上 下
352 / 604
ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ

PHASE-54

しおりを挟む
 ――――どうすればこのような世界を容易く創造できてしまうのか。
 
 力の差というよりも、住んでいる世界が違うんだな。
 ここの方々からすれば、シズクさんは神に等しい存在だよ。
 詠唱どころか、魔法を唱える行為を破棄して、この氷期の世界を可能にしてしまうのだから。
 
 どれだけ頑張ろうが、シズクさんがいる限り、冒険者がここを制する事は不可能だというのが理解できた。
 僕だけが無事なのは、シズクさんが守ってくれたという事なんだろう。
 完全に我を忘れていたなら。と、考えると――――、僕も死んでいたんだよな……。
 よかったよ、少しは理性が残ってくれていて。

「やってしまいました……」
 反省は出来るんですね。

「決着がついてしまいましたね……シズクさんの一人勝ちです」

「私も精神面は、まだまだですね。猛反省です」
 理解できているならいいんじゃないんですかね。
 今後は、皆さんに対しても怒りの感情を抑えて、優しさで導くような存在になってほしいと思っております。
 
 ――――とりあえず、下船したい……。
 寒い……。
 常夏の陽射しが降り注いでいるのに、この氷、溶けないんだぜ……。どれだけ冷たいんだろうか。まったく溶ける気配が無いよ……。
 ここでまた、カグラさんの強さを間接的に理解できた。
 やはりこの姉妹は、魔王軍幹部の中でも群を抜いている。
 別格、別次元、別世界だ。
 そら、他の幹部の方々も震え上がるってもんだよ。
 
 ――――。
 
 MVPは、幹部を二名倒したマリアンさん。
 なぜか、シズクさんを危機から救ったという事で、僕もノミネートされるというやらせがあった。
 確実にシズクさんが独断で選んだ結果だという事は、理解している。
 僕は頑なに拒否して、マリアンさんがゲット。
 ちゃんと評価を受けなければならない人が受けるべきだからね。
 そもそも欲しくないし……。

 ――。
 
「反省点」

「「はい……」」
 蘇った途端に、館の廊下で正座スタイルのイスキさんとドーナさん。
 学舎じゃないんだから、廊下じゃなくてもいいんじゃないかな……。
 結構な人数がさっきから通ってるんだけど、幹部二名だからね。見て見ぬ振りだけども、視線を感じて恥ずかしいのか、両名、視線下方四十五度凝視である。

「貴女たち、幹部であるけど、このまま心身を向上できないなら、今に下の者達を見上げる立ち位置になってしまうわよ」

「「仰るとおりです」」
 息がぴったりとあって反省してますね。

「ピート様もその辺りを気にかけていたわ。戦場経験が浅くても、貴女たちの慢心が見えているの。つまりは単純なのよ。まあ、ピート様が慧眼だというのも有るのだけど」
 死んでも次があるからという考え方は、進歩の妨げでしかないからね。
 訓戒を述べる事はとても大切だ。
 でもって、戦闘経験が浅いという発言で、僕が気を悪くするかもと考えて、気を遣って慧眼って口にしたんだろうけど、気にしないです。
 その気遣いを、少しは配下の方々に向けてください。と、いうのが僕からの訓戒です。
 お説教タイムだから、横から口を出す空気でもないので、心底で呟くヘタレですけどね……。

「氷竜王軍の軍って、体を成していないと思うのは私だけ? 軍の部分、削除してもいいんじゃないかしら? 氷竜王でいいと思わない?」
 ワンマンアーミーで十分なのは確かだよね。
 先ほどの光景を目にしたら誰だってそう思うよ。
 
 側近のイスキさんは精神面の成長が第一。
 ドーナさんもここぞで違反行為に走ってしまうから精神面が弱い。
 二名ともメンタルだね。
 
「ドレッドノートとガルイルくらいね。付いてこれるのは」
 見捨てる感じで言われて、今にも泣きそうな両名。
 僕としては、でっかい海魔龍と、おっさんの半漁人サハギンだけじゃ華がないから反対だけどね。
 
 ドーナさんは戦闘に関しては問題ないと思う。挑発で相手を自分のペースに持っていけるから、ペースを握れるだけ、戦術に関してはイスキさんより高い。
 最後の逃げが今回のルールでは問題だったけど、だし、そこまで反省するところはないよね。
 ――……実戦の中なら問題ない行為か……。いや、模擬海戦ナウマキアも生死をかけた実戦だけどさ。
 模擬海戦ナウマキアってなんだよ! って、突っ込みたくなるよ。
 本来は実戦さながらって例えるんだろうけど、実戦なんだよな。ここだと……。
 すっごく例えにくいよ!
 
 まあいい。
 
 追い込まれなければ、ドーナさんに助言も出来る視野の広いイスキさん。
 誰しも追い込まれたら視野は狭くなるものだけど、この方の場合、危機に陥っても対応しないからね。
 前へ前へをぐっと堪えて、解決策をいくつも作り出せるようになれば、一気に将として成長するタイプなんだろうけどね。
 そうなれば、氷竜王軍は更なる戦力の底上げが出来そうだ。
 
 ぐっと堪えて――――、いい言葉だ。
 解決策を考えないまま力を振るった結果、僕はこんな所に来ちゃったからね……。
 だからこそ、イスキさんの欠点が理解できるつもりです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...