上 下
402 / 604
変転

PHASE-13

しおりを挟む
「とうとう姿を現したな。見なさいピート君。それがそいつの正体だ」
 正体だって言われましてもね。上から目線で、髪と瞳の色が変わっただけで、正体は分からないんだけど。
 そもそも、この世界ではこんな事は日常茶飯だから。死んでも蘇ったりする方々がおられる世界だからね。
 髪と瞳が変わった程度じゃ、インパクトに欠けるよね。
 見なさいとか言う前に、きちんと説明しろよ局長。

「あの~どちら様で?」
 ここはまず、正体を知ろうじゃないか。

「ほう、随分と落ち着きのある者じゃな。流石は己が身よりも、幼子を救おうとする気骨ある者じゃ」

「あ、どうも」
 レインちゃんの事を幼子と言ってるから、レインちゃんじゃなく、第三者なのは間違いない。レインちゃんだけど、レインちゃんじゃないんだな? それとも、レインちゃんの真の正体とかってやつかな?

「困惑した目で見るな。ちゃんと名乗ってやる」
 黒いワンピースについた埃を手ではらいつつ、僕の前に立つと、小さな体で腕を組んで胸をはり、
「妾はビルギットじゃ」

「ビルギットさんですか?」
 ん? ビルギット?

「ビルギット・ピア・ヴァルバディッシュじゃ」

「――………………って、魔王じゃないか!」

「さよう、妾が魔王じゃ」
 ふぁ!? 冗談じゃ……、ないようだな。
 そうだよね。こんなシリアスな展開になっている時に、冗談なんて言わないよね。
 間違いなくシリアス展開だ。僕なんて、お腹に穴が空いて死にかけたわけだし。

「本当に魔王さん?」

「しつこいの~女人に嫌われるタイプじゃな」
 ぐっは! 一番ダメージが大きいんですけど……。
 自信に満ちた笑みだ。レインちゃんの元気な笑みとは違う。権力者のものだ。
 シュパーブ君は直ぐさま魔王さんの前で跪いてるし。
 ぱっと見、子供が足下にぬいぐるみを落としたようにも見える光景だな。

「魔王。この世界を歪めた存在!」
「世迷い言を、妾がいつ世界を歪めた」
「貴様が前王と会談し、いまのシステムを作り出したことだ!」
「よいではないか。人々は平和にすごしている」
 ――――見下しながらの熱のこもっていない口調。
 それで局長の発言に返していくものだから、怒りを抱く局長のこめかみに浮き出た血管からは、鮮血がいまにも噴き出しそうな勢いだ。
 血管が激しく蠢いて、生き物を飼っているみたいだ。
 
 会談によって、一般人に被害が出るって事は極端に減ったからね。魔王さんの言うことは間違ってはいないんだけども。

「何が平和だ! いびつなのだ! 偽りの平和なのだよ。真に平和というのならば、魔族などいらんのだ! その事も分からんとは、流石は兄に邪神をもつだけ――――」
 言い終えることなく、突如と発生した吹き荒ぶ風によって、局長は言葉を封じられた。
 目に土埃が入らないように、腕で顔を覆いながら状況を窺っていると、局長に向けて、魔王さんが腕を振り切っていた。
 発生した突風は、魔王さんが起こしたものか。

「妾は寛大ではあるが、と並べられると吐き気を催す」
 邪神が復活する時に言ってたな。妹には、これ、それ、あれの指示代名詞で呼ばれてたって。嘘じゃなかったみたいだな……。

「ふっ、この程度で私が臆するとでも?」

「の、わりには、声に張りがないの~。肝を冷やしておるのではないかえ?」
 体型と語り方が全くもってマッチしていないよ魔王さん……。

「言ってくれる。そよぐ風ていどしか生み出せぬ貴様など、恐るるに足らず。ここで消し去ってくれる」

「それが出来るとでも思っているのか?」

「くっ……」
 魔王さんとレインちゃんが同一人物なのかは分からないけども、ケーシーさんは、親バカが発動するくらい、レインちゃんを溺愛してるからね。
 消し去る発言イコール、ケーシーさんにとってのは、絶対に倒さなければならない敵。
 だから、圧が凄い凄い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

追放令嬢は隣国で幸せになります。

あくび。
ファンタジー
婚約者の第一王子から一方的に婚約を破棄され、冤罪によって国外追放を言い渡された公爵令嬢のリディアは、あっさりとそれを受け入れた。そして、状況的判断から、護衛を買って出てくれた伯爵令息のラディンベルにプロポーズをして翌日には国を出てしまう。 仮夫婦になったふたりが向かったのは隣国。 南部の港町で、リディアが人脈やチートを炸裂させたり、実はハイスペックなラディンベルがフォローをしたりして、なんだかんだと幸せに暮らすお話。 ※リディア(リディ)とラディンベル(ラディ)の交互視点です。 ※ざまぁっぽいものはありますが、二章に入ってからです。 ※そこかしこがご都合主義で、すみません。

私は魔法最強の《精霊巫女》でした。〜壮絶な虐めを受けてギルドをクビにされたので復讐します。今更「許してくれ」と言ってももう遅い〜

水垣するめ
ファンタジー
アイリ・ホストンは男爵令嬢だった。 しかし両親が死んで、ギルドで働くことになったアイリはギルド長のフィリップから毎日虐めを受けるようになった。 日に日に虐めは加速し、ギルドの職員までもアイリを虐め始めた。 それでも生活費を稼がなければなかったため屈辱に耐えながら働いてきたが、ある日フィリップから理不尽な難癖をつけられ突然ギルドをクビにされてしまう。 途方に暮れたアイリは冒険者となって生計を立てようとするが、Aランクの魔物に襲われた時に自分が《精霊巫女》と呼ばれる存在である事を精霊から教えられる。 しかも実はその精霊は最強の《四大精霊》の一角で、アイリは一夜にしてSランク冒険者となった。 そして自分をクビにしたギルドへ復讐することを計画する。 「許してくれ!」って、全部あなた達が私にしたことですよね? いまさら謝ってももう遅いです。 改訂版です。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

新米冒険者がダンジョンで怪しい男達の取引現場を目撃。更に背後から近づく仲間に倒され、その男に実験中の薬を飲まされて目が覚めると……?

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
パロ村に住む『ルディ』は茶色い髪、百六十五センチ、普通の肉体の持つ十五歳の少年だ。 特別強くも賢くもない、そんなルディの夢は冒険者として街で暮らす事だった。 冒険者とは、誰でも即日採用されるぐらいに、採用基準が恐ろしく低い仕事で有名な仕事だ。 質素な家の前で両親と別れの挨拶を済ませたルディは、馬車に揺られて街を目指した。 そして、八日間の旅で『ハルシュタット』の街に無事に到着する事が出来た。 でも、既に手持ちのお金三万ギルは、馬車台と食費で一万ギルまで減ってしまっていた。 これではまともな装備を買う前に、宿屋に何日泊まれるか分からない。 ルディの武器は片刃の鉄の短剣、防具は普段着の白の半袖シャツ、茶の半ズボン、布のパンツ、布の靴だけという頼りないものだ。 槍のように尖った建物という情報を手掛かりに、ルディは冒険者ギルドという冒険者になれる建物に辿り着いた。 そこで綺麗な受付女性や爽やかな青年冒険者の手を借りて、無料の仮登録の冒険者となり、初クエストに挑戦する事になった。 初クエストは、洞窟にいるスライムという魔物を倒して、スライムの核を集めるものだった。 冒険者ギルドで貰った地図を頼りに、洞窟に辿り着いたルディは、洞窟の奥を目指して進んでいく。 そして、その洞窟で灰色の服と黒色の服を着た、二人の男の怪しい取引現場を目撃してしまった。 危なそうな話にルディは急いで人を呼びに行こうとするが、突然背後から、もう一人の男に襲われてしまうのだった。

【完結】魔王と間違われて首を落とされた。側近が激おこだけど、どうしたらいい?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
旧題【竜王殺しの勇者は英雄か(仮)】 強大な魔法を操り、人族の領地を奪おうと戦いを挑んだ魔族。彼らの戦いは数十年に及び、ついに人族は聖剣の力を引き出せる勇者を生み出した。人族は決戦兵器として、魔王退治のために勇者を送り込む。勇者は仲間と共に巨大な銀竜を倒すが……彼は魔王ではなかった。 人族と魔族の争いに関わらなかった、圧倒的強者である竜族の王の首を落としてしまったのだ。目覚めたばかりで寝ぼけていた竜王は、配下に復活の予言を残して事切れる。 ――これは魔王を退治にしに来た勇者が、間違えて竜王を退治した人違いから始まる物語である。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2023/10/30……完結 ※2023/09/29……エブリスタ、ファンタジートレンド 1位 ※2023/09/25……タイトル変更 ※2023/09/13……連載開始

処理中です...