拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

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ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ

PHASE-53

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「はい負け」
 素っ気なく口にしたシズクさんの降伏宣言。

「おいおい殲滅戦だぞ。まだそっちは船が残ってるだろ。続けてもいいんだぜ?」
 調子に乗って一人の方がそう言う。
 中心人物であるナイゼルさんが横で絶命しているのに、まったく気にしないで、強気な態度に出るっていうね。
 憐憫って感情をどこかに捨ててきたのかな?

「そう、ふ~ん」
 ――……寒いです……。
 勝ちの波に乗ってるからって、からかう相手は選んだ方がいいでしょう。
 
 シズクさんの足下からゆっくりと薄氷が広がり始める。パリパリという小気味の良い音。でも、少しでも触れてしまえば、生命を終わらせてしまう終焉の音。
 調子にのった発言をした方は、誰よりも早く目をそらし、背中を丸めて小さくなってる。
 ここの方々は胆力あるのか無いのかようわからん。
 相手が氷竜王だと、胆力も何もないんだろうけどさ。

「参加していいのかしら?」
 シズクさんが一歩足を進めると、一歩下がるどころじゃなく、後方に飛び退いている。

「終了です。冒険者サイドの勝利で終了します」
 未だにガルイルさんがドレッドノートさんに怒鳴っているみたいだけど、イスキさん、ドーナさんの幹部二名もやられて、旗艦も没スル手前だし、このまま戦っても氷竜王軍サイドは勝ちが薄いだろうから、犠牲を抑えるためにも、ここで終わらせるべきだね。
 
 全くもって権限なんて持ってないけど――――。

「合意と見てよろしいですね?」
 僕の発言に、言葉は発せず、頷いて賛同してくれた。
 頷くと、冒険者さん達は、そそくさと下船を始める。
 
 勝ったのに負けたみたいですね。毎度の事だけど……。

「あ」
 流石に衝角ラムアタックによる衝撃に、船が限界に近いようだ。
 座礁ですむとはいえ、竜骨キール付近からバキバキと危険な音がし始める。

「早く降りてください」
 整備局員の性なのか、僕なんかが足下にもおよばない力を要した皆さんを手振りで誘導して、先に下船させるっていうのがね――――、おかしな話ですよ。
 まあ! 皆さん空なんて飛んじゃって、お手軽に避難してますよ。僕だけが普通に残されてしまったよ。
 勇者中心の冒険者だろ。一緒に連れ出せよ! 
 まあ、シズクさんがいるから問題はな――――!?

「危ない!!」
 体が勝手に動いてしまった。
 マストがゆっくりとこちらに倒れて来る。
 シズクさんを抱きしめつつポシェットから取り出した銃に魔弾を手早く装填して、片手で撃つ。
 装填したのは炎弾。
 火球ファイヤーボールサイズの火の玉がマストに命中。命中部分が爆ぜて、折れる。
 ――――事なきを得た。
 こういう時、便利だな。

「「「「おお!」」」」
 感心するところじゃないよ。本来、人助けは貴方たちの専売特許だよ! ふわふわ宙に浮きやがって!

「大丈夫ですか――――って、大丈夫ですよね」
 僕なんかがこんな事しなくても、マストなんてどうとでもなるよね。

「はい……大丈夫です。助けていただきありがとうございます」

「余計な事でしたよね」

「いえ……こうやって他の者に助けてもらう経験は初めてですから、とても新鮮です」
 助けなくても、ひとりでできるもん。な、存在ですからね。

「こんな風に――――殿方に我が身を盾にしていただけるなんて。女として、初めての喜びを得ました」
 それはなにより。とても嬉しいのだろうか、体が小刻みに打ち震えてますが。
 嬉しいんですよね? 初心だからって、恥ずかしくて泣いたりしないでくださいよ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
 絹を裂くような悲鳴の【きゃあ】ではない。
 喜びからのやつだ。
 



 ――――…………喜んでもらえて嬉しくもありますが…………。

 これは……、なんという事…………。
 テンションが上がるっていうのは、時として怖いもの。
 特に、シズクさんクラスがそうなってしまうと、大変な事になるというのは理解できた。
 
 ただ、喜びの声を上げただけだったのにね……。
 戦略クラスの大魔法を使用したのかな? 詠唱も無くそんな芸当が出来るのかな?
 キドさんとちびっ子が二人して行う事を、ただのテンション上がっただけで出来ちゃうとか、強さのランクが違いすぎる……。

 ――――目に入る全てが――、常夏の世界が……、極地に…………。
 
 小島に海。船。
 未だ健在だったガルイルさん達。
 救出役のドレッドノートさん達。
 勝利したはずの冒険者さん達。
 なぜか空を飛んでいた人達も、冷気から逃げる事が出来ずに、凍りついていた……。

 時が止まってしまったかのような、森閑なる氷期の訪れた世界に変わり果てた。
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