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VS魔王
魔王と対面
しおりを挟む魔王の城へ向かうまでの間、今までの苦労はなんだったのだとグリオスが叫びたくなるほど、何事もなく二人は山を登り、洞窟の中を平和に進むことができた。
戦いに来たというより、自然散策を楽しみに来たかのような平和さ。
それでも気を抜いてはいけないと、グリオスは自分に言い聞かせて緊張の糸を張り続ける。反対にエルジュはニコニコとしながらグリオスの手を握り続け、空いた手は機嫌よく前後に振り、どう見ても浮かれた態度だった。しかし、
「あっ、ちょっとこっちから嫌な気配がするから、反対の道を選ぼうよ」
洞窟内で道が分かれた時、初めて来た場所のハズなのにエルジュは堂々と道を指さし、ワナのないほうを選んでいた。
心を入れ替えたようなエルジュの態度に、ふとグリオスは思う。
このまま自分が魔物の餌食にならなければ、一緒に居続けることができるかもしれない。
少し希望が生まれてグリオスの顔から険しさが抜ける。
ほんの一瞬の変化。そんなことすらエルジュは気づいてグリオスに顔を向け、嬉しそうに微笑む。
……戦いが終わったら降参するか。
そんな考えが頭に浮かんで、グリオスは目をそらさずエルジュに向けて頷いて見せた。
歩く距離こそ長かったものの、戦闘もワナもなく、無傷で二人は魔王城の前に立つ。
「いよいよだな。準備はいいか、エルジュ?」
「オレはいつでも準備できてるよ。魔王もオレの前ではスライムと大差なし……一撃でやっちゃうから」
エルジュの場合、誇張ではなくて事実。はっきりと一撃でいけるというなら間違いないと、グリオスは自分よりも一回り小さな背を叩いた。
どちらともなく大きく開かれた門を潜り、魔王城へと足を踏み入れる。
赤い絨毯が敷かれた廊下を駆けていけば、天井が高い大きな広間へと出る。
目の前には禍々しく大きな椅子に腰かけ、脚を組み、ひじ掛けに頬杖をつく男がいた。
鋭い目をした赤毛の青年。見た目通りに気が強いらしく、エルジュたちを見た途端に睨みを利かせ、殺気を漂わせてくる。
そして彼の隣には凛々しい顔立ちの男が立っていた。
紫がかった黒い巻き毛が見事な髪に余裕ある微笑み――グリオスが目を向けた瞬間、やけに色気のある男はさらに口端を引き上げた。
会ったことはないはずなのに、この男には見覚えがある。
内心首を傾げていると、エルジュが剣を抜いて彼らへ切先を向ける。
「一応念のために聞くけど、アンタが魔王ってことでいいかな?」
赤毛の青年はギリッ、と悪歯を噛み締める。
「ここに座っている時点で察しろ! 他の魔物と違って俺は逃げられないんだよ……貴様らがいなければ、好き自由にできたのに……っ」
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