上 下
434 / 604
変転

PHASE-45

しおりを挟む
「男爵様も、身の潔白のために、戦わずに大公様の話を聞き入れたんですよね?」
 僕なんかが話しに参加してはいけないけども、気になったので聞いてみると、エルギーさんは丁寧に語ってくれた。
 だが、その表情はやはり仄暗い……。
 ――――大公様、男爵様に烈火の如くお怒りになり、館内で胸ぐらを掴んで振り回したそうだ。
 止めに入ろうとしたエルギーさん達、男爵の私兵の方々は、アンデッドさん達に遮られて手も足も出せずに、成り行きを見守る事しか出来なかったそうだ。
 
 大罪人の一族は三族皆殺しと咆哮し、ご子息を指さし、深紅のローブ――、つまりはホーリーさんに命を奪うようにと指示したそうだ。
 ホーリーさんそれに対して、どん引きで断りつつ、対話での解決をと案を出したそうだ。
 大公様は、男爵様に誰に忠誠を尽くすのか述べよと問うたというか脅し、男爵様は泣きながら王様に忠誠をと、発言したそうだ……。

 やり取りに対して、随伴していた不死王幹部の方々は、男爵様の周囲の方々に頭を下げて謝罪していたそうだ。
 
 ――……大公様よ~。こんなやり方は全くもって駄目だろう……。
 完全に悪役のやり方だよ。
 誰よりも魔王軍だな。アンデッドさん達が引くってさ……。
 族誅ぞくちゅう発言されたあげくに、アンデッドさん達に包囲されてたら、誰だって首を縦に振るしか出来ないよね……。
 そんな事で本物の忠誠心を得られるわけがないのに。
 見てよ、王様が頭を抱えながら、エルギーさんに謝ってるよ。
 王様に謝られても困ると、美人さんがあたふたしている。

「と、とにかくですね、ここからは我々も護衛を行わせていただきます。道中では簡単な物しか提供できませんが、食料も運んで来ました」
 大公様に戦々恐々しつつも、男爵様が下知をし、現状で運べるだけの食料を流民に届け、それが滞らないように、道中に兵站線を構築し、物資の輸送を間断なく行うとの事だ。
 存外いい判断をするじゃないか。
 ダメダメでエロエロのどうにもならない、世襲でいまの地位にいるだけだと思ったけど、最低限の領主としての仕事はこなせるんだな。
 これからは食事には事欠かないと広がると、民の皆さんの足取りも心なしか軽いものに変わった。
 
 ――――。
 
 


 ほへ~。
 エギンバ――――、中々に栄えてるな。
 猫の額くらいしかないと言われている領地だけど、しっかりとした街並みだ。
 王都を真似ているのかな? 東西南の三方の門から続く大通りの石畳に中央広場。
 北門に男爵様の館。
 コンパクトにした王都だな。
 ――――ここまでくると、流民の人数も三分の一くらいになった。
 他のモルドー領にある町村に到着した時に、軍用の仮設テントがいくつも建てられていた。
 骨組みがしっかりとし、強風でもびくともしない作りで、各部屋には仕切りもあってプライベートな空間を得られる。
 下手な家よりも優れた代物だ。
 個人用は三角錐のテント。これも一人なら、十分な広さがあった。
 それでも足りないと、モルドー領の町村から現在使用していない幌馬車を集め、それを仮設住宅代わりにという指示も出しているそうだ。
 ますます評価が上がるぞ男爵様。
 一緒にエギンバまで避難してきた方々は、つてがあるようで、親戚と思われる方々が出迎えている。

 ――。

「王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 大通りを全速力でこちらに向かってくる人物。
 大音声のその声は耳にした事がある。
 あの時は生意気なご子息が泣いて、僕の方に全速力で走ってきたな。
 走ってきた内容は、王様と僕では違うけども、速さは一緒だ。
 ダイナミックに石畳の上を滑るように膝を付いての畏まった挨拶。

「今回は大変世話になった。ハワード男爵」

「滅相もございません」
 顔を上げた男爵様の顔を見て、その場にいた方々が一歩後ろに下がってしまった……。
 ――……なんて酷い顔だ……。
 目の下は真っ赤に腫れ上がっている。どれだけ泣けばそうなるのか……。
 初めて会った時と比べて、頬も痩せこけてるし、手だって骨張ってる。
 こころなしか、白髪が目立つような。
 白髪以上に目を引いたのが、左側頭部の拳大の円形のはげだ……。
 精神世界アストラルサイドから徹底的に攻められてるな。コレは……。
 とても三十代には見えない…………。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

Re.パラレルワールドの反逆者〜デブでイジメられていた俺が痩せて帰ってきたら、何故か貞操観念が逆転していた件

ファンタジー
主人公、八神碧月(やがみあつき)は子供の頃、太っていたことが原因でイジメられていた。 そんないじめっ子たちを見返すべく、叔父の元で5年間修行をした結果、細マッチョイケメン(本人無自覚)に変身した。 「よしっ!これでイジメられないぞ!見返してやるっ!」 そう意気込む碧月だったが、山を降りるとなんと、日本は男女比1万人対6000万人になっていた。 何故、こうなったのかも不明 何故、男が居なくなったのも不明 何もかも不明なこの世界を人々は《パラレルワールド》と呼んでいた。 そして…… 「へっ?痩せなくても、男はイジメられないどころか、逆にモテモテ?」 なんと、碧月が5年間やっていた修行は全くの無駄だったことが発覚。 「俺の修行はなんだったんだよぉぉ!!もういい。じゃあこの世界をとことん楽しんでやるよぉ!!」 ようやく平穏な日常が送れる———と思ったら大間違いっ!! 突如、現れた細マッチョイケメンで性格も良しなハイスペック男子に世の女性たちは黙っていなかった。 さらに、碧月が通うことになる学園には何やら特殊なルールがあるらしいが……? 無自覚イケメンはパラレルワールドで無事、生き延びることが出来るのか? 週1ペースでお願いします。

ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。

いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。 成宮暁彦は独身、サラリーマンだった アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。 なにぶん、素人が書くお話なので 疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。 あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。 スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。 だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。 そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。 勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。 そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。 周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。 素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。 しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。 そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。 『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・ 一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...