上 下
554 / 604
レコンキスタ

PHASE-67

しおりを挟む
「ルネア!」
 急ぎリューディアが回復魔法をと動けば、それを制止するように、彼女へと手を向けるヘイター。

「まったく。お人好しは変わらない……。しかし、死者が成長とか……非効率だね~。実力のある魂を得れば楽なのにさ」

「だが結果として、お前はどうだ?」

「手厳しい……ね」
 亡者を使役し、多数で挑んでも、成長する死者には勝てなかった。
 勝てなかったから、自分は地に転がっている。

「今回も負けたか……」
「ああ」
「淡泊な返しだね」
「そうだな」
 ゲイアードは弟と目を合わせようとはしない。
 向けるのは、自身の右手に付着する弟の鮮血。
 ――――そして、嘆息。

『ヘイター!』
 邪神に妨げられながらも、地に伏すヘイターを目にし大音声で叫ぶヘルム。

「悪かったね……。しかも我が儘で行動した結果がこれだし……」
 掠れ、か細くなる声で返事をすれば、
『いい。力も才も遙かに劣る私を支えてくれた。それだけでも感謝しかない。それに、自身の矜持のために挑んだのだ。私が止める権限はない』

「どうだい、兄さん……。使えるに値する人だ……。僕の力だけを欲している人間が口にする発言じゃない」
 ヘイターのように尖った性格の人間を扱えたのは、看破の乙女アルヴィトによる見通す能力ではなく、純粋にヘイターの気持ちを理解できる人物であったから。
 だからこそ、求められたいと思うヘイターの琴線が揺さぶられたのかもしれない。

「私に力を貸す選択は?」

「ごめんだね。それだけは絶対に嫌だ。父さんと母さんの魂を奪われて、ここで兄さんの力で歩むなんてあり得ない。復活魔法も勘弁だ。だって、僕は兄さんが大嫌いだから」
 先ほどまでとは打って変わって、息苦しさはなく、滑舌のよい語りになるのは、弟の兄を拒絶するという意地だろう。
 兄を屈服させる事が出来ない時点で、全てを捨て去る覚悟をしていたようだ。

「僕の魂は僕だけのもの。僕だけの世界で存在する。だからここでお別れだね。兄さん、リューディアと仲良くしなよ」
 優しさなのか、嫌味なのか分からない笑みを見せれば、ヘイターの周囲に黒い空間が現れ、そこより亡者が数体あらわれ腕を出せば、彼の体を優しく抱え、空間の中へと運ぼうとする。

「行かせない!」

「近づくな!」
 何とか現世こちらに留めようとするリューディア。それを拒絶するヘイターの眼光は不気味なほどに鋭かった。
 睨まれてしまい、体が動かなくなる。
 だがすぐに柔和な笑みに変われば、現世と自分を断ち切るために乖離セーバーを使用し、復活を拒絶。
 そのまま自身の魂は奈落の空間に、自分を慕う亡者たちの世界へと旅立って行った――――。
 強制的と思われていた魂たちの中には、少なからずヘイターを慕う者たちもいたようだ。

「ふぅ」
 小さく息を漏らせば、天を仰ぐゲイアード。
 因縁を断ち切り、残ったのは自らの右手で冷え固まっていく弟の血と虚無感だけ。
 達成感は一切なかった。
 力が抜けるように崩れると、直ぐさまリューディアによって支えられる。

「旅だったな」
「そうだね」
「我々だけでなく、世界にすら迷惑をかける弟を持って苦労する」
「そうだね」
「ふぅ」
 再度、息を漏らせば、腕で目元を隠しながら、最愛の人に支えられつつ横になる――――。



「なんだ!? どうしたんだ!」
 ヘイターが命を落とした事が、戦場に如実に表れる。
 ヴィン海域の者たちの参戦で狼狽が著しかったが、追い打ちのように、側にいた亡者たちが霧散していき、ラゴットの勢力だけが残った。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。 それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。 そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。 アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。 その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。 ※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺わかばEX
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

処理中です...