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一話 『至高英雄』に強さを求め

華候焔との出会い2

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「……華候焔、だな?」

 近づいて俺が話しかければ、華候焔は脚を組み、不敵さをより濃くする。

「確かにそうだが、俺の悪評を知った上で声をかけるとはなあ。よほど余裕がないのか、この世界を何も知らないのか、その両方か……自分で言うのもなんだが、成り立ての領主の手には余ると思うんだがな」

 足元を見られた気がしてたじろぎそうになる。
 だが後ずさりたい衝動を抑え、俺は華候焔に臨む。

「貴方がどんな武将かは知っている。それでも――」

 ザッ。俺はその場へ膝を着き、右拳を左手で包み込みながら頭を下げた。

「どうか貴方を登用させてもらいたい……! 始まりの一戦だけで構わない。受け入れてくれるなら、すべての財を貴方に捧げる」

「ハハッ、必死だなあオイ。誘うよりも前に言うことないか? 俺は名も知らぬヤツのために力を振るう気になどならんぞ?」

「……っ、失礼した。俺は誠人。正代誠人」

「誠人か。名は良いな。ほら、顔をよく見せろ」

 言われるままに俺は手を下ろし、顔を華候焔へ向ける。

 大きな手が俺の顎を持つ。
 椅子に座ったまま俺に顔を近づけ、華候焔は値踏みするようにジロジロと見てくる。

 ペロリ、と。華候焔が小さく舌なめずりした。

「真っ直ぐな目をしやがって。嘘が大嫌いで、頑張れば報われると信じて疑わないって人種か。本当は俺なんか頼りたくなかっただろう? 可哀想に」

 戯れに親指を動かし、人の顎を撫でてくる。こそばゆさに顔をしかめたくなるのを堪えていると、華候焔は目を細めた。

「まあ合格だ、お前の下についてやろう――その喰い応えのありそうな体を褒美にくれるならな」

「……? 華候焔は人肉を食すのか?」

「何も知らんのか。教え甲斐があるな……そっちの食うじゃない。俺が戦って成果を出すことができたら、俺の気が済むまで抱かせろ。そして俺を悦ばせてみせろ」

 俺の体が褒美。
 まったく考えもしなかった話に俺は思考を止める。

 固まるしかなかった。色恋に縁なく二十歳を迎えた俺が、男に抱かれる未来など見られる訳がない。

 鼓動が爆ぜる。ゲームだと分かっているのに、俺の体の反応も、華候焔の息遣いや手の体温も生々しくて現実ではないと割り切れない。

 起死回生を諦めないならば、もう一択だというのに。

 拒絶も許諾もできない俺をからかうように、華候焔は楽しげに破顔した。

「約束してやる。俺を楽しませてくれている間は裏切らないと。お前の体ひとつで済むんだ。安いもんだろ? さあ、どうする? 差し出してくれるのか、その体を……」

「……本当に勝つことができるなら、約束する」

 もしゲームを始めたタイミングが他の日だったならば、この言葉を口にすることはできなかったかもしれない。

 試合で東郷に負け、あの凪いだ目で見下ろされたから。
 敗者の烙印を押されたその日に、更なる敗北を味わうことに耐えられないから。

 もう、負けたくない。

 その意地が俺に腹を括らせた。

「交渉成立だ。裏切るなよ、誠人」

 言いながら華候焔は首を伸ばし、俺の頬へ唇を押し当てる。

 熱く柔らかな感触と、ほのかに甘い酒のにおい。
 思わずカッとなって後ろへ跳び引くと、華候焔は妖しく微笑んだ。

「初心な男を俺に染めるのも、また一興だな。しばらくは退屈しなさそうだ……よろしくなあ領主殿」

 華候焔が俺に下る。
 ――何度も逆心を繰り返した最強ながら厄介な諸刃の将が、俺の初めての配下となった。
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