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変転

PHASE-01

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 ――――。

「お疲れ様」

「お疲れ様でした」
 うむ、局長は柔和な笑顔で、一人一人を労いながら帰りの挨拶だ。
 眺めれば、よき上司がいる風景。
 それに対して皆さんも、笑顔で返していく。
 影は薄いけど、人望はあるからね。

「ウィザースプーン君。修繕お疲れ様。街灯の不全によく気付いたね」

「はい。昨晩は公園を散歩してたんで」

「常日頃から周囲を意識しているのはいいことだね」
 お褒めの言葉を僕に送ると、局を後にした。
 さて――、僕も動きますか。
 
 護衛役のシュパーブ君は、本日はロールさんと待機。むしろ喜んでいたのがイラッとしたよ。おっぱいを堪能するつもりだろうからね。
 
 僕は使命感を持って、局長の追跡。可能ならお宅拝見だ。
 ――少し離れた位置から、ロマンスグレーの頭を目印にしつつ後をつける。
 驚きなのは、中々に動きが軽快だ。人通りの多いこの時間帯、縫うように進んで行く局長の後を追うのは辛いね……。
 まったく、僕の方が三十くらいは若いはずなのに、やるな局長。

「お?」
 居酒屋に入っていった。仕事終わりの一杯かな?
 店構えからして、ケーシーさんの店同様に、カウンターしかないと思われる。
 中に入ると一発でばれるだろうから、外で待とうじゃないか。
 ふふふ――――、まるで、探偵になった気分だな。
 
 居酒屋の斜向かいにある街商で売っていたブリトーを一つ購入。
 牛肉に、アボカドなんかをソースとして使用しているワカモレにチーズ、トマトなんかがこぼれそうなくらいに入っているのを、こぼさないように大きく口を開いて頬ばる。
 初めて買った場所だけど、美味いな。
 大通りで開業すれば儲かるのに。テナント料が高いからこんな路地で販売しているのかな?
 流石は王都。メインの通りだけでなく、美味しい料理を販売してくれる穴場的な場所も多い。
 ケーシーさんのとこがそうだから、他にもそんな場所があって当然だよね。
 局長の入った居酒屋もいいところなのかもしれない。
 一本で大満足のボリュームだった。ここはチェックしておかなければ。

「ごちそうさま」
 おう来た! 早いな。飲まずに食事だけしたってことだろうか。真面目だな。暮色が迫れば、少しは羽目を外すと思ったんだけど、いやはや整備長とは正反対の性格だな。
 
 街灯がぽつぽつと点灯していく。
 暗くなる中で、人の往来があると、見失いそうになってしまう。
 なので、局長に接近しながら追跡。
 見よ、このアサシンもビックリの僕の歩行。
 伝説のアサシン。ニコ・グッドスピードも、【君のは負けたよ】って言ってくれること間違いなしだよ。
 
 
 ――――おやおや、知った道に出ましたよ。
 このまま階段を上がれば僕の部屋だ。
 局長、ケーシーさんのお店に入るのかな? はしごしつつ食事をするタイプ?
 建具が開かれた店内を外から窺っている。
 席も空いてるみたいだし、入るかな? 店内のカウンターには、いつも通りのメンバーが、いつも通りの席に座ってる。
 ブールさんの食事がレインちゃんによって奪われるのも、いつもの光景だ。

「――入らないのか」
 独白してしまう。
 流石に食事で二件もはしごするほど若くはないよね。
 
 ――――再び歩き出す。
 
 ――……こんな所に住んでいるのかな? 
 段々と人気ひとけも少なくなってきた。
 怖いんだけど、明らかに道ばたに佇んでいる人たちが怖い。整備長みたいな、顔に傷があるような人たちが多いんですけど。
 冒険者や賊っていうより、堅気じゃない方々なんですけど。
 素行の悪い冒険者は怖くなくなっては来たけども、こういう感じの方々は未だに怖いな……。
 
 賭博場があるようだ。建物の中から興奮した声が漏れてくる。
 もしかして、ここいらまでレインちゃんは遊びに来てるのかな? お菓子もらってるのも、ここの賭博場だったりする?
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