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変転

PHASE-10

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 ダァァァァァァァァン――――。
 乾いた音。

「で? それがなんなのかね?」

「え!?」

「結界だ。グレーボーイは魔法が使用出来るようだぞ」
 だから余裕があるのか。公務員が魔法とかずるいぞ。僕だって使いたいのに。

「私は使えないよ。現に、先ほどの幼龍ドラゴネットの攻撃は食らっているよ」
 じゃあ、局長を守る誰かがいるって事か。
 装填しつつ、シュパーブ君に連携を、と、目配せで伝えると、理解したと首肯が返ってくる。

「無駄だよ」
 僕たちの行動は呼んでいると、こちらに食指を向けると、クンっと地面を指した。

「なんだ!?」

「シュパーブ君!?」
 力なく羽ばたきをやめて、地面に落ちる。

「力が抜ける……。ボーイ、逃げろ」
 何なんだ?

「さあ、ウィザースプーン君。その汚れた存在をこちらに渡すんだ」

「は?」
 女の子相手になにを言ってるんだか。
 もちろん断るとばかりに、僕の背後にレインちゃんを隠す。

「無駄だよ」

「!?」
 局長が先ほどと同じ所作。
 力が抜ける……。足が思うように動いてくれない。
 膝をついてしまう。
 くそ! 局長がゆっくりと近づいてくる。
 腕も重い。体に何が起こったのか理解できない。分かるのは、僕の背中にしがみついてるレインちゃんが震えているということ。

「ふう、いらぬ存在が乱入してきたが――――」
 隠れていたレインちゃんを捕まえると、
「見ておくといい。この悪しき根源を私が殺めるところを!」

「何を言ってるんだよ貴男は! さっきから訳が分からない!!」
 諸手でレインちゃんの細い首を掴み上げる。バタバタと足を動かして苦しんでいる。

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
 気合いで何とか重い腕を上げて、銃口を局長に向けた瞬間、
「――――へ?」
 向けていた銃を握っていた両腕がだらりと落ちて、前のめりになって倒れてしまった……。
 疑問符が浮かぶ。僕の体に何かが起こった。
 程なくして、じんわりと暖かいものが腰から広がっていく。
 原因を確認するように、懸命に首を動かして、目を動かせば、
「う……そ……だろ……」
 お腹の部分から大量の血液が流れている……。
 痛みは不思議とないけど……。熱い。出血している箇所だと思うけど、そこがたまらなく熱い。
 地面に流れ広がる血の分だけ、力がなくなっていくようだ……。
 体も上手い具合に動いてくれない……。

「意外や意外~。まだ生きてるなんて、体力があるね~」
 飄々とした声が耳朶に届く。
 聞いたことのある声。
 記憶に残ってるぞ。
 その声は、レインちゃんを掴み上げている局長の影の辺りから聞こえてくる。
 地面からゆっくりと現れた存在は、仮面をつけている。
 こいつ確か、ヘイターとか言われてた奴だな。

「おいヘイター! やり過ぎだぞ。相手は一般人だ!」
 更に一人、屋根の上から飛び降りてきた。
 壮年の勇者、アルコン・ストラトス。
 首回りの羊毛は覚えてる。羊毛が特産の田舎町である、カザネルの人だったな。
 現れた二人の共通点は、叙勲式後のパーティー襲撃犯。

 それよりも……だ……。
 レインちゃんのばたつかせていた足が止まっている。それを確認したように、局長が壁へと投げつけた。
 ――――ぐったりとして反応がない……。
 このおっさん。ぶっ飛ばしてやる!
 興奮したせいか、更に体から血液が流れ出る。
 気持ちは熱くなっても、体は冷たくなっていくのが分かる……。

「ボーイ……」
 僕が弱っているから、かすかにしか耳に入ってこなかったのか。
 シュパーブ君が弱っているから呟き程度なのか。
 はたまた両方なのか。
 それは分からない。でも、遠のいていく意識が、その声のおかげで何とか戻ってくる。
 
 精神力だけを奮い立たせて、体を動かす。
 震える手で――、装填。
 後は狙いを定めて、引き金を引けばいい。
 
 ――――ダァァァァァァァンと音を立てて撃てば、見事に命中。
 命中に安心して気が抜けたのか、力なく僕の腕は地面に落ちる。
 
 弾は魔弾の回復弾。
 見舞ったレインちゃんが桃色の光に包まれている。あれが回復しているって事なんだろうな……。
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