その腐れ縁、異世界転生でリセットOK?~縁は続くよ、どこまでも~

天岸 あおい

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一章 細マッチョエルフの受難~転生しても腐れ縁?ありえねぇ……~

魔獣襲撃!……よりも衝撃!!

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   ◇ ◇ ◇

 森の奥深くにあるエルフの里は、良くも悪くも平和だった。

 娯楽らしい娯楽がないから刺激に欠ける。
 しかし体を鍛えたり、自然で遊んだりするには事欠かないから、体を動かすことが大好きなオレにとっては良い環境だった。

 仕事も兼ねて薬草を採ったり、森の動物を狩ったり、仕事するフリしてアグードとトレーニングする。そんな生活がこれからも続くと思っていたが――。



 ある日、オレとアグードが森から里へ戻ったら、いつになく騒がしくなっていた。

「どうしたんだ?」

 里の外へ逃げようとしていたエルフの少女に声をかけると、彼女は涙目になりながら教えてくれた。

「魔獣が……魔獣がいっぱい来たの! 里の北側で大人たちが戦ってるけど、手に負えないって……」

「分かった。オレたちもすぐに向かう。絶対に追い返してやるから、安心して待ってろよ」

 オレは彼女の肩を叩いてニッと笑ってから、アグードと頷き合って里の北側へと走っていく。

 人間と違ってエルフは素早い。疾風のごとく里の中を走り抜けて北へ向かえば、黒く禍々しいオーラをまとった四足獣たちと大人エルフたちが交戦していた。

「なんだ、アレ……見てるだけで吐き気がしてくるな」

 小さく呟きながらオレは腰のナイフを引き抜くと、真っすぐに魔獣たちの元へ駆けていく。

 オレに気づいた魔獣たちが疎らに振り向き、攻撃しようとする。
 ――だが遅い。通常でも素早いエルフの体を鍛えたオレは、疾風よりも速く動き、魔獣たちの牙や爪を避けてしまう。

 前世でボクシングかじってたから、頭を低くしてシャシャッと動かして避けて、隙だらけの脇腹にザシュッと突き刺す。

 力は鍛えた人間と変わらない程度だから、急所を確実に狙って一撃必殺。
 魔獣が地に転がるのを待たずに、身を翻して攻撃モーション中のヤツの腹にもザクリ。

 手際よく魔獣を仕留めていくが、数が多すぎる。
 次から次に襲ってくる魔獣にいい加減うんざりしてくる。

 横目で隣をチラリと見やれば、アグードがオレと同じような動きで魔獣を倒している。
 でも他のエルフはスタミナ切れ。いつの間にか後退して、オレたちに戦闘を任せてしまっている。

 混乱と焦りと諦めと――負の表情が詰まった面々にオレは叫ぶ。

「動けるヤツは助っ人を呼んできてくれ! 怖いなら逃げろ! 今は何もしないのが一番危ない!」

 喝を入れるように告げた言葉に背を押されたのか、エルフのみんなが動き出す。戦うよりも逃げる道を選んでいく姿に情けなさを覚えつつも、心のどこかで安堵する。

 やっぱり見慣れたヤツらが襲われる姿は見たくない。
 どうにかオレたちだけで追い返さないと……。

 疲労を覚えながら心が折れないよう奮起していた時だった。

「危ない……っ!」

 この世界へ来てからは聞いていない――でも前世で散々聞いた声が聞こえて、オレは思わず固まってしまう。

 刹那、魔獣の影がオレを覆い、大きく口を開けて牙を向けてくる。

 だけどその牙がオレに届くことはなかった。

 力強く剣を振り抜き、魔獣を払い飛ばす音がしてオレは我に返る。そして目の前の光景に頬を引きつらせる。だって現れたのは――。

「俺の名はクウガ……ここは任せてくれ!」

 藍色の軍服を着た青年がオレにしっかりと目を合わせ、頼もしい声をかけてくれる。

 名前がクウガ。
 顔は前世でオレがよく見てきた、強面の顔。

 まさかコイツもこっちに転生してきたのか!?
 腐れ縁を切るために異世界転生したのに……っ。

「ちょっと待てぇぇぇぇい!!」

 魔獣に里を襲われたことより、クウガが現れたことのほうがオレには衝撃だった。
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