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王都潜入

PHASE-11

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「捕まえて、ものにしてやる」
 不快な発言だが、亡者はグリーの指示に従うようで、ザイオン氏を補足する。
 物理攻撃しか出来ないザイオン氏では分が悪すぎる。
 
 追撃を諦めて、亡者を回避し、グリーから離れれば、亡者に対して対処法がないと悟ったようで、いやらしい笑みを浮かべると、追撃の亡者の数を増やし、ザイオン氏に差し向ける。数は二十といったところ。

「させない」
 ザイオン氏を守るように、サージャスさんが割って入る。

「いや、させない」
 宙を舞うロングナイフがサージャスさんを襲う。
 ミッシェルによって、ザイオン氏のカバーが妨害された。

「サージャス。あたいはいいから。そいつは任せた!」

「でも……」

「素早さなら負けないから。おい垂れ目の気持ちの悪い男! こんなんじゃ捕まえられないぞ!!」
 大丈夫と、パーティーの勇者殿を安心させつつ、挑発を行えば、単純な男なのか、グリーは更に亡者をザイオン氏に差し向けた。
 それを見ていた、レンショウ、ミッシェルの二名は嘆息だ。
 まんまと挑発に乗って、割かなくていい兵力を割いている事に、用兵がおそまつと思っているようだ。

「よし! 今のうちに導線を繋げ。各所を派手に破壊する準備を」
 百人長の言に従い、釣りなんかでみるリールの親玉みたいなでっかいのを手にして、方々が走り出す。
 釣り糸とは違って、そこには導線が巻かれていた。
 
 各所で爆発を起こして、敵兵をそちらに向かわせ分断する計画。
 目の前に敵がいようとも、この計画は実行するみたいだ。
 ――――相手は人間三人と亡者。
 見た事もない物で、見た事のない行動をとっている。それだけでも警戒されるだろうけど、この三人はさほど気にしてはいない。
 グリーは目先のザイオン氏をターゲットにし、合理主義な二名は、分からない物には関心を抱かないといったところなのか。
 悟った百人長は、やれるだけはやろう。と、いったところだ。

「じゃあ、少しでも上手くいくように俺たちが頑張らないとな」
 未だに胸部分が痛むようで、表情が歪んでいるけど、ドレークさんは得物を握りなおして、再びレンショウへと攻め立てる。
 ムツ氏もそれに続いた。

「二対一でも大いに結構。魔法も使えぬ三流なら仕方なき事だからな」

「うるせえ! 気にしてんだよ」
 気にしてるのか……。やっぱり魔法を使えるようになりたいんだな。

「ならば励めばいい」

「上から目線だな!」

「実際、上の存在だと思っている」
 火球ファイヤーボールを手から放つ。
 言うだけあって、グリーのよりも大きなものだ。武道家風なのに、魔法も使える。
 同じ近接主体の身としては、使えない自分に歯がゆさを覚えるようだ。

「だが、単純な戦いなら負ける気はない」

「確かに――――。そちらはちょっと違うな」
 ドレークさんと一緒に駆けていたムツ氏が瞬時に背後をとり、抜刀。
 レンショウはそれを棍で受け止める。
 大した強度だ。達人が扱う最上業物の一撃を受けきるんだから。

「よき棍にて」

「褒めていただき光栄だ。そちらの一撃も素晴らしい。受けただけで強者と理解できる」

「じゃあ俺は!」
 大振りの一撃でなく、小手先の利いた連撃で攻め立てるドレークさん。
 力任せだけのものでなく、こういう芸当も出来るのが強味だ。

「いいものだが、技というものにおいては、我々の位置までは到達していない」

「精進するさ!」
 レンショウだけでなく、ムツ氏にも顔を向けている。
 仲間でありながらもライバルといった感じだな。
 そのライバルだけが相手に認められている事が悔しいようだ。

「だが、やはり――――」
 棍を振り回し、二人に距離をとらせれば、
「魔法が使えないのは、上級者どうしの戦いでは不利でしかない。故に三流」
 細目でほくそ笑む。

天雷舞踏レビンウィップ
 右手に棍。左手に雷の鞭。
 バリバリと凶悪な音を立て、光が迸る。

「雷の鞭か。でもよ、片手がそれだと、長物の棍は使い勝手が悪いぜ」

「その通りだ。俺は魔法剣の類いを使えるわけでもないしな。なので――――こうする」
 ドレークさんの指摘を受けて、レンショウが棍を捻る。
 捻ったところから外れて、片手剣のサイズの棍になる。
 着脱式でドレークさんとムツ氏の攻撃を防いでたんだな。
 ああいうギミックの代物は、着脱部分で強度が脆くなってしまうのに。捌いて防いでいた。
 脆さを感じさせない、練達した技量を有しているようだ。
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