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一話 『至高英雄』に強さを求め
試し
しおりを挟む城に戻った俺たちは、壁内にある空き地へ向かった。
本来なら倉庫や兵舎などが建てられるのだが、まだゲームを始めたばかりで何も建築されていない。白澤いわく、戦で勝てば相手の財を奪うことができるから、それで何かを建てられるらしい。
本当にこんな調子で勝ちの目があるのだろうかと思っていると、俺の前に立ち臨んだ華候焔が「おい」と呼び掛けてきた。
「そろそろ手合わせを始めてもいいか? ぼんやりしていると瞬殺しちまうぞ?」
俺の得物に合わせて棍――ただの木の棒――を肩に担ぎながら、華候焔はニヤニヤと笑う。
百戦錬磨な最強の武将。恐らく言い過ぎではないだろう。軽く相手しようと力を抜いている気配はするが、それでも滲み出る強者のオーラは隠し切れてはいない。
「すまない、よろしく頼む……白澤、肩から降りていてくれ」
小声で声をかけると、肩で白澤が渋る気配がする。
「本当に大丈夫ですかー? ワタシ、心配です……」
「だが手合わせは必要だ。初めての得物に馴染むことも大切だが、俺は華候焔の強さを知りたいし、あっちも俺を知りたがっている。どれだけの腕なのか知っておかないと、戦で連携を取ることも、お互いにどこまでやれるのかも分からない」
「……誠人サマを叩きのめして、そのまま敵に渡すなんてこともあるんじゃあ――」
「たぶん、俺が弱すぎたらそうするかもしれない。退屈な相手だと見なされたら、もしかすると……」
この男のことはまだよく分からないが、昨夜の宴で『俺は惚れるほどには熱くなれなかった』と言っていた。
つまり熱くなれない相手は容赦なく切るという人種なのだろう。
あの時は色恋の話として言っていたが、他もそうなのだろうという気はする。
少しでも熱くなれる相手となり得るかを確かめたくて、わざわざ服や武器を自費で与えている――ここまでお膳立てされて、つまらない相手と落胆させたくない。
気に入られてしまった後のことは考えたくないが、今は華候焔に認めてもらいたい思いが強かった。
「ここで力を示して、先へ繋いでみせる。だから白澤は見守っていてくれ」
「分かりました……どうかご武運をー」
渋々と白澤は俺の肩から降りて、フヨフヨと漂いながら距離を取ってくれる。
巻き込む心配がない距離まで離れたのを確かめてから、俺は両手で竹砕棍を握って構えを取った。
「待たせて悪かった。始めよう、華候焔!」
「気合は入っているようだな。いいぜ、来いよ。俺を少しでも本気にさせてみろ」
左手の人差し指をチョイ、チョイ、と動かし、華候焔が俺を挑発してくる。
隙だらけなようで、どこを攻め込んでも返される気しかしない。
何をしても返されるだけなら――。
俺はタッ、と地を蹴って駆け出す。
そして間合い直前で大きく跳躍し、棍を大きく振り上げ――全力で華候焔へ打ち込んだ。
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