7 / 345
一話 『至高英雄』に強さを求め
華候焔との出会い2
しおりを挟む
「……華候焔、だな?」
近づいて俺が話しかければ、華候焔は脚を組み、不敵さをより濃くする。
「確かにそうだが、俺の悪評を知った上で声をかけるとはなあ。よほど余裕がないのか、この世界を何も知らないのか、その両方か……自分で言うのもなんだが、成り立ての領主の手には余ると思うんだがな」
足元を見られた気がしてたじろぎそうになる。
だが後ずさりたい衝動を抑え、俺は華候焔に臨む。
「貴方がどんな武将かは知っている。それでも――」
ザッ。俺はその場へ膝を着き、右拳を左手で包み込みながら頭を下げた。
「どうか貴方を登用させてもらいたい……! 始まりの一戦だけで構わない。受け入れてくれるなら、すべての財を貴方に捧げる」
「ハハッ、必死だなあオイ。誘うよりも前に言うことないか? 俺は名も知らぬヤツのために力を振るう気になどならんぞ?」
「……っ、失礼した。俺は誠人。正代誠人」
「誠人か。名は良いな。ほら、顔をよく見せろ」
言われるままに俺は手を下ろし、顔を華候焔へ向ける。
大きな手が俺の顎を持つ。
椅子に座ったまま俺に顔を近づけ、華候焔は値踏みするようにジロジロと見てくる。
ペロリ、と。華候焔が小さく舌なめずりした。
「真っ直ぐな目をしやがって。嘘が大嫌いで、頑張れば報われると信じて疑わないって人種か。本当は俺なんか頼りたくなかっただろう? 可哀想に」
戯れに親指を動かし、人の顎を撫でてくる。こそばゆさに顔をしかめたくなるのを堪えていると、華候焔は目を細めた。
「まあ合格だ、お前の下についてやろう――その喰い応えのありそうな体を褒美にくれるならな」
「……? 華候焔は人肉を食すのか?」
「何も知らんのか。教え甲斐があるな……そっちの食うじゃない。俺が戦って成果を出すことができたら、俺の気が済むまで抱かせろ。そして俺を悦ばせてみせろ」
俺の体が褒美。
まったく考えもしなかった話に俺は思考を止める。
固まるしかなかった。色恋に縁なく二十歳を迎えた俺が、男に抱かれる未来など見られる訳がない。
鼓動が爆ぜる。ゲームだと分かっているのに、俺の体の反応も、華候焔の息遣いや手の体温も生々しくて現実ではないと割り切れない。
起死回生を諦めないならば、もう一択だというのに。
拒絶も許諾もできない俺をからかうように、華候焔は楽しげに破顔した。
「約束してやる。俺を楽しませてくれている間は裏切らないと。お前の体ひとつで済むんだ。安いもんだろ? さあ、どうする? 差し出してくれるのか、その体を……」
「……本当に勝つことができるなら、約束する」
もしゲームを始めたタイミングが他の日だったならば、この言葉を口にすることはできなかったかもしれない。
試合で東郷に負け、あの凪いだ目で見下ろされたから。
敗者の烙印を押されたその日に、更なる敗北を味わうことに耐えられないから。
もう、負けたくない。
その意地が俺に腹を括らせた。
「交渉成立だ。裏切るなよ、誠人」
言いながら華候焔は首を伸ばし、俺の頬へ唇を押し当てる。
熱く柔らかな感触と、ほのかに甘い酒のにおい。
思わずカッとなって後ろへ跳び引くと、華候焔は妖しく微笑んだ。
「初心な男を俺に染めるのも、また一興だな。しばらくは退屈しなさそうだ……よろしくなあ領主殿」
華候焔が俺に下る。
――何度も逆心を繰り返した最強ながら厄介な諸刃の将が、俺の初めての配下となった。
近づいて俺が話しかければ、華候焔は脚を組み、不敵さをより濃くする。
「確かにそうだが、俺の悪評を知った上で声をかけるとはなあ。よほど余裕がないのか、この世界を何も知らないのか、その両方か……自分で言うのもなんだが、成り立ての領主の手には余ると思うんだがな」
足元を見られた気がしてたじろぎそうになる。
だが後ずさりたい衝動を抑え、俺は華候焔に臨む。
「貴方がどんな武将かは知っている。それでも――」
ザッ。俺はその場へ膝を着き、右拳を左手で包み込みながら頭を下げた。
「どうか貴方を登用させてもらいたい……! 始まりの一戦だけで構わない。受け入れてくれるなら、すべての財を貴方に捧げる」
「ハハッ、必死だなあオイ。誘うよりも前に言うことないか? 俺は名も知らぬヤツのために力を振るう気になどならんぞ?」
「……っ、失礼した。俺は誠人。正代誠人」
「誠人か。名は良いな。ほら、顔をよく見せろ」
言われるままに俺は手を下ろし、顔を華候焔へ向ける。
大きな手が俺の顎を持つ。
椅子に座ったまま俺に顔を近づけ、華候焔は値踏みするようにジロジロと見てくる。
ペロリ、と。華候焔が小さく舌なめずりした。
「真っ直ぐな目をしやがって。嘘が大嫌いで、頑張れば報われると信じて疑わないって人種か。本当は俺なんか頼りたくなかっただろう? 可哀想に」
戯れに親指を動かし、人の顎を撫でてくる。こそばゆさに顔をしかめたくなるのを堪えていると、華候焔は目を細めた。
「まあ合格だ、お前の下についてやろう――その喰い応えのありそうな体を褒美にくれるならな」
「……? 華候焔は人肉を食すのか?」
「何も知らんのか。教え甲斐があるな……そっちの食うじゃない。俺が戦って成果を出すことができたら、俺の気が済むまで抱かせろ。そして俺を悦ばせてみせろ」
俺の体が褒美。
まったく考えもしなかった話に俺は思考を止める。
固まるしかなかった。色恋に縁なく二十歳を迎えた俺が、男に抱かれる未来など見られる訳がない。
鼓動が爆ぜる。ゲームだと分かっているのに、俺の体の反応も、華候焔の息遣いや手の体温も生々しくて現実ではないと割り切れない。
起死回生を諦めないならば、もう一択だというのに。
拒絶も許諾もできない俺をからかうように、華候焔は楽しげに破顔した。
「約束してやる。俺を楽しませてくれている間は裏切らないと。お前の体ひとつで済むんだ。安いもんだろ? さあ、どうする? 差し出してくれるのか、その体を……」
「……本当に勝つことができるなら、約束する」
もしゲームを始めたタイミングが他の日だったならば、この言葉を口にすることはできなかったかもしれない。
試合で東郷に負け、あの凪いだ目で見下ろされたから。
敗者の烙印を押されたその日に、更なる敗北を味わうことに耐えられないから。
もう、負けたくない。
その意地が俺に腹を括らせた。
「交渉成立だ。裏切るなよ、誠人」
言いながら華候焔は首を伸ばし、俺の頬へ唇を押し当てる。
熱く柔らかな感触と、ほのかに甘い酒のにおい。
思わずカッとなって後ろへ跳び引くと、華候焔は妖しく微笑んだ。
「初心な男を俺に染めるのも、また一興だな。しばらくは退屈しなさそうだ……よろしくなあ領主殿」
華候焔が俺に下る。
――何度も逆心を繰り返した最強ながら厄介な諸刃の将が、俺の初めての配下となった。
2
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる