、顔鐡が体を起こすほうが早かった。
「させるかぁ……っ!」
剣を構えながら馬を進ませ、俺のガラ空きになっている胴体へ剣で斬り込もうとしてくる。
このままでは相討ち。
……痛み分けで構わない。意地でも最後まで立ち続けてみせる。
俺は覚悟を決めて、竹砕棍を顔鐡へと振るう。
刹那――ビシィッ!
俺と顔鐡の間に鋭い何かが割り込む。
顔鐡の目が大きく見開かれている。
俺に向かっていたはずの剣が弾かれ、顔鐡の腕が大きく開く。
味方の矢がここまで届いた。
思いもしなかった援助を心強く感じながら、俺は技を繰り出した。
「炎舞撃っ!」
辺りに生まれた火の気配が一気に顔鐡へ集まり、たちまち大炎となって立ち昇る。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっっ!」
防御することもできず技の直撃を食らい、顔鐡が絶叫する。
敵兵たちがざわつく。
そして「ひぃ……っ」と小さな悲鳴を上げながら、一人、また一人と逃げていく。
戦意の喪失と動揺が一帯に広がり、あっという間に兵士たちが逃げ惑う敗者と化す。
未だ炎の中に自軍の大将がいるにもかかわらず。
火が消える頃には戦いに燃え尽きて地に伏せる馬と、倒れ込んだ顔鐡の姿があった。
どうにか勝てた。
しかし味方の矢がなければ、今頃は……。
勝った実感を持てずにいると、こちらへ駆けてくる馬の音が聞こえてくる。
顔を上げると、どこか自慢げに微笑みながら馬を駆る華候焔の姿。
その手には弓が握られていた。
……あの矢は華候焔のものだったか。
さらなるお膳立てをされてしまった上での勝利。
俺はこの世界ではまだまだ弱く、未熟なのだと痛感しながら華候焔を迎えた。
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