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第一話 B級映画はチョコレートの箱のようなもの。見てみないとわからない。

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「いい加減にしなさい!!!」



 職員室中に担任の前川啓介の声が響き渡る。

 黒いスーツに模様のついた赤いネクタイ、線は細めで眼鏡をかけており、まさに数学の教師の理想を体現した背格好の前川は、普段は温厚で、若さもあってか、生徒から人気が高い。

 そんな前川が怒鳴るのは珍しいことであり、職員室にいたほかの教師たちは何事かとこちらに注目した。



「お前は何回遅刻、無断欠勤をすれば気が済むんだ!このままだと出席日数が足りなくて、卒業できなくなるぞ」



 そんなことはわかっている。

 乙川海おとがわかいはもう高校生だ。

 そして受験生でもある。



「すいませんでした。次から気を付けます。」



 ここで反論するほど馬鹿ではない。

 ここはなるべく早くこの空気から解放されるために簡潔に謝るべきだ。

 こんなとこで油を売ってる暇などないからだ。



 ■



 渋谷しぶやー、渋谷ー。

 アナウンスと共にあふれかえるホームは想像以上に暑苦しい。

 渋谷ならなおさらだ。

 学校終わりの学生であふれかえる渋谷はまさに青春スポットというにふさわしいのだろう。



 彼らの進行を妨害するように突き進み、人気のない通りをいくつか進んでいくと、渋谷とは思えないほど活気の失った通りにたどり着く。

 その通りの一角に他の建物に比べて少しばかり大きい建物がある。

 レトロな雰囲気をまとって、見たこともない映画のポスターを張ってある。

 ミニシアターだ。



(なんとか時間前にたどり着いたな)



 中に入り映画館独特の落ち着いた空気を全身に浴びせる。

 この空気感がたまらなく好きだ。

 東京のせわしない日々を忘れさせてくれる。



 しばらくこの空気を堪能したのち、お目当てのチケットを買いに行った。



 大した映画じゃない。

 先生の説教を手短に終わらせてまで見たい映画でもない。

 ミニシアターでやっている映画なんて海外のよくわからないB級映画ばかり。

 でも、そこでごくまれにあたりを引くことがある。



 そう、期待をような、、、



 俺はそんな映画を待ち望んでここまで足を運んでる。

 そうしているうちに学校をさぼってまで行くようになってしまった。



 今日のはかなり期待できる。

 なんてったって、地底人VS宇宙人だ。

 面白くないわけない。



 俺はそんな期待を胸にシアタールーム1に入った。



 当然といえば失礼だが人は誰もいない。

 ただでさえ静かな雰囲気の映画館をよりいっそう閑静かんせいな場所に仕立て上げ、落ち着きというより不気味さがこみあげてくる。



(でも、これがいいんだよなあ)



 誰もいないということはいわば貸し切り状態ということだ。

 、、、

 なんていい響きなんだろう



 持っていたチケットをポケットに雑にしまい、少し心を驚かせながら座席に座った。



 上映までまだ少し時間がある。

 次に見るB級映画でも探しておこうか。



 ギィィィ、、、



 さびて乾いた音が耳に入った。

 思わず扉を視界に入れた。

 外観とは似つかわしくないほど立派な装飾の施されたシアタールームが半開きに空いていた。



 俺の神聖な領域にがやってきたのだ。



 どんな奴が入り込んできたか気になったが、流石にそれは失礼だろうと思って、見ないようにした。



「ねえ」



「ふぇ!?」



 女の声だった。

 まさか侵入者に話しかけられると思っていなかった俺は驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまった。



「そこ、わたしの座席なんだけど」



 薄暗いからあまり見えないが帽子をしていて、髪型はショート、たぶん黒髪、、、

 スタイルは輪郭からわかるようにきれいで、細かった。

 胸のほうは、、、控えめ。



「ねえ、聞いてる?」



 俺は完全に貸し切りのつもりだったから買ったチケットの座席を無視して座っていたのだ。



「あ、すいません。誰も来ないものだと思って、、、ハハ、、、すぐどきます。」



 何がハハだ、馬鹿野郎俺。

 完全にきもい奴と思われたじゃないか。



「ふふふ」



「え?」



「そうよね、私も貸し切り状態のつもりで来たのにまさか人がいるとは思わなかったもの。いいわよ、そこ座ってても」



 そういうと彼女は俺の隣に座った。



「何よ、文句ある?」



「、、、いえ」



 暗くてわからなかったが彼女は薄く微笑んだ気がした。




 きっとここから俺たちの短くて長い映画が始まったのだろう――
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