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一話 『至高英雄』に強さを求め
歓待の宴2
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「……っ!」
「――クク、酔ったように赤くなったなあ。可愛いもんだ……こうやって俺が誠人を踊らせてやれば、少しは実情が掴みにくくなる。小細工なしに真っ直ぐやるだけじゃあ、滅亡まっしぐらだからなあ」
本当に俺のことを考えてなのか、からかっているのか……この男が一番掴めない。
戯れはやめてくれと言おうにも言えず、初めてのキスがゲーム内の武将という状況に頭の理解が追いつかず、俺は全身を強張らせてしまう。
どうしようもできない俺に代わり、白澤が空に浮かびながら華候焔の眼前で吠える。
「よくもまあ誠人サマの唇を……っ。噂は本当なんですねー。稀代の人たらし。女人だけでは飽き足らずに、男までも惑わして捨てていく……誠人サマも弄ぶ気なんでしょう? 絶対に許しませんからねー!」
「勝手に相手が俺に惚れて、俺は惚れるほどには熱くなれなかった。それだけだ。体を悦ばせてやっただけで、一方的に懐いて求めて、俺の心が同じじゃないと分かったら縋って、恨みを吐き出して……身勝手な恋情に、俺は流されてやれば良かったのか?」
「そんなこと言って、ヤることはヤったんでしょー?! 関係持って楽しんだクセに、『俺は知りません』なんて通じるワケないでしょー」
「それとこれとは別だ。一度始めたら止まれないだろうが。誠人もそう思うだろ?」
……何も知らない俺に、そんな未知の話を振らないでくれ。
答えられず固まったままの俺を見て、華候焔が一旦表情を無にする。
「なんだその反応は……楽しませてくれるじゃねえか!」
ガバッ、と。いきなり華候焔に抱きつかれて、ようやく俺は動けるようになった。
「い、い、いきなり何を……っ。離してくれ!」
「初心なだけの無知なガキは許容範囲外だったが、誠人は違うなあ。体も中身も大人なクセに初心とはそそるなあ」
「待てっ、服に手を入れるな! 体を弄るな……っ!」
「少しくらい良いだろう? 戦に勝てばすべて俺に曝け出すことになるんだ……良い体してるじゃねえか。無駄がない。だが……」
俺の全身を触りまくった後、なぜか華候焔は俺の顔を見ながら、スン、と残念そうな顔をした。
「この服はダメだろうが。色気皆無。粋でもねぇ。着やすいだけの服。これが領主の服だなんてあり得んだろ。おいコラ毛玉、初期装備すら与えねぇってどうなってんだ!」
「だって、げぇむ開始時に領主が自ら装備を選んだ上でやってくるんですよー? これが誠人サマの選んだ装備なら、ワタシは何も言えませんからー」
俺が今着ている服は、ゲームを始める時に着ていた黒いスウェットのまま。
二人の話を聞いて俺はポツリと呟く。
「……そんな選択をする場面、一切なかったぞ」
俺の呟きに白澤がハッと息を引くのが聞こえてきた。
「事前予約……っ! 誠人サマ、本来はげぇむを始める前に、好きな衣服や装飾品を選べるんですー。少し戦いが有利になる能力がくっついてくるのに、それを選ばせないなんて……騙した人は誠人サマを絶対に負かしたいんですねー」
不意ににこやかにゲームを勧めてくれた坪田の顔が脳裏に浮かび、俺は眉間を寄せる。
あんな親しげに人を騙してくるなんて……。
これから似たようなタイプの人間に対して、無条件で身構えてしまいそうだと考えていると、華候焔が俺から体を離した後に一人頷いた。
「じゃあ明日は町の鍛冶屋や服屋に行って、俺が誠人の装備を見立ててやろう」
「あ、ありがとう。感謝する」
素直にありがたいと思ってしまった俺とは違い、白澤は不信感いっぱいの空気を漂わせる。
「怪しいですねー。誠人サマが何も知らないのを良いことに、いかがわしい装備をさせる気ですかー?」
「そうしたいのは山々だが、戯れる余裕はないからな。少しでも戦に勝てるよう、今の誠人に見合った物を選ぶ」
意外にしっかりと支えようとしてくれる華候焔に、俺は感動を覚える。しかし、
「ここで勝ってもらわんと、俺は誠人の体を褒美にできないからな。俺に美味しく頂かれるために、全力で勝ってもらうぞ」
……それが本音か、華候焔。
がっくりと肩を落とす俺を尻目に、華候焔は空いた杯に自ら酒を注ぎ、嬉しそうに飲み干した。
「――クク、酔ったように赤くなったなあ。可愛いもんだ……こうやって俺が誠人を踊らせてやれば、少しは実情が掴みにくくなる。小細工なしに真っ直ぐやるだけじゃあ、滅亡まっしぐらだからなあ」
本当に俺のことを考えてなのか、からかっているのか……この男が一番掴めない。
戯れはやめてくれと言おうにも言えず、初めてのキスがゲーム内の武将という状況に頭の理解が追いつかず、俺は全身を強張らせてしまう。
どうしようもできない俺に代わり、白澤が空に浮かびながら華候焔の眼前で吠える。
「よくもまあ誠人サマの唇を……っ。噂は本当なんですねー。稀代の人たらし。女人だけでは飽き足らずに、男までも惑わして捨てていく……誠人サマも弄ぶ気なんでしょう? 絶対に許しませんからねー!」
「勝手に相手が俺に惚れて、俺は惚れるほどには熱くなれなかった。それだけだ。体を悦ばせてやっただけで、一方的に懐いて求めて、俺の心が同じじゃないと分かったら縋って、恨みを吐き出して……身勝手な恋情に、俺は流されてやれば良かったのか?」
「そんなこと言って、ヤることはヤったんでしょー?! 関係持って楽しんだクセに、『俺は知りません』なんて通じるワケないでしょー」
「それとこれとは別だ。一度始めたら止まれないだろうが。誠人もそう思うだろ?」
……何も知らない俺に、そんな未知の話を振らないでくれ。
答えられず固まったままの俺を見て、華候焔が一旦表情を無にする。
「なんだその反応は……楽しませてくれるじゃねえか!」
ガバッ、と。いきなり華候焔に抱きつかれて、ようやく俺は動けるようになった。
「い、い、いきなり何を……っ。離してくれ!」
「初心なだけの無知なガキは許容範囲外だったが、誠人は違うなあ。体も中身も大人なクセに初心とはそそるなあ」
「待てっ、服に手を入れるな! 体を弄るな……っ!」
「少しくらい良いだろう? 戦に勝てばすべて俺に曝け出すことになるんだ……良い体してるじゃねえか。無駄がない。だが……」
俺の全身を触りまくった後、なぜか華候焔は俺の顔を見ながら、スン、と残念そうな顔をした。
「この服はダメだろうが。色気皆無。粋でもねぇ。着やすいだけの服。これが領主の服だなんてあり得んだろ。おいコラ毛玉、初期装備すら与えねぇってどうなってんだ!」
「だって、げぇむ開始時に領主が自ら装備を選んだ上でやってくるんですよー? これが誠人サマの選んだ装備なら、ワタシは何も言えませんからー」
俺が今着ている服は、ゲームを始める時に着ていた黒いスウェットのまま。
二人の話を聞いて俺はポツリと呟く。
「……そんな選択をする場面、一切なかったぞ」
俺の呟きに白澤がハッと息を引くのが聞こえてきた。
「事前予約……っ! 誠人サマ、本来はげぇむを始める前に、好きな衣服や装飾品を選べるんですー。少し戦いが有利になる能力がくっついてくるのに、それを選ばせないなんて……騙した人は誠人サマを絶対に負かしたいんですねー」
不意ににこやかにゲームを勧めてくれた坪田の顔が脳裏に浮かび、俺は眉間を寄せる。
あんな親しげに人を騙してくるなんて……。
これから似たようなタイプの人間に対して、無条件で身構えてしまいそうだと考えていると、華候焔が俺から体を離した後に一人頷いた。
「じゃあ明日は町の鍛冶屋や服屋に行って、俺が誠人の装備を見立ててやろう」
「あ、ありがとう。感謝する」
素直にありがたいと思ってしまった俺とは違い、白澤は不信感いっぱいの空気を漂わせる。
「怪しいですねー。誠人サマが何も知らないのを良いことに、いかがわしい装備をさせる気ですかー?」
「そうしたいのは山々だが、戯れる余裕はないからな。少しでも戦に勝てるよう、今の誠人に見合った物を選ぶ」
意外にしっかりと支えようとしてくれる華候焔に、俺は感動を覚える。しかし、
「ここで勝ってもらわんと、俺は誠人の体を褒美にできないからな。俺に美味しく頂かれるために、全力で勝ってもらうぞ」
……それが本音か、華候焔。
がっくりと肩を落とす俺を尻目に、華候焔は空いた杯に自ら酒を注ぎ、嬉しそうに飲み干した。
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