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VSゴブリン

不自然な地面

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   ◇ ◇ ◇

 街から二刻ほど歩き、エルジュたちは洞窟へとたどり着く。
 途中、何度か魔物と遭遇したが、グリオスが即座に剣を抜いて撃退した。

 その間エルジュは「がんばれー」と応援したり、何度か瞬殺を繰り返したら唇を尖らせ「少しはオレの所に回して欲しいんだけど」と不満を漏らしていた。

 連日魔物に凌辱されるては身が持たない――グリオスは必死に立ち向かい、出会った魔物すべてを瞬殺した。
 勇者エルジュは無敵だが、その供をする戦士グリオスもまた強者だった。

 洞窟へ入る前に、エルジュの魔法で二人の体に微光を宿す。そうして自身を松明代わりにしながら中へと足を踏み入れる。

 入口こそ周辺の木々よりも高く大きく開いていたが、中へ進めば次第に窄まっていき、男二人が隣り合って歩くのがギリギリの広さへと変わっていく。

 すると枝分かれした道が増え出し、右へ左へとせわしなく選択し、どこまでも深く進んでいった。

 特に魔物もおらずグリオスは安堵していたが、

「何か出て来ないかな? ちょっと歩くの飽きてきた。退屈ー」

 いきなり勇者が大きな声を出し、グリオスは弾かれたようにエルジュに振り向く。

「馬鹿か! せっかく平和に歩けていたのに、わざわざ見つかるような真似をするな!」

「だって、景色がゴツゴツした岩肌ばっかりで面白くないよ。魔物が出てきてこんにちはーってなると思ったのに……もうこれ、いないんじゃないの?」

 簡単に気を抜くなとグリオスは怒鳴りたくなったが、こんなに洞窟内を響かせる声で騒いでも、なんの気配もない。口を閉ざせば簡単に静寂がやってくる。

 確かにいないのかもしれないと思ったが、グリオスは敢えて首を横に振る。

「もしかしたらワナを張っているのかもしれない。洞窟によく潜んでいるのはゴブリンだ。アイツらならそれぐらいのことはするだろう」

「えっ、ワナ? あるなら探してハマってあげなきゃ――」

 エルジュの足先が、分岐した左へ進もうとするグリオスとは反対を向き、駈け出そうとする。

 がしっ。素早くグリオスはエルジュの後襟を掴み、ジタバタするのも構わずに引きずり歩いた。

「コラッ! 探しに行こうとするな! 今は地図通りに道を選んで進んでいるんだ。ちょっとでも道を逸れると延々と迷うことになる。軽率な行動はしないでくれ」

「そんなつまらないことしたくないっ。きっと獲物がかかるのを想像して、ドキワクしながらワナを張ったと思うんだ。子供が親をビックリさせようと準備している時と同じような心境だと思うと、期待に応えたくならない?」

「う、ん……微笑ましくて弟妹のイタズラにはよくかかっていたが……それとこれを一緒にするな! 子供たちをロクでもないものと一緒にして汚すな! すべての子供たちに謝れ……っ!」

「何を子供の守護神みたいなこと言ってんの? 退屈なこの時間を少しでも楽しく彩る冗談を言っただけなのに……ムキにならないでよ、もう」

 おもむろにエルジュは後襟からグリオスの手を払い、肩をすくめながら隣に並ぶ。その時、

「あ……っ」

 エルジュが声を上げて立ち止まり、つられてグリオスも歩みを止める。

 目の前に広がったのは、小部屋のように丸く開けた場所。
 その中央は不自然に盛り上がり、何かを埋めたような跡があった。

 あまりにもあからさまなワナの気配。

 もっと分かりにくくする方法はいくらでもあるだろうに。
 稚拙なワナにグリオスは口端をヒクヒクとさせる。

 しかし隣のエルジュは視界の端でも分かってしまうほど、喜びに顔を輝かせていた。

「待てエルジュ。あんなワナ、面白くもなんともないからな? 絶対に飛び込むなよ? 踏まないよう壁伝いに歩いて回避するぞ」

「分かってるって。これは流石に稚拙過ぎて面白くないから」

「そ、そうか。じゃあ行くぞ」

 少し安堵しながらグリオスはワナの迂回を始める。
 ……ゆらり。エルジュの頭がグリオスを横切り、飛び出していた。

「やっぱり無理。試したい! どんな雑なワナか、ちゃんとこのカラダで確かめてあげないと……っ!」

「やめろと言っただろうがぁぁっ!」

 グリオスは咄嗟に前へ跳び、エルジュに抱き着いてその身を元の場所へ突き飛ばす。

 入れ替わりにワナへ飛び込む羽目になったグリオスは――ボコォッ!
 盛り上がった地面に肩が当たった瞬間、大穴が開き、グリオスの体は転がり落ちていった。
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