俺はVR中華風戦闘SLGで、体を褒美に覇者を目指す

天岸 あおい

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一話 『至高英雄』に強さを求め

限られた時間にできること

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 俺の背筋に悪寒が走る。
 何かの間違いであって欲しいと思う反面、だから気前よくVR機器を貸してくれたのだと腑に落ちてしまう。

 うまい話には裏があるなんて、少し考えれば分かることなのに。

 試合に負けた焦りのせいだ。なんて未熟なのだろうと己の弱さを痛感する。

「さー誠人サマー、今は時間が惜しいですよー。ここに着いてからもう一時間寝ちゃってますから、お城を攻められるまであと七十一時間ですよー」

「落ち込んでいる暇はないな……白澤、まずはどうすればいい?」

「初心者用の選択肢を出しますねー。そぉれ!」

 ポッムン、と白澤が高く跳び上がり、虚空でくるんと体を回転させる。
 その直後にゲームデモの映像が消え、上から順番に『練兵』『徴集』『開発』『登用』の文字が浮かび上がる。

 ぼんやりと白い微光を放つ文字をまじまじと見つめていると、白澤は体から細い毛の束を伸ばし、文字を指した。

「ここは難しくないですよー。実行したいものに触れたら確認画面が出ますから、あとは『はい』を押せばおっけーですー。すぐ戦になっちゃいますから、焼け石に水でも『練兵』はしておきましょー」

「あ、ああ、分かった」

 言われるままに手を伸ばして『練兵』に触れると、浮かんでいるスクリーンの手前に『実行しますか?』『はい』『いいえ』の問いかけが現れる。

 迷わず『はい』を選べば、薄い黄緑の光を放ち、確認画面が消える。
 これでいいのか? と首を傾げていると、白澤が俺の手の上でピョンピョンと小さく跳ねた。

「これで『練兵』おっけーですー。この調子で次は税を『徴集』して、領地を『開発』しましょー。初心者もーどですから、選べば最適な量や急務の開発を行えますよー」

「それはありがたい。助かる」

 俺は促されるままに『徴集』と『開発』に触れて実行させる。
 そして最後の『登用』を選ぶと、『志願者を登用する』『在野を探す』の選択肢が現れた。

 志願者のほうは字が灰色がかり、在野は他の文字と同じように白くなっている。
 こちらが尋ねるよりも早く白澤が教えてくれた。

「今は下の選択肢しか選べませんー。だって、これから攻められると分かっている先のない領主に仕えたいだなんて人、まずいませんからねー」

「……シビアだな」

「だから今できることは、運よくこの領土を訪れている武将に声をかけて登用する……ですが、見つければ登用できるワケじゃありませんー。武将だって人間ですから、仕える人を選びますー。弱そうだと思われたり、魅力なしと見なされたりすると断られますー」

「き、厳しい……ますますリアルだな」

「それがこのげぇむの売りですからねー。あ、在野武将の一覧は見られますから、どうぞ『在野を探す』を選んでくださいー」

 白澤に促されるまま選択肢に触れると、武将の名前や能力値などが並ぶ。

 すべて名前は中華風の漢字で、どれも見覚えのないものばかり。ただ『龍備』や『宋操』といった有名な中国武将の音と同じ者が何人か見受けられる。

 ざっと目を通して、すぐに並び順が能力の総合値が高い順だと気づく。

 一番上に書かれていたのは『華候焔かこうえん』。
 武力が彼ひとりだけ一〇〇。二番目の武将と数値差が二十以上も開いている。

「まずは即戦力になる武将を選ばないと――」

「あっ、誠人サマ、ちょっと待ってくださいー!」

 手を伸ばしかけた俺を、白澤が焦り気味に止めてきた。

「そこの『華候焔』は要注意武将ですよー。備考欄をちゃんと見てくださいー」

「備考欄? ……『至高英雄で最強。しかし気まぐれで裏切りが常態化している』だって?」

「ええ、そうなんですよー。強いんですけどアクが強くて危なっかしいんですよー。登用したはいいけれど、背後から刺されて敵に差し出されるなんてこともありえますからー」

 思わず俺は全身を強張らせてしまう。
 確かに危うい。こんな初心者の弱小領主に対してまともに仕えるとは思えない。

 彼は選ぶべきじゃない。頭では理解している。

 だが同時に、俺の勝負勘が妙に働く。
 真っ当なやり方でこの事態を乗り越えられるなど考えられない。

 このゲームに慣れ、未だに生き残れるほどの力を蓄えた相手と、右も左もよく分からないプレイヤーとしては赤子のような俺が戦わなければいけないのだ。
 ゲーム内最強の武将を登用できたとしても、勝つのは至難の業だろう。

 最強の裏切り武将――華候焔は劇薬だ。

 窮地を救う奇跡の薬となるか、身を亡ぼす毒となるか。

 手堅く守りを固めて失点を少なくするのが、普段の俺の戦い方だ。
 ……そのやり方でずっと東郷に勝てないでいる。

 俺は大きく息を飲み込むと、手を伸ばして『華候焔』の文字に触れた。

「選んじゃうんですか! 真面目そうな誠人様の手に負えないと思いますがねぇー……今、城下町の酒場にいるみたいですよー。直接会いに行って声をかけてみて下さいー」

 白澤のため息交じりの声に「分かった」と返事をしてから、俺は立ち上がって駆け出した。
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