418 / 604
変転
PHASE29
しおりを挟む
「話の流れからして、僕がヴィン海域で死ねばいいとか思ってただろ」
僕がカグラさんを詮索し始めて、もし調べ始めでもしたら鬱陶しいと考えたはずだ。
大公様の案の、ヴィン海域への出向は渡りに船だったんだろうな。
「仕方が無いだろう。今回のことで理解したが、君は思慮深い。放置しておくわけにはいかなかった。私に先見の明があったという事だな。しかし、ヴィン海域から帰任してくるとはね。噂ほどではないようだな。あそこは」
現場を知らない奴はそう思うだろうよ。あそこが地続きの異世界だって事を理解出来ないだろうね。
行って過ごした人間じゃないと分からないよ。あそこの地獄っぷりは……。
でもって、もう一つ分かったことがある。
【放置しておくわけにはいかなかった】この台詞。
こいつ、大公様が提案したとか言ってたけども、憶測を口にした次の日には、ふわふっわの内容でヴィン海域に出向を命じてきた。
間違いなくヘルムが僕を厄介払いしたな。大公様はこの事には関与してないだろ。
――――――ニヤリと口角を上げやがった! こいつぅ!
「テメー! マジでボッコボコにしてやんよ! 方面軍大移動を本気で見舞ってやるかんな! お前は死ぬ!!」
「やれるもんなら、やってみな。と――、言えばいいのかね?」
クソォォォォォォ! それは僕の台詞だぞ!
「食らってやるわけにもいかんな」
『準備できたぞ。いつでも撃てる』
「そうか――――」
何だよ? 撃つって? 明らかによからぬ事が起きる気がしてならない。
「まずいのう」
魔王さん? なんなんだい? なにがまずいんだい?
僕を見上げると、
「これは撤収準備にかからねばならん」
この方がこう言うって事は、本当に危機なんだな。
王都に何かが撃たれるって事だろ。
「魔王、貴様は後だ。初弾はあそこだ」
ヘルムが食指を向ける先は――――、白亜の巨大な建造物。平たく言うと城だ。
おいおい……、嘘だよな。
流石に標的が城と知ると、戦闘を行っていたケーシーさん、ゲイアードさん達が動きを止める。
「考え直せ。やめるならいまだぞ」
「歪んだ世界を作りだした悪しき象徴だよ」
この人、暴走している。
箍が外れやがった。
いままで溜め込んでいた負の感情が決壊したようだ。
こうなったら、とことんまでやるな。で、終われば世界のためだったと、自身の決断を正当化してしまうだろう。
「王都を守る結界魔法など飾りだ。捷利嚮導の乙女の一撃ならば、容易く城まで届く」
「やめろ!」
「――――準備」
『おうよ。念じて狙いを王城へと定める』
どうする!? ――……どうしようもない…………。
ケルプト山で起こっている事をここから対処なんて出来っこない。
後はンダガランさん達に託すだけしか出来ないけど、カグラさんが囚われの身となっているから何も出来ないだろう。
どうにもならない。王都の結界なんて簡単に破られる……。
「では――――、撃て」
『あいよ。発射!』
平然とやりやがって! この人の怨嗟には躊躇が入る隙間もないのか。
「身をかがめて!」
ここにヘルムがいる限り、この場は安全と考えられるけど、この一撃で更なるパニックが起きることは間違いない。
王城内では多くの死傷者だって出るだろう。その中には王族の方も含まれる。
それでも撃つことが出来るってことは、ヘルムは世界を敵に回しても、太刀打ち出来るだけの力を有したという事になる。
――――ケルプト山の方角から、一筋の赤い光。光は周囲に黒い雷みたいなのを纏わせ、王都に迫ってくる――――。
「直撃!」
強烈な光が結界に触れる。
光によって、強制的に目を閉じさせられる。
終息し瞳を開けば、最悪の光景を目の当たりにする事になるんだろう…………。
鼓動を大きくしながら、恐る恐る王城に目を向けてみる。
――――何事もないように、白亜の輝きが威光を放っていた。
「馬鹿な!!」
ヘルムが僕よりも驚きの声を上げる。笑みを浮かべていた口元は、ポカンと開いている。
仕方が無いことだ。僕だって、終わったと思ったもの。
簡単に破壊されるイメージしかない結界が耐えたのだ。確かにそこそこの魔法は防げるよ。
でも、あの光の帯を防げるとは到底思えないんだけど。
あれか? 派手なだけで、大したことなかったのか?
実をいうと、結界は凄いものだったのか? いや、凄くないと困るけども……。
「ありえん。十分に破壊可能なはずだ。どういうことだ、ダイアン!」
『俺かよ! ちゃんと現状の最大出力で撃ったぜ』
「ではなぜだ……」
困惑しつつ空を見上げている。
魔法陣が健在なことで、表情が苦々しいものに変わっていく。
でもなぜなんだ? ヘルム達の会話が真実なら、なんで無事なんだ。
――――あ!? そういえば!
以前サージャスさんと魔道開発局に赴いていた道すがら、馬車の上からサージャスさんが結界を目にして大層に褒めてたな。
クリネアでもこれほどの結界は展開されてないとかなんとか。
その時は信じられないと思ってたけど、現に防いだからな……。
サージャスさんの言は正しかったのか。
でも、これカグラさんが、空飛ぶ移動要塞こと、ブラッドシップさんに乗って王都に被害を出した時に簡単に壊れたからね。
つい最近だと、邪神が整備局にダイナミック入室した時に、知らず知らずに壊してたし。
その程度の強度でしか――――、ん? 邪神?
――――確か、邪神が来て、ロールさんが公務員最強の真言である【規則なんで】を発動。
で、壊した結界を修復させるために、邪神に魔力供給を――――、
魔力供給……。あの邪神が魔力を結界内に流し込んだ事になるんだよな…………。
――………………。
「邪神かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
僕がカグラさんを詮索し始めて、もし調べ始めでもしたら鬱陶しいと考えたはずだ。
大公様の案の、ヴィン海域への出向は渡りに船だったんだろうな。
「仕方が無いだろう。今回のことで理解したが、君は思慮深い。放置しておくわけにはいかなかった。私に先見の明があったという事だな。しかし、ヴィン海域から帰任してくるとはね。噂ほどではないようだな。あそこは」
現場を知らない奴はそう思うだろうよ。あそこが地続きの異世界だって事を理解出来ないだろうね。
行って過ごした人間じゃないと分からないよ。あそこの地獄っぷりは……。
でもって、もう一つ分かったことがある。
【放置しておくわけにはいかなかった】この台詞。
こいつ、大公様が提案したとか言ってたけども、憶測を口にした次の日には、ふわふっわの内容でヴィン海域に出向を命じてきた。
間違いなくヘルムが僕を厄介払いしたな。大公様はこの事には関与してないだろ。
――――――ニヤリと口角を上げやがった! こいつぅ!
「テメー! マジでボッコボコにしてやんよ! 方面軍大移動を本気で見舞ってやるかんな! お前は死ぬ!!」
「やれるもんなら、やってみな。と――、言えばいいのかね?」
クソォォォォォォ! それは僕の台詞だぞ!
「食らってやるわけにもいかんな」
『準備できたぞ。いつでも撃てる』
「そうか――――」
何だよ? 撃つって? 明らかによからぬ事が起きる気がしてならない。
「まずいのう」
魔王さん? なんなんだい? なにがまずいんだい?
僕を見上げると、
「これは撤収準備にかからねばならん」
この方がこう言うって事は、本当に危機なんだな。
王都に何かが撃たれるって事だろ。
「魔王、貴様は後だ。初弾はあそこだ」
ヘルムが食指を向ける先は――――、白亜の巨大な建造物。平たく言うと城だ。
おいおい……、嘘だよな。
流石に標的が城と知ると、戦闘を行っていたケーシーさん、ゲイアードさん達が動きを止める。
「考え直せ。やめるならいまだぞ」
「歪んだ世界を作りだした悪しき象徴だよ」
この人、暴走している。
箍が外れやがった。
いままで溜め込んでいた負の感情が決壊したようだ。
こうなったら、とことんまでやるな。で、終われば世界のためだったと、自身の決断を正当化してしまうだろう。
「王都を守る結界魔法など飾りだ。捷利嚮導の乙女の一撃ならば、容易く城まで届く」
「やめろ!」
「――――準備」
『おうよ。念じて狙いを王城へと定める』
どうする!? ――……どうしようもない…………。
ケルプト山で起こっている事をここから対処なんて出来っこない。
後はンダガランさん達に託すだけしか出来ないけど、カグラさんが囚われの身となっているから何も出来ないだろう。
どうにもならない。王都の結界なんて簡単に破られる……。
「では――――、撃て」
『あいよ。発射!』
平然とやりやがって! この人の怨嗟には躊躇が入る隙間もないのか。
「身をかがめて!」
ここにヘルムがいる限り、この場は安全と考えられるけど、この一撃で更なるパニックが起きることは間違いない。
王城内では多くの死傷者だって出るだろう。その中には王族の方も含まれる。
それでも撃つことが出来るってことは、ヘルムは世界を敵に回しても、太刀打ち出来るだけの力を有したという事になる。
――――ケルプト山の方角から、一筋の赤い光。光は周囲に黒い雷みたいなのを纏わせ、王都に迫ってくる――――。
「直撃!」
強烈な光が結界に触れる。
光によって、強制的に目を閉じさせられる。
終息し瞳を開けば、最悪の光景を目の当たりにする事になるんだろう…………。
鼓動を大きくしながら、恐る恐る王城に目を向けてみる。
――――何事もないように、白亜の輝きが威光を放っていた。
「馬鹿な!!」
ヘルムが僕よりも驚きの声を上げる。笑みを浮かべていた口元は、ポカンと開いている。
仕方が無いことだ。僕だって、終わったと思ったもの。
簡単に破壊されるイメージしかない結界が耐えたのだ。確かにそこそこの魔法は防げるよ。
でも、あの光の帯を防げるとは到底思えないんだけど。
あれか? 派手なだけで、大したことなかったのか?
実をいうと、結界は凄いものだったのか? いや、凄くないと困るけども……。
「ありえん。十分に破壊可能なはずだ。どういうことだ、ダイアン!」
『俺かよ! ちゃんと現状の最大出力で撃ったぜ』
「ではなぜだ……」
困惑しつつ空を見上げている。
魔法陣が健在なことで、表情が苦々しいものに変わっていく。
でもなぜなんだ? ヘルム達の会話が真実なら、なんで無事なんだ。
――――あ!? そういえば!
以前サージャスさんと魔道開発局に赴いていた道すがら、馬車の上からサージャスさんが結界を目にして大層に褒めてたな。
クリネアでもこれほどの結界は展開されてないとかなんとか。
その時は信じられないと思ってたけど、現に防いだからな……。
サージャスさんの言は正しかったのか。
でも、これカグラさんが、空飛ぶ移動要塞こと、ブラッドシップさんに乗って王都に被害を出した時に簡単に壊れたからね。
つい最近だと、邪神が整備局にダイナミック入室した時に、知らず知らずに壊してたし。
その程度の強度でしか――――、ん? 邪神?
――――確か、邪神が来て、ロールさんが公務員最強の真言である【規則なんで】を発動。
で、壊した結界を修復させるために、邪神に魔力供給を――――、
魔力供給……。あの邪神が魔力を結界内に流し込んだ事になるんだよな…………。
――………………。
「邪神かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道
コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。
主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。
こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。
そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。
修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。
それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。
不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。
記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。
メサメサメサ
メサ メサ
メサ メサ
メサ メサ
メサメサメサメサメサ
メ サ メ サ サ
メ サ メ サ サ サ
メ サ メ サ ササ
他サイトにも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?


俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる