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VS魔王

最小の労力で

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 頂にある魔王の城へ向かうためには、山を中ほどまで登り、洞窟から上へと向かうことになる――過去に似たような形状の魔物の住処を何度も攻略したことがあり、二人は場所を目視できれば、大体の構造が分かるようになっていた。

 山のふもとで向かう先を見上げながら、エルジュが呟く。

「うーん……魔王の本拠地だから当然だけど、魔物の気配が多いねー。相手するの面倒くさそう」

「言っておくが、くれぐれもワナにかかろうとしないでくれ。事あるごとにワナにやられて、抱き潰されながら山を登るなんてことは勘弁して欲しいからな。何度それで心身がボロボロになったことか……」

「分かってるって。今はワナにかかってあげるよりも大切なことがあるから」

「ああ。しっかりと魔王を倒さないといけないからな」

「え、違うよ。そっちはおまけ。魔王なんかよりも、グリオスのことのほうが大切に決まってるでしょ」

 ……あからさまに好意をぶつけられても困る。

 表向きは相変わらず軽い調子のエルジュ。しかし、今までよりも危うさを感じない。
 ずっと羽毛のように風が吹けばフワフワと飛んでしまいそうだったものが、地に足をつけ、根付こうとしているような安定感がある。

 嬉しい変化ではある。しかし目的が自分だと分かっているからこそ困ってしまう。
 ずっと一緒にはいられないというのに――。

「さーてと。魔物を片っ端から瞬殺するのもいいけれど、戦うのは面倒だからねー。後からグリオスとエッチするための体力は温存したいし」

「いや、むしろ発散させろ。お前の無尽蔵な体力と精力に付き合わされる俺の身になってくれ」

「そんなこと言って悦びまくってるじゃん。素直じゃないんだからー……でもさ、時間かけちゃうと魔物たちが束になって襲ってくるから大変になるもんね。だからそうならないために、今日は先手打っちゃう。出し惜しみしないよ!」

 不意にエルジュが片手を高々と上げ、二人の頭上に数多の光の粒を出現させる。

 ひとつひとつは日を浴びて淡く輝く泡粒のごとくな光。それらはゆっくりと二人に降りかかり、薄い光の膜を作っていく。

 グリオスが体の底から清々しくなったように感じていると、エルジュが爽やかに笑いながら教えてくれた。

「退魔の術をかけたよ。これで魔王以外の魔物はオレたちに近づけない。移動するだけで相手が勝手に逃げちゃう。時短時短」

 本来なら術者の力に合わせ、それよりも明らかな格下の魔物を退かせて遭遇しなくなる術。
 どんな魔物でも瞬殺してしまうエルジュならば、使えば効果は抜群だ。

 褒めて欲しそうに目を輝かせながら見てくるエルジュへ、グリオスは盛大にため息をつくしかなかった。

「……最初から使えば良かっただろうが」

「だって魔物のせいでエロくなるグリオスが見たかったから。仕方ないじゃない」

 悪びれるどころか胸を張って開き直るエルジュに、ただただグリオスは呆れるしかなかった。
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