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変転

PHASE-45

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「男爵様も、身の潔白のために、戦わずに大公様の話を聞き入れたんですよね?」
 僕なんかが話しに参加してはいけないけども、気になったので聞いてみると、エルギーさんは丁寧に語ってくれた。
 だが、その表情はやはり仄暗い……。
 ――――大公様、男爵様に烈火の如くお怒りになり、館内で胸ぐらを掴んで振り回したそうだ。
 止めに入ろうとしたエルギーさん達、男爵の私兵の方々は、アンデッドさん達に遮られて手も足も出せずに、成り行きを見守る事しか出来なかったそうだ。
 
 大罪人の一族は三族皆殺しと咆哮し、ご子息を指さし、深紅のローブ――、つまりはホーリーさんに命を奪うようにと指示したそうだ。
 ホーリーさんそれに対して、どん引きで断りつつ、対話での解決をと案を出したそうだ。
 大公様は、男爵様に誰に忠誠を尽くすのか述べよと問うたというか脅し、男爵様は泣きながら王様に忠誠をと、発言したそうだ……。

 やり取りに対して、随伴していた不死王幹部の方々は、男爵様の周囲の方々に頭を下げて謝罪していたそうだ。
 
 ――……大公様よ~。こんなやり方は全くもって駄目だろう……。
 完全に悪役のやり方だよ。
 誰よりも魔王軍だな。アンデッドさん達が引くってさ……。
 族誅ぞくちゅう発言されたあげくに、アンデッドさん達に包囲されてたら、誰だって首を縦に振るしか出来ないよね……。
 そんな事で本物の忠誠心を得られるわけがないのに。
 見てよ、王様が頭を抱えながら、エルギーさんに謝ってるよ。
 王様に謝られても困ると、美人さんがあたふたしている。

「と、とにかくですね、ここからは我々も護衛を行わせていただきます。道中では簡単な物しか提供できませんが、食料も運んで来ました」
 大公様に戦々恐々しつつも、男爵様が下知をし、現状で運べるだけの食料を流民に届け、それが滞らないように、道中に兵站線を構築し、物資の輸送を間断なく行うとの事だ。
 存外いい判断をするじゃないか。
 ダメダメでエロエロのどうにもならない、世襲でいまの地位にいるだけだと思ったけど、最低限の領主としての仕事はこなせるんだな。
 これからは食事には事欠かないと広がると、民の皆さんの足取りも心なしか軽いものに変わった。
 
 ――――。
 
 


 ほへ~。
 エギンバ――――、中々に栄えてるな。
 猫の額くらいしかないと言われている領地だけど、しっかりとした街並みだ。
 王都を真似ているのかな? 東西南の三方の門から続く大通りの石畳に中央広場。
 北門に男爵様の館。
 コンパクトにした王都だな。
 ――――ここまでくると、流民の人数も三分の一くらいになった。
 他のモルドー領にある町村に到着した時に、軍用の仮設テントがいくつも建てられていた。
 骨組みがしっかりとし、強風でもびくともしない作りで、各部屋には仕切りもあってプライベートな空間を得られる。
 下手な家よりも優れた代物だ。
 個人用は三角錐のテント。これも一人なら、十分な広さがあった。
 それでも足りないと、モルドー領の町村から現在使用していない幌馬車を集め、それを仮設住宅代わりにという指示も出しているそうだ。
 ますます評価が上がるぞ男爵様。
 一緒にエギンバまで避難してきた方々は、つてがあるようで、親戚と思われる方々が出迎えている。

 ――。

「王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 大通りを全速力でこちらに向かってくる人物。
 大音声のその声は耳にした事がある。
 あの時は生意気なご子息が泣いて、僕の方に全速力で走ってきたな。
 走ってきた内容は、王様と僕では違うけども、速さは一緒だ。
 ダイナミックに石畳の上を滑るように膝を付いての畏まった挨拶。

「今回は大変世話になった。ハワード男爵」

「滅相もございません」
 顔を上げた男爵様の顔を見て、その場にいた方々が一歩後ろに下がってしまった……。
 ――……なんて酷い顔だ……。
 目の下は真っ赤に腫れ上がっている。どれだけ泣けばそうなるのか……。
 初めて会った時と比べて、頬も痩せこけてるし、手だって骨張ってる。
 こころなしか、白髪が目立つような。
 白髪以上に目を引いたのが、左側頭部の拳大の円形のはげだ……。
 精神世界アストラルサイドから徹底的に攻められてるな。コレは……。
 とても三十代には見えない…………。
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