拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

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PHASE-16

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「バラッド・ボドリックを知っているか? 昔、貴様と共に戦っていた勇者の一人だ。私にはその者の姓と血が受け継がれている」
「知らん。数多あまたいる勇者たちをいちいち覚えてるわけがなかろう。面倒くさい」
「嘘だな。その他大勢に兵仗を与えるわけがない。貴様の発言通りならば、考えずに兵仗をばらまいたというのが真実となり、貴様は真の凡愚であると立証される」
「――――無駄に空回りした正義感を持っておった」
「やはり知っているのだな」
「血は争えんな。空回り故に失敗する。だからこそ看破の乙女アルヴィトを託し、人々の考えに耳を傾け、柔軟に対応出来るように成長してほしかった……」
「上手くいかなかったようだな」
「真面目すぎたのじゃ。貴様同様に」
 生真面目に考えるから、凝り固まった考えに支配されて、人の心を覗いても、自分の考えに不平を持つ声ばかりが記憶に残り、それに対応するのでなく、拒絶していき、更に意固地になってしまったそうだ。

「人格を見抜けなかった貴様の罪よ。この看破の乙女アルヴィトも私の代で終わりだ。両親もすでにいない。結婚するつもりもない。この忌々しい兵仗を後世に残さぬように、私がこの世界を変え、その後、貴様の亡骸と共に、全ての兵仗を消滅させてくれる!」
 自前ってそういう事ね。
 にしても、何ともおっかない事を口にするもんだ。世界を変えるって、世界を統治するつもりか?
 どれだけ正道だと自負していたとしても、神殿や封印塚を荒らして、城の庭園でも暴れて、今回は西門付近の破壊活動。
 何より、魔王さんだったにしろ、小さな子に暴力を行使するような人物は信頼できないな。

「信頼できないかね?」

「はい」
 ばっちり心の中を覗いてたな。自身を持って拒絶できるよ。

「魔王に与するつもりか。即ち――――異端となるか」

「その昔、異端と決めつけて裁く側の立ち位置にいた連中って、自分たちが世界を歪めてたってのが理解できてなかったお馬鹿の集まりなんですよ。局長もそのお馬鹿の仲間入りですか?」

「崇高な志も分からん小僧には、表面しか見えんか。このいびつな世界を正そうと思えんとは――――、劣等だな」
 歴史が物語ってるから言ってあげたのに。劣等扱いとか……。
 
 でもこれではっきりしたな。自分の意に反する者たちには、異端だの劣等のレッテルを貼り付けて迫害していくんだな。
 過激になっていって、そのうち種族浄化とか言い出すぞ。
 まったく、危険な思想を持ってた人の下でよく働いてたよ。僕も……。

「で? 長いやり取りだったが、終わったか?」
 場を一気に冷やすくらいの声。
 手にする二本のナイフがキラリと光る。

「ああ、終わったよ」

「では、仕留めよう――――」
 消えた!? ケーシーさんが消えた!

「アルコン!」

「承知!」
 おののいていた気持ちを振り払うような、腹から出た声だ。
 
 キンッっと、金属音と火花が発生。
 
 局長もとい、ヘルムの背後に回っていたケーシーさんの一撃を、アルコンのロングソードが受け止める。
 サージャスさんの時は脅威って感じじゃなかったけど――――、あれ? もしかして強い?

「流石によい動き。だが、ブランクがあるようで」

「いいハンデだろ」

「言ってくれますな!」
 横一文字を描くアルコンの一振りを、緩やかに後方移動で回避。
 ケーシーさんの動きは掴み所のないものだ。
 緩やかで、時として速い。
 流れに逆らわず、絶えず変化する水のようだ。
 おまけに見えているのに、気配を感じづらい。

「ぬう! 面妖な動きだ」
 とはいえ、それでもアルコンは捕捉出来てるんだな。

「お宅もいい腕だが、勇者としてはロートルだろ」

「生涯現役よ!」
 言いつつ、ムキになってる。ロートル発言に気分を害したようだ。
 
 乗せられてるな。僕だって分かるよ、挑発を見事に受けてるって事が。
 ヘルム同様に生真面目なんだろう。そのぶん乗せられやすいんだろうな。大振りの一撃では、ケーシーさんは捉えられない。
 
 終わりだな。自信を持ってそう思える。
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