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ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ
PHASE-59
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「まさか、この地より離れて王都にいけるとは、俺ちゃん楽しみ」
「ご迷惑をかけないように。ただ、敵性と判断したら、排除しなさい」
「仰せのままに。海魔龍、水魔龍と恐れられる我らが一族の力を行使します」
一族の力なんてどうでもいいよ。本当にどうでもいいよ。帰れるならね。
「寂しいものです」
暑苦しいんで、その派手な鎧のまま、僕を抱きしめようとしないでください。
僕は男に抱きしめられる事で喜ぶ趣味はないので。
「出来るだけ、死なない戦いをしてください。ナイゼルさん」
躱してから、今後の戦い方に少しは変化を見いだしてほしいと告げる。
「それは無理ですね」
にべもなし。くい気味で返してきやがって。この病んでる人間を治す薬はこの世にはないようである。
なくて当然か。あの世に行っても治らないんだから、この世で治せる物なんて存在しないよな。
「勇者然。冒険者然。魔王軍然として生きてください。出来れば大陸が危機に陥った時にはその力を行使していただきたいですね」
ここでばかり使っても意味ないからね。
といっても、この方々を大陸に解き放ったら解き放ったで、危機以上に災いを起こしそうだな……。
悦に入る事で、破壊の限りを堪能。結果、百年単位の工事を行わなければならないかもしれない……。
最後の発言は流していただきたいところ。
「おまかせを、危機を知れば、ピート様をお助けします」
うん。僕じゃなくて、大陸ね。ひいては世界。
シズクさんが真っ先に返答するのもおかしな話。魔王軍に先を越されたよ。ここは勇者御一行が真っ先に口を開かなきゃいけないところだよ。
――――遅れてからナイゼルさんが、
「全身全霊を出し切って、脅威を没セシメテやりますよ」
全力出すな! な! 大陸が壊れるから。
ナイゼルさんに続いて我も我もと呼応して、熱を帯びていく発言。
この冒険者と魔王軍の一体感。平時は本当に仲いいよな。
――。
「では、帰りますね」
お別れ会にて、最後にシズクさんが注いでくれたキンキンに冷えた、甘さ豊かなオレンジエードを一気に飲み干してから、別れの言葉を口にする。
早いとこポズンの村に預けているグライフ君に乗って王都に帰りたい。
「お元気で」
シズクさんの潤んだ瞳に後ろ髪を引かれそうになったけど、
「はい!」
振り払うように快活よく返す僕。
血生臭い事を思い出せば、ここには居たくないとの思いが、シズクさんの潤んだ瞳を上回るからね。
典雅な公務員然たる一礼を行う。
ここへと踏み入った時の場所まで、双方が集まり送り出してくれる。
行き同様に、ロッケンジーさんが手綱を手にしている幌馬車に乗り込む。
「いや~本当に――楽しみだ~」
いや~本当に――、ついてくるのか……。
シュパーブ君? さん? どっちが正解なのだろう。
約十倍ほど年齢差があるし、でも、この愛らしさからして君かな。声は【ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁあ!】みたいだけども、ここは外見に重きを置こう。
一匹ついてくる事にはなったけど。おさらばなんだ。この多島海からなるヴィン海域から、おさらばなんだ!!
――――何という開放感、安堵感。
僕を見送る事で、戦闘もないみたいだから、大魔法による爆発光に、空気の振動がなく、静かに揺れる幌馬車と、馬の蹄鉄のカポカポという小気味の良い音だけが僕の耳を支配してくれる。
――――……と、思っていた僕が馬鹿だった……。
爆発も、振動もないと思っていたな。――――あれは嘘だ……。
くそったれ! ポズンの村まで半分の距離まで来たところで、ヴィン海域から光、遅れて振動が届いてくる。
あいつらは、一日くらい休むって事をしないのかね…………。
――――。
ポズンの村に到着すれば、ロッケンジーさん達と別れの挨拶。〝また会いましょう〟と、笑顔を向けられたので、こちらも笑顔で返して頭を下げた。また、とは返してはいないけどね。
出来る事なら会いたくないからね。いい人達だけど、会いたいとは思わないから。
背中を見送れば――――、さっそくエクスペンダブルズの入った木箱を商人さんから購入し、商人さん達と一緒になって、次々と幌馬車に積み込んでいく。
【ウォージャンキーどもめ!】
心底にて、約二ヶ月を共に過ごした方々に侮蔑の言葉を投げかける僕は、嫌な人間なのかも知れない。
でも、ここの方々のようにはなりたくないから……。
とにもかくにも、僕は自由だ!
「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!!!!」
「ご迷惑をかけないように。ただ、敵性と判断したら、排除しなさい」
「仰せのままに。海魔龍、水魔龍と恐れられる我らが一族の力を行使します」
一族の力なんてどうでもいいよ。本当にどうでもいいよ。帰れるならね。
「寂しいものです」
暑苦しいんで、その派手な鎧のまま、僕を抱きしめようとしないでください。
僕は男に抱きしめられる事で喜ぶ趣味はないので。
「出来るだけ、死なない戦いをしてください。ナイゼルさん」
躱してから、今後の戦い方に少しは変化を見いだしてほしいと告げる。
「それは無理ですね」
にべもなし。くい気味で返してきやがって。この病んでる人間を治す薬はこの世にはないようである。
なくて当然か。あの世に行っても治らないんだから、この世で治せる物なんて存在しないよな。
「勇者然。冒険者然。魔王軍然として生きてください。出来れば大陸が危機に陥った時にはその力を行使していただきたいですね」
ここでばかり使っても意味ないからね。
といっても、この方々を大陸に解き放ったら解き放ったで、危機以上に災いを起こしそうだな……。
悦に入る事で、破壊の限りを堪能。結果、百年単位の工事を行わなければならないかもしれない……。
最後の発言は流していただきたいところ。
「おまかせを、危機を知れば、ピート様をお助けします」
うん。僕じゃなくて、大陸ね。ひいては世界。
シズクさんが真っ先に返答するのもおかしな話。魔王軍に先を越されたよ。ここは勇者御一行が真っ先に口を開かなきゃいけないところだよ。
――――遅れてからナイゼルさんが、
「全身全霊を出し切って、脅威を没セシメテやりますよ」
全力出すな! な! 大陸が壊れるから。
ナイゼルさんに続いて我も我もと呼応して、熱を帯びていく発言。
この冒険者と魔王軍の一体感。平時は本当に仲いいよな。
――。
「では、帰りますね」
お別れ会にて、最後にシズクさんが注いでくれたキンキンに冷えた、甘さ豊かなオレンジエードを一気に飲み干してから、別れの言葉を口にする。
早いとこポズンの村に預けているグライフ君に乗って王都に帰りたい。
「お元気で」
シズクさんの潤んだ瞳に後ろ髪を引かれそうになったけど、
「はい!」
振り払うように快活よく返す僕。
血生臭い事を思い出せば、ここには居たくないとの思いが、シズクさんの潤んだ瞳を上回るからね。
典雅な公務員然たる一礼を行う。
ここへと踏み入った時の場所まで、双方が集まり送り出してくれる。
行き同様に、ロッケンジーさんが手綱を手にしている幌馬車に乗り込む。
「いや~本当に――楽しみだ~」
いや~本当に――、ついてくるのか……。
シュパーブ君? さん? どっちが正解なのだろう。
約十倍ほど年齢差があるし、でも、この愛らしさからして君かな。声は【ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁあ!】みたいだけども、ここは外見に重きを置こう。
一匹ついてくる事にはなったけど。おさらばなんだ。この多島海からなるヴィン海域から、おさらばなんだ!!
――――何という開放感、安堵感。
僕を見送る事で、戦闘もないみたいだから、大魔法による爆発光に、空気の振動がなく、静かに揺れる幌馬車と、馬の蹄鉄のカポカポという小気味の良い音だけが僕の耳を支配してくれる。
――――……と、思っていた僕が馬鹿だった……。
爆発も、振動もないと思っていたな。――――あれは嘘だ……。
くそったれ! ポズンの村まで半分の距離まで来たところで、ヴィン海域から光、遅れて振動が届いてくる。
あいつらは、一日くらい休むって事をしないのかね…………。
――――。
ポズンの村に到着すれば、ロッケンジーさん達と別れの挨拶。〝また会いましょう〟と、笑顔を向けられたので、こちらも笑顔で返して頭を下げた。また、とは返してはいないけどね。
出来る事なら会いたくないからね。いい人達だけど、会いたいとは思わないから。
背中を見送れば――――、さっそくエクスペンダブルズの入った木箱を商人さんから購入し、商人さん達と一緒になって、次々と幌馬車に積み込んでいく。
【ウォージャンキーどもめ!】
心底にて、約二ヶ月を共に過ごした方々に侮蔑の言葉を投げかける僕は、嫌な人間なのかも知れない。
でも、ここの方々のようにはなりたくないから……。
とにもかくにも、僕は自由だ!
「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!!!!」
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