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王都潜入

PHASE-24

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「ロールさん、もう少し早く行けませんか?」

「ごめん。こういうの慣れてないから」
 いいですよ。僕が速度を上げるんで。
 故意ではなく、事故ということで、そのお尻様にダイブしていいでしょうか? いいですよね!
 ――――吶喊!
 心で唱えて、体現へと移行!
 前方のお尻に触れるんじゃい! 合法的に! 顔面で!!
 さあ! この僕に、その感触を堪能させてくれ!

「ボーイ。全員ダクトに入ったぞ」
 台詞を聞いたと同時に、ムニュンとした感触。とても柔らかい。でも、僕の求めていた柔らかさじゃない……。
 もふもふの毛の感触が混ざっている……。
 なんてタイミングだ! こんなに怒りを覚える事はそうはないぞ! この愛玩生物め!
 背後にいたはずなのに、小型だから悠々と僕の前に躍り出やがって!
 僕が欲したのは、君のプニプニもふもふのぽっペじゃなく、つなぎからでも素晴らしい弾力が伝わってくるお尻がよかったんだよ!
 お尻! 臀部! 分かる!!

「ボーイから迸る怒りを感じる。これからの戦いに気合いが入っているようだな」
 うるせえよ! 勘違いもいいところだよ。
 こちとら下心が理由で怒りを抱いているから、怒りをぶつける事も出来ないよ。
 ばれたら僕が完全悪だからね。
 もやもやした思いを抱きつつも、
「うん、気合いは入っているよ」
 ここで笑顔で応対できる僕は、サイコパスの素養があるのかもしれないな。

 ――。

「――――よいしょ」
 と、ロールさんが降りたところで、僕も続く。
 先に降りた二人が、箱を足場として準備してくれてたから、楽に降りられた。

「ひどいな……」
 第二研究室のありさま……。
 如何にも物取りが入ったような荒れようだ。
 机に棚に、なんでも倒れてる。倒さないと探せないのかと言い返したくなるね。
 ああ……、タモンさんがデザインした、勤労君のポージング模型まで倒されて壊れている。

「どうやら、向こうも魔石を欲しがってたみたいだな」
 嘆息まじりのタモンさん。
 この状況だと間違いなく盗まれてるよね……。
 勤労君を戦闘用にすれば、相当の戦力になると考えたんだろうな。
 ヘルムが、戦闘能力を標準装備にしていない事を愚かな選択と、タモンさんを批判していたな。
 ああいう発言がある時点で、勤労君を欲していたのは理解できた。

「これじゃあ、魔石は……」
 盗まれていると考えるロールさんの声は暗い。

「いや、大丈夫なようだ」
 と、タモンさんは嬉々としている。

「ここを荒らした連中は、棚や室内は見ていたが、下は見ていなかったようだ」
 タモンさんが自分の机の後ろで倒れる棚をどかせば、床に手を添える。
 ――――ガコンと音がする。
 仕掛け扉のようだ。

「調べが足りないな。むこうさんは」

「タモンさんが他に漏らさないように心がけた結果ですね」
 主任二人が、魔石が無事なことを喜んでいるみたいだ。
 まだ下に続く階段に足を踏み入れていない状況で笑んでいるんだから、本当に誰も入り込んでいないという自信があるんだろう。
 
 ――――ほほう。
 なにやら見慣れない機器が多いですな。
 ここだけ別世界だ。
 それに、荒らされてもいない。

「ほら見てみろ」
 と、タモンさんが指差せば、ドーム状の透明なケースの中に、丁寧に魔石が保存されていた。
 そこに所持していた魔石も入れる。

「後はこいつに――――」
 タモンさんがボタンやらレバーを動かせば、ケースの中が赤い光りで照らされた。

「闘争の赤。血の赤だ」
「縁起でも無い」
「こいつらには、これからそれを実行してもらうかもだからな」
「もらうかも? ですか?」
 戦いに出すんでしょ? だからここまで来たわけですし。
 やはり嫌なんだろうな。

「いや、あれだろ。魔力が遮断されてるだろ」
 あ、そうか。
 あれ? じゃあ、ここに来た意味!

「あるぞ。意味」
 口に出さなくても返してくれる。
 戒律の乙女ヘルフィヨトルの効果を無効にしないと魔石も魔法も発動しない。
 魔法も使用出来ない圧倒的不利な状況を打破するためにも、こちらがこの戦いで第一目標に定めなければならないのは、まず間違いなく戒律の乙女ヘルフィヨトルだろうと、タモンさんは考える。
 魔法が使用出来ないと、こちらに勝ち目は無いからね。

「こいつらはその後に大いに励んでもらう。それに早いうちに回収しておいた方がいい」
 このままこの地下施設が見つからないとは言い切れない。
 回収できるなら、早いにこした事はないからね。
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