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レコンキスタ
PHASE-11
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「いつまで持つかは分からんが、可能ならば、魔法を使用出来るようになるまでは耐えたいな」
急ごしらえの戦闘指揮所を設営し、ラゼンが朽無しの体対策のためにも、急ぎ戒律の乙女の回収を考える。
指揮所は四方をスクトゥムで囲み、その前を防塁と、それを築くために掘った箇所は、そのまま空堀として使用し、攻撃を受けた時の進行を少しでも妨げる防備を手早く築かせた。
荒廃とした庭園の一部に作った指揮所。
ここでも壌獣王と風雷王が使用しているテントが活躍。
指揮所は、前線基地として急ごしらえではあったが、最低限の水準を保った防御を有している。
「問題は戒律の乙女がどこにあるかだな……」
それが分からなければどうしようもないと、そもそもどの様な形状をしているのかすらも現状、分かっていない。
「問題ない。妾が把握しておる」
一人、子供用の足の長い椅子に座る魔王が、腕組みをしつつ、ラゼンへと告げる。
「どこにあるので?」
「妾が作りし物じゃ。どこにあるかは兵仗が放つ気配で感知できる」
得意げに語ると、椅子より飛び降りテントから出る。
「戒律の乙女は、高い位置に設置する事で、より遠くまで魔力遮断を可能とする」
ここで最も高い位置となれば……、と、ラゼンが見上げる。
「捷利嚮導の乙女のあの頭部にあるという事ですか?」
「そうじゃな!」
ラゼンに対し、声音が荒くなる魔王。
失礼でもあったかと頭を下げるが、問題はラゼンではなく、自分が作りだした傑作である捷利嚮導の乙女に、ゴテゴテと外部に取り付け作業をしている事に怒り心頭のようで、頭部や背部などに目を向け、愛らしいまん丸な目が据わったものに変わり、七歳児の体からは考えられない怒気を周囲に放っていた。
「高い位置にあるか――――」
シラクサも顔を上げて眺める。
捷利嚮導の乙女の頭部は烏帽子状になっていて、そのてっぺんともなれば、登るのは難しい。
飛行魔法でも使用出来れば問題ないが、その魔法が現状では使えないことが、シラクサ側を大きく不利にしている。
「伝令!」
軽装な装備にて軽快に走ってくるシーフと思われる冒険者が、シラクサの前で片膝を折れば、
「どうした?」
問いを求めると、冒険者の風体と、亡者の混成部隊が接近しているとの事であった。
大部隊であり、兵数は北門に展開している王軍を上回るとの事であった。
「そうか……」
シラクサの声は重い。
陽動に加えて、南、東からの進行で、相手も部隊を分けているはずなのに、ここに来て、こちらを越える軍勢。
王城跡まであえて引き込んだようにも思われる相手の行動。
相手はここで一気に勝負をかけようとしている。と、考えるシラクサ。
亡者がいる限り、兵力は覆せない。
時間をおけばおくほど、魔法に、兵力。そして眼前の巨神。
戦いが長引き消耗戦となれば、こちらがジリ貧に追い込まれてしまう。
「こちらの士気を落とすように攻め立ててきたか。生意気な!」
ラゼンが怒気を纏って発する。
東と南の進行はまだこちらに到達できる状況ではない。
それだけ、相手の反撃に思わぬ時間を消費しているのだろう。
魔法が使えない。これだけで随分と差が開いていると、痛感させられていた。
「くるぞ!」
先頭にて陣取る冒険者たちが声を上げる。
対抗するように、反対側からも鬨の声が上がる。
「さて、相手はラゴットのごろつきに亡者だ。亡者には炎をぶつけてやれ」
「炎ですか? 投擲榴弾ではなく」
ラゼンの指示に横でシラクサが疑問符を浮かべる。
「投擲榴弾には数に限りがあります。魔法が使用出来ない状況では貴重。しかし、炎は燃やせる物があれば簡単に準備できます」
そう言えば、側に立つ工兵の一人に、腰にぶら下げた革袋をこちらにと言い、受け取ると、自身の剣を抜き、革袋の中身を剣にかける。
「――ふん!」
力一杯に剣を振り、庭園に設けられた石畳の通路に切っ先を擦らせると、火花を生み出し、剣が炎に包まれた。
独特の臭気。
革袋の中身は、ランプなどの燃料に使用するための魚油であった。
急ごしらえの戦闘指揮所を設営し、ラゼンが朽無しの体対策のためにも、急ぎ戒律の乙女の回収を考える。
指揮所は四方をスクトゥムで囲み、その前を防塁と、それを築くために掘った箇所は、そのまま空堀として使用し、攻撃を受けた時の進行を少しでも妨げる防備を手早く築かせた。
荒廃とした庭園の一部に作った指揮所。
ここでも壌獣王と風雷王が使用しているテントが活躍。
指揮所は、前線基地として急ごしらえではあったが、最低限の水準を保った防御を有している。
「問題は戒律の乙女がどこにあるかだな……」
それが分からなければどうしようもないと、そもそもどの様な形状をしているのかすらも現状、分かっていない。
「問題ない。妾が把握しておる」
一人、子供用の足の長い椅子に座る魔王が、腕組みをしつつ、ラゼンへと告げる。
「どこにあるので?」
「妾が作りし物じゃ。どこにあるかは兵仗が放つ気配で感知できる」
得意げに語ると、椅子より飛び降りテントから出る。
「戒律の乙女は、高い位置に設置する事で、より遠くまで魔力遮断を可能とする」
ここで最も高い位置となれば……、と、ラゼンが見上げる。
「捷利嚮導の乙女のあの頭部にあるという事ですか?」
「そうじゃな!」
ラゼンに対し、声音が荒くなる魔王。
失礼でもあったかと頭を下げるが、問題はラゼンではなく、自分が作りだした傑作である捷利嚮導の乙女に、ゴテゴテと外部に取り付け作業をしている事に怒り心頭のようで、頭部や背部などに目を向け、愛らしいまん丸な目が据わったものに変わり、七歳児の体からは考えられない怒気を周囲に放っていた。
「高い位置にあるか――――」
シラクサも顔を上げて眺める。
捷利嚮導の乙女の頭部は烏帽子状になっていて、そのてっぺんともなれば、登るのは難しい。
飛行魔法でも使用出来れば問題ないが、その魔法が現状では使えないことが、シラクサ側を大きく不利にしている。
「伝令!」
軽装な装備にて軽快に走ってくるシーフと思われる冒険者が、シラクサの前で片膝を折れば、
「どうした?」
問いを求めると、冒険者の風体と、亡者の混成部隊が接近しているとの事であった。
大部隊であり、兵数は北門に展開している王軍を上回るとの事であった。
「そうか……」
シラクサの声は重い。
陽動に加えて、南、東からの進行で、相手も部隊を分けているはずなのに、ここに来て、こちらを越える軍勢。
王城跡まであえて引き込んだようにも思われる相手の行動。
相手はここで一気に勝負をかけようとしている。と、考えるシラクサ。
亡者がいる限り、兵力は覆せない。
時間をおけばおくほど、魔法に、兵力。そして眼前の巨神。
戦いが長引き消耗戦となれば、こちらがジリ貧に追い込まれてしまう。
「こちらの士気を落とすように攻め立ててきたか。生意気な!」
ラゼンが怒気を纏って発する。
東と南の進行はまだこちらに到達できる状況ではない。
それだけ、相手の反撃に思わぬ時間を消費しているのだろう。
魔法が使えない。これだけで随分と差が開いていると、痛感させられていた。
「くるぞ!」
先頭にて陣取る冒険者たちが声を上げる。
対抗するように、反対側からも鬨の声が上がる。
「さて、相手はラゴットのごろつきに亡者だ。亡者には炎をぶつけてやれ」
「炎ですか? 投擲榴弾ではなく」
ラゼンの指示に横でシラクサが疑問符を浮かべる。
「投擲榴弾には数に限りがあります。魔法が使用出来ない状況では貴重。しかし、炎は燃やせる物があれば簡単に準備できます」
そう言えば、側に立つ工兵の一人に、腰にぶら下げた革袋をこちらにと言い、受け取ると、自身の剣を抜き、革袋の中身を剣にかける。
「――ふん!」
力一杯に剣を振り、庭園に設けられた石畳の通路に切っ先を擦らせると、火花を生み出し、剣が炎に包まれた。
独特の臭気。
革袋の中身は、ランプなどの燃料に使用するための魚油であった。
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