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変転

PHASE-17

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「ヘイター。いつまで寝ているんだ」
 怒号のヘルム。

「いや~。石畳が冷たくて気持ちよかったんですよ」
 整備長みたいな言い訳だな。
 うちのおっさんと違って、飄々としてるけども。怪我すらしてない……。

「ほいっと」
 サージャスさんと相対していた時と同様に、腹部から手が出てきた。以前見た時のようなはっきりとした腕じゃない半透明だ。目をこらさないと見えない。

「ちっ」
 伸びる腕。アルコンへと迫ったケーシーさんを捕捉して追いかける。
 追撃を諦めて、回避を選択するケーシーさん。
 捕まってやるわけにはいかないと、変則的に動きつつゲイアードさんと合流。

「あの腕、ドレインタッチか。ラマンディール配下の者達がよく使うやつじゃな」

「俺ちゃんとピートも、半透明の腕だけを地面から出した不意打ちで体力を奪われたんでしょう」
 そう言いながら、シュパーブ君が僕と魔王さんの護衛のため、僕たちの前で浮遊して待機。
 
 魔王さんが口にした人物、ラマンディールさん。
 誰のこと? って、思ったけど、不死王さんだったな。

「魔王ちゃんの言うように、ドレインタッチだよ。でもね、当方のは吸引力が他者とは違いますから。吸引力の落ちないただ一つのドレインタッチだからね」
「おい、他者とは違うと言われておるぞ」
「それは私のことですか? ヴァルバディッシュ氏。私はあのような下品なものは使用しませんよ」
「なんて酷い。お兄はいま、世界中のアンデッド達を敵に回した発言をしたよ」
「お前のが下品なだけだ。他ではまったく嫌悪感を抱かない」
「なんて差別的な発言」
差別主義者ヘイターが言う事か」
 うむ……。なんだろうね。普段は物静かなゲイアードさんだけども、ヘイターと話していると、熱を帯びて饒舌になるな。
 憎悪ぞうお的なものかな……。過去に何かあったんだろうね。

「真面目にやれ!」
 柏手かしわでを一回ならして、場を締めるヘルム。

「了解であります」
 冷たい語調で注意を受けるも、気にしていないように敬礼しつつ楽観的に返答し、ヘイターは姿勢を低くする。

「来るか」
 ケーシーさんも構える。
 僕たちの前に立つ、ゲイアードさんとケーシーさん。
 その後方で、僕たちを守るシュパーブ君という布陣。

我が玩具箱カタコンベ
 石畳に諸手を当ててそう口にすると、どす黒い六芒星の魔法陣が現れた。陣の縁部分はくすんだ赤い光を発している。
 見ているだけで寒気を覚える魔法陣の中央に、ヘイターがやおら立つ。

「ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
 立ったのを合図にしたように、うめき声が地面からこだまする。
 反響していて、地面のどの辺りでうめき声が上がっているのか分かりにくいから、恐怖がさらに増してくる。
 耳を塞ぎたくなる、絶望感に支配された声だ。
 ――――ヘイターの足下にある魔法陣が方々に散っていき、各魔法陣から次々と這い出してくる存在……。

「なんだ……あれ」

「亡者だよ」
 僕の声を背中で受けて、振り返ることなく、ゲイアードさんが淡々した口調で教えてくれる。僕との時は、口調がいつも通りになるな。
 ――風体は、ミイラみたいなのが、うっすらと緑色の光を纏っている。

「う……」
 目があった、不気味さに後退りだ……。
 白目の部分は黒く、黒目との境が分からない。

「ぁぁぁああああぁぁぁぁあ」
 言語はない。
 一体一体の服装が違う。
 亡者って事だから、生前があったってことだよな。アンデッドに属するのだろうか? でも、不死王さん達とは明らかに違うな。
 あの方々と違って、眼前で現れてくるのには意思がないようだ。
 自立はしているけど、フラフラとした足取りで、力なく歩いている。
 
 ――…………まだまだ出て来るんだけど……。

「際限ないんですか?」

「まったくもって、不快そのものだ。どれだけの魂を無理矢理に使役しているのか」
 眼前のホラーよりひんやりする声ですね。ゲイアードさん。
 怒ってるな~。
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