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レコンキスタ
PHASE-67
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「ルネア!」
急ぎリューディアが回復魔法をと動けば、それを制止するように、彼女へと手を向けるヘイター。
「まったく。お人好しは変わらない……。しかし、死者が成長とか……非効率だね~。実力のある魂を得れば楽なのにさ」
「だが結果として、お前はどうだ?」
「手厳しい……ね」
亡者を使役し、多数で挑んでも、成長する死者には勝てなかった。
勝てなかったから、自分は地に転がっている。
「今回も負けたか……」
「ああ」
「淡泊な返しだね」
「そうだな」
ゲイアードは弟と目を合わせようとはしない。
向けるのは、自身の右手に付着する弟の鮮血。
――――そして、嘆息。
『ヘイター!』
邪神に妨げられながらも、地に伏すヘイターを目にし大音声で叫ぶヘルム。
「悪かったね……。しかも我が儘で行動した結果がこれだし……」
掠れ、か細くなる声で返事をすれば、
『いい。力も才も遙かに劣る私を支えてくれた。それだけでも感謝しかない。それに、自身の矜持のために挑んだのだ。私が止める権限はない』
「どうだい、兄さん……。使えるに値する人だ……。僕の力だけを欲している人間が口にする発言じゃない」
ヘイターのように尖った性格の人間を扱えたのは、看破の乙女による見通す能力ではなく、純粋にヘイターの気持ちを理解できる人物であったから。
だからこそ、求められたいと思うヘイターの琴線が揺さぶられたのかもしれない。
「私に力を貸す選択は?」
「ごめんだね。それだけは絶対に嫌だ。父さんと母さんの魂を奪われて、ここで兄さんの力で歩むなんてあり得ない。復活魔法も勘弁だ。だって、僕は兄さんが大嫌いだから」
先ほどまでとは打って変わって、息苦しさはなく、滑舌のよい語りになるのは、弟の兄を拒絶するという意地だろう。
兄を屈服させる事が出来ない時点で、全てを捨て去る覚悟をしていたようだ。
「僕の魂は僕だけのもの。僕だけの世界で存在する。だからここでお別れだね。兄さん、リューディアと仲良くしなよ」
優しさなのか、嫌味なのか分からない笑みを見せれば、ヘイターの周囲に黒い空間が現れ、そこより亡者が数体あらわれ腕を出せば、彼の体を優しく抱え、空間の中へと運ぼうとする。
「行かせない!」
「近づくな!」
何とか現世に留めようとするリューディア。それを拒絶するヘイターの眼光は不気味なほどに鋭かった。
睨まれてしまい、体が動かなくなる。
だがすぐに柔和な笑みに変われば、現世と自分を断ち切るために乖離を使用し、復活を拒絶。
そのまま自身の魂は奈落の空間に、自分を慕う亡者たちの世界へと旅立って行った――――。
強制的と思われていた魂たちの中には、少なからずヘイターを慕う者たちもいたようだ。
「ふぅ」
小さく息を漏らせば、天を仰ぐゲイアード。
因縁を断ち切り、残ったのは自らの右手で冷え固まっていく弟の血と虚無感だけ。
達成感は一切なかった。
力が抜けるように崩れると、直ぐさまリューディアによって支えられる。
「旅だったな」
「そうだね」
「我々だけでなく、世界にすら迷惑をかける弟を持って苦労する」
「そうだね」
「ふぅ」
再度、息を漏らせば、腕で目元を隠しながら、最愛の人に支えられつつ横になる――――。
「なんだ!? どうしたんだ!」
ヘイターが命を落とした事が、戦場に如実に表れる。
ヴィン海域の者たちの参戦で狼狽が著しかったが、追い打ちのように、側にいた亡者たちが霧散していき、ラゴットの勢力だけが残った。
急ぎリューディアが回復魔法をと動けば、それを制止するように、彼女へと手を向けるヘイター。
「まったく。お人好しは変わらない……。しかし、死者が成長とか……非効率だね~。実力のある魂を得れば楽なのにさ」
「だが結果として、お前はどうだ?」
「手厳しい……ね」
亡者を使役し、多数で挑んでも、成長する死者には勝てなかった。
勝てなかったから、自分は地に転がっている。
「今回も負けたか……」
「ああ」
「淡泊な返しだね」
「そうだな」
ゲイアードは弟と目を合わせようとはしない。
向けるのは、自身の右手に付着する弟の鮮血。
――――そして、嘆息。
『ヘイター!』
邪神に妨げられながらも、地に伏すヘイターを目にし大音声で叫ぶヘルム。
「悪かったね……。しかも我が儘で行動した結果がこれだし……」
掠れ、か細くなる声で返事をすれば、
『いい。力も才も遙かに劣る私を支えてくれた。それだけでも感謝しかない。それに、自身の矜持のために挑んだのだ。私が止める権限はない』
「どうだい、兄さん……。使えるに値する人だ……。僕の力だけを欲している人間が口にする発言じゃない」
ヘイターのように尖った性格の人間を扱えたのは、看破の乙女による見通す能力ではなく、純粋にヘイターの気持ちを理解できる人物であったから。
だからこそ、求められたいと思うヘイターの琴線が揺さぶられたのかもしれない。
「私に力を貸す選択は?」
「ごめんだね。それだけは絶対に嫌だ。父さんと母さんの魂を奪われて、ここで兄さんの力で歩むなんてあり得ない。復活魔法も勘弁だ。だって、僕は兄さんが大嫌いだから」
先ほどまでとは打って変わって、息苦しさはなく、滑舌のよい語りになるのは、弟の兄を拒絶するという意地だろう。
兄を屈服させる事が出来ない時点で、全てを捨て去る覚悟をしていたようだ。
「僕の魂は僕だけのもの。僕だけの世界で存在する。だからここでお別れだね。兄さん、リューディアと仲良くしなよ」
優しさなのか、嫌味なのか分からない笑みを見せれば、ヘイターの周囲に黒い空間が現れ、そこより亡者が数体あらわれ腕を出せば、彼の体を優しく抱え、空間の中へと運ぼうとする。
「行かせない!」
「近づくな!」
何とか現世に留めようとするリューディア。それを拒絶するヘイターの眼光は不気味なほどに鋭かった。
睨まれてしまい、体が動かなくなる。
だがすぐに柔和な笑みに変われば、現世と自分を断ち切るために乖離を使用し、復活を拒絶。
そのまま自身の魂は奈落の空間に、自分を慕う亡者たちの世界へと旅立って行った――――。
強制的と思われていた魂たちの中には、少なからずヘイターを慕う者たちもいたようだ。
「ふぅ」
小さく息を漏らせば、天を仰ぐゲイアード。
因縁を断ち切り、残ったのは自らの右手で冷え固まっていく弟の血と虚無感だけ。
達成感は一切なかった。
力が抜けるように崩れると、直ぐさまリューディアによって支えられる。
「旅だったな」
「そうだね」
「我々だけでなく、世界にすら迷惑をかける弟を持って苦労する」
「そうだね」
「ふぅ」
再度、息を漏らせば、腕で目元を隠しながら、最愛の人に支えられつつ横になる――――。
「なんだ!? どうしたんだ!」
ヘイターが命を落とした事が、戦場に如実に表れる。
ヴィン海域の者たちの参戦で狼狽が著しかったが、追い打ちのように、側にいた亡者たちが霧散していき、ラゴットの勢力だけが残った。
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