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変転

PHASE-22

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「親父殿も母様にも、もう会わせてあげないから」

「解放するだけだ。お前を倒してな」

「はいはい」
 またも石畳に諸手を置く所作。
 
 ――……おいおい……。

「これは……」
 大きな魔法陣が現れると、とびきりデカい、ガリガリのドラゴンが現れた……。

「ちょっとだけ本気。遊んでやれ、古龍」
 古龍。最古参位エルダークラスまで使役してんだな。
 ――――巨大な尻尾を動かす。それだけの所作で、建物が数軒倒壊した。
 三階建ての多層型共同住宅インスラの屋根を見下ろせるくらいの体長。
 こんなもんが王都で暴れるとか、大迷惑だよ。
 尻尾の次はと、吸気を行い、肋が浮き出たガリガリの胸部分が大きく膨れあがる。

「ブレスだ!」
 自身も使用するからか、誰よりも早く察知するシュパーブ君の言葉に、リューディアさんが僕たちの前に立ち、結界を展開してくれる。
 口から放たれたのは、強烈な炎。
 結界のおかげで熱さは感じないけど、周囲を燃やし尽くす炎で、木材が燃える臭いは鼻に届く。

「あの古龍は火龍種か」
 亡者となっているから、どの種か分からなかったけど、一帯を焦土にしてしまう炎で理解できた。

「どうだい。以前にも出会った事のある古龍の力は?」
 以前? こんなデカい知り合いなんて、ドレッドノートさんみたいにご健在な方以外では知らないけどな。

 ――――以前。火龍の古龍。――――古龍!?

「化石の!」

「ご名答だよ。ヘルムさんの言うように頭が回るね、赤錆頭君」
 うるせい! 赤錆って言うな!

「立派な古龍の化石を子爵が欲してたからね~。よさげなのを探すのに、古龍の魂を無理矢理に召喚してから使役したんだけど、まさかその古龍があんなにも立派なオパールになってるなんてね~。ビックリだったよ」
 こいつが化石を山肌に露出させたのか。で、子爵様に情報を提供したってわけね。

「ま、採掘に兄さんを入れさせたのは、王都で公務員をやってるのが、本当に兄さんだったのかを調べたくてね~。兄さんって、昔からガードが堅くて、中々に近づけなかったからね。まあ、ガードが堅い時点で、兄さんって事だったんだろうけども。王都内ほどでなくても、森でもろくに監視が出来なかったよ」

「先ほども言ったが、森でお前の気配と不快な視線は常に感じていた。睨めば下がり、また覗くの陰湿なものだった。如何にもお前らしい」
 森の移動時、時折見せていた炯眼はそれだったか。
 にしても、ここにきてヘイターがゲイアードさんに対しての一人称を統一したな。兄さんに固定されてる。
 口でも言ってたけど、本気になってるって事なのか?

「びっくんびっくん感じていたよ。兄さんの視線。熱かった~」
 本気になってると思ったけど、言葉通り、ちょっとだけか……。飄々なのは変わらないな。
 真剣になってみたり、おちゃらけたり、感情の起伏の激しさが、思考に直結してるよ。

「子供のまま大人になったん――――」
 シュンと、頬の横を何かが通過していった。
 ――……僕に向けられたヘイターの食指。
 僕の前で腕を振り切ったゲイアードさん。その手からはプスプスと煙が上がっている。

「ピート君。いくら真実でも、口に出してはいけない。相手は子供の思考なんだから。直ぐに癇癪を起こす」

「どっちもむかつくな~」
 僕の体にまたもや穴が空いてしまうところだった……。
 本来ならここでへたりと腰砕けになるのだろうけど、ヴィン海域から帰ってきてるんだ。素人だけども、このくらいじゃ心は折れないさ。
 ゲイアードさんには申し訳ないけど、
「むかつく理由が分かるか?」
 って、言ってやった。

「分からないね~」
「本当のことを言われてるからむかつくんだよ」
「ハハハ――――、亡者にして飼ってやるよ」
「やれるもんなら、やってみな」
 以前、整備長に発した内容をそのまま言ってあげれば――――、まあ怖い。
 哄笑をしても、仮面の奥の琥珀な瞳が血走っている。
 このタイプは自分より劣っている者に馬鹿にされるのが、一番腹立たしく思うもんだ。
 でもって、自分が一番だと考えてるから、侮蔑をされれば、誰に対しても怒りの感情を抱くんだよな。
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