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VSインキュバス
エルジュのほうがご立腹
しおりを挟む「……エルジュ、分かってるな……?」
ベッドに横たわりながら、グリオスがいつになく低い声で切り出す。
隣で体を起こして座っているエルジュは、苦笑しながら肩をすくめる。
「怒らないでよーグリオス。部屋に戻ってみたら夢魔にやられていたんだもん。追い出すためにはこうするしかなかったんだって」
「……本当に俺は夢魔にやられていたのか? そうだとしても、他にやりようがあったんじゃないのか? 抱き潰さないと追い払えないなんて……っ」
「あー……それはヤりすぎちゃった。ゴメン。だってグリオスが寝言で嬉しいこと言ってくれたから張り切っちゃってさ。めちゃくちゃエロくて可愛かったし、ずっとオレの腰に脚巻き付けてイきまくってたし――」
「せ、せめて、俺が起きてからやれ! 目が覚めたらあんな状態なんて……ぅぅ……」
ひと寝入りして目覚めたばかりの今、ついさっきまでの情事が簡単に脳裏へよみがえってしまう。
決して激しい行為ではなかった。しかしエルジュからの「好き」「愛してる」がこれでもかと降り注ぎ、あまりの快感にすべてを委ね、自らも肉欲のまま貪ってしまった。
魔物にやられた人間を介抱するような交わり方じゃない。戯れのものでもない。
明らかに特別な想いを込められた行為――間違いなくついさっきまで、自分はエルジュと愛し合っていたのだとグリオスは自覚する。
しばらく頭を抱えて悶絶した後。グリオスは小さな声を捻り出す。
「……二度とやらないでくれ。ああいう抱き方は」
「ん? どういうこと?」
「あんなに好きだなんだと言いながらしないでくれ。調子が狂う。ただの介抱の一環で、余計なことは言わないでもらいたい」
グリオスが告げた瞬間、エルジュの気配が硬くなる。
部屋に無音が広がり――ギシッ。エルジュがグリオスに覆い被さり、顎を持ち上げて目を合わせてきた。
一切の軽さを捨てた凛とした真顔と強い眼差しに、グリオスは息を呑むしかなかった。
「グリオス……夢で何を見たか、覚えていないの?」
「ああ、何も」
「ふーん……じゃあ、なんで本音でオレと向き合ってくれないの? 何か引っかかることでもあるの?」
「……別に……」
思わずグリオスは目を逸らし、口を固く結ぶ。
心のままに言ってはいけない。
口に出せば取り返しのつかないことになる。そんな予感がグリオスを頑なにさせる。
エルジュが本気で向き合い、こちらの逃げの姿勢に怒りすら覚えていることを感じ取ったとしても――。
ふぅ、と小さく息をついてから、エルジュは顔を近づけてグリオスを覗き込む。
「ねえグリオス。約束してくれる? 魔王を倒したらオレにご褒美くれるって」
「……何をすればいいんだ?」
「オレに素直になって。ちゃんと向き合ってよ――そうしないと、いつまでも抱いて啼かせ続けるから」
言っていることは相変わらずだが、エルジュの顔は真剣なまま。
魔王を倒した後なら――。
グリオスがわずかに頷くと、エルジュは「約束だから」と唇を重ねた。
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