351 / 604
ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ
PHASE-53
しおりを挟む
「はい負け」
素っ気なく口にしたシズクさんの降伏宣言。
「おいおい殲滅戦だぞ。まだそっちは船が残ってるだろ。続けてもいいんだぜ?」
調子に乗って一人の方がそう言う。
中心人物であるナイゼルさんが横で絶命しているのに、まったく気にしないで、強気な態度に出るっていうね。
憐憫って感情をどこかに捨ててきたのかな?
「そう、ふ~ん」
――……寒いです……。
勝ちの波に乗ってるからって、からかう相手は選んだ方がいいでしょう。
シズクさんの足下からゆっくりと薄氷が広がり始める。パリパリという小気味の良い音。でも、少しでも触れてしまえば、生命を終わらせてしまう終焉の音。
調子にのった発言をした方は、誰よりも早く目をそらし、背中を丸めて小さくなってる。
ここの方々は胆力あるのか無いのかようわからん。
相手が氷竜王だと、胆力も何もないんだろうけどさ。
「参加していいのかしら?」
シズクさんが一歩足を進めると、一歩下がるどころじゃなく、後方に飛び退いている。
「終了です。冒険者サイドの勝利で終了します」
未だにガルイルさんがドレッドノートさんに怒鳴っているみたいだけど、イスキさん、ドーナさんの幹部二名もやられて、旗艦も没スル手前だし、このまま戦っても氷竜王軍サイドは勝ちが薄いだろうから、犠牲を抑えるためにも、ここで終わらせるべきだね。
全くもって権限なんて持ってないけど――――。
「合意と見てよろしいですね?」
僕の発言に、言葉は発せず、頷いて賛同してくれた。
頷くと、冒険者さん達は、そそくさと下船を始める。
勝ったのに負けたみたいですね。毎度の事だけど……。
「あ」
流石に衝角アタックによる衝撃に、船が限界に近いようだ。
座礁ですむとはいえ、竜骨付近からバキバキと危険な音がし始める。
「早く降りてください」
整備局員の性なのか、僕なんかが足下にもおよばない力を要した皆さんを手振りで誘導して、先に下船させるっていうのがね――――、おかしな話ですよ。
まあ! 皆さん空なんて飛んじゃって、お手軽に避難してますよ。僕だけが普通に残されてしまったよ。
勇者中心の冒険者だろ。一緒に連れ出せよ!
まあ、シズクさんがいるから問題はな――――!?
「危ない!!」
体が勝手に動いてしまった。
マストがゆっくりとこちらに倒れて来る。
シズクさんを抱きしめつつポシェットから取り出した銃に魔弾を手早く装填して、片手で撃つ。
装填したのは炎弾。
火球サイズの火の玉がマストに命中。命中部分が爆ぜて、折れる。
――――事なきを得た。
こういう時、便利だな。
「「「「おお!」」」」
感心するところじゃないよ。本来、人助けは貴方たちの専売特許だよ! ふわふわ宙に浮きやがって!
「大丈夫ですか――――って、大丈夫ですよね」
僕なんかがこんな事しなくても、マストなんてどうとでもなるよね。
「はい……大丈夫です。助けていただきありがとうございます」
「余計な事でしたよね」
「いえ……こうやって他の者に助けてもらう経験は初めてですから、とても新鮮です」
助けなくても、ひとりでできるもん。な、存在ですからね。
「こんな風に――――殿方に我が身を盾にしていただけるなんて。女として、初めての喜びを得ました」
それはなにより。とても嬉しいのだろうか、体が小刻みに打ち震えてますが。
嬉しいんですよね? 初心だからって、恥ずかしくて泣いたりしないでくださいよ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
絹を裂くような悲鳴の【きゃあ】ではない。
喜びからのやつだ。
――――…………喜んでもらえて嬉しくもありますが…………。
これは……、なんという事…………。
テンションが上がるっていうのは、時として怖いもの。
特に、シズクさんクラスがそうなってしまうと、大変な事になるというのは理解できた。
ただ、喜びの声を上げただけだったのにね……。
戦略クラスの大魔法を使用したのかな? 詠唱も無くそんな芸当が出来るのかな?
キドさんとちびっ子が二人して行う事を、ただのテンション上がっただけで出来ちゃうとか、強さのランクが違いすぎる……。
――――目に入る全てが――、常夏の世界が……、極地に…………。
小島に海。船。
未だ健在だったガルイルさん達。
救出役のドレッドノートさん達。
勝利したはずの冒険者さん達。
なぜか空を飛んでいた人達も、冷気から逃げる事が出来ずに、凍りついていた……。
時が止まってしまったかのような、森閑なる氷期の訪れた世界に変わり果てた。
素っ気なく口にしたシズクさんの降伏宣言。
「おいおい殲滅戦だぞ。まだそっちは船が残ってるだろ。続けてもいいんだぜ?」
調子に乗って一人の方がそう言う。
中心人物であるナイゼルさんが横で絶命しているのに、まったく気にしないで、強気な態度に出るっていうね。
憐憫って感情をどこかに捨ててきたのかな?
「そう、ふ~ん」
――……寒いです……。
勝ちの波に乗ってるからって、からかう相手は選んだ方がいいでしょう。
シズクさんの足下からゆっくりと薄氷が広がり始める。パリパリという小気味の良い音。でも、少しでも触れてしまえば、生命を終わらせてしまう終焉の音。
調子にのった発言をした方は、誰よりも早く目をそらし、背中を丸めて小さくなってる。
ここの方々は胆力あるのか無いのかようわからん。
相手が氷竜王だと、胆力も何もないんだろうけどさ。
「参加していいのかしら?」
シズクさんが一歩足を進めると、一歩下がるどころじゃなく、後方に飛び退いている。
「終了です。冒険者サイドの勝利で終了します」
未だにガルイルさんがドレッドノートさんに怒鳴っているみたいだけど、イスキさん、ドーナさんの幹部二名もやられて、旗艦も没スル手前だし、このまま戦っても氷竜王軍サイドは勝ちが薄いだろうから、犠牲を抑えるためにも、ここで終わらせるべきだね。
全くもって権限なんて持ってないけど――――。
「合意と見てよろしいですね?」
僕の発言に、言葉は発せず、頷いて賛同してくれた。
頷くと、冒険者さん達は、そそくさと下船を始める。
勝ったのに負けたみたいですね。毎度の事だけど……。
「あ」
流石に衝角アタックによる衝撃に、船が限界に近いようだ。
座礁ですむとはいえ、竜骨付近からバキバキと危険な音がし始める。
「早く降りてください」
整備局員の性なのか、僕なんかが足下にもおよばない力を要した皆さんを手振りで誘導して、先に下船させるっていうのがね――――、おかしな話ですよ。
まあ! 皆さん空なんて飛んじゃって、お手軽に避難してますよ。僕だけが普通に残されてしまったよ。
勇者中心の冒険者だろ。一緒に連れ出せよ!
まあ、シズクさんがいるから問題はな――――!?
「危ない!!」
体が勝手に動いてしまった。
マストがゆっくりとこちらに倒れて来る。
シズクさんを抱きしめつつポシェットから取り出した銃に魔弾を手早く装填して、片手で撃つ。
装填したのは炎弾。
火球サイズの火の玉がマストに命中。命中部分が爆ぜて、折れる。
――――事なきを得た。
こういう時、便利だな。
「「「「おお!」」」」
感心するところじゃないよ。本来、人助けは貴方たちの専売特許だよ! ふわふわ宙に浮きやがって!
「大丈夫ですか――――って、大丈夫ですよね」
僕なんかがこんな事しなくても、マストなんてどうとでもなるよね。
「はい……大丈夫です。助けていただきありがとうございます」
「余計な事でしたよね」
「いえ……こうやって他の者に助けてもらう経験は初めてですから、とても新鮮です」
助けなくても、ひとりでできるもん。な、存在ですからね。
「こんな風に――――殿方に我が身を盾にしていただけるなんて。女として、初めての喜びを得ました」
それはなにより。とても嬉しいのだろうか、体が小刻みに打ち震えてますが。
嬉しいんですよね? 初心だからって、恥ずかしくて泣いたりしないでくださいよ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
絹を裂くような悲鳴の【きゃあ】ではない。
喜びからのやつだ。
――――…………喜んでもらえて嬉しくもありますが…………。
これは……、なんという事…………。
テンションが上がるっていうのは、時として怖いもの。
特に、シズクさんクラスがそうなってしまうと、大変な事になるというのは理解できた。
ただ、喜びの声を上げただけだったのにね……。
戦略クラスの大魔法を使用したのかな? 詠唱も無くそんな芸当が出来るのかな?
キドさんとちびっ子が二人して行う事を、ただのテンション上がっただけで出来ちゃうとか、強さのランクが違いすぎる……。
――――目に入る全てが――、常夏の世界が……、極地に…………。
小島に海。船。
未だ健在だったガルイルさん達。
救出役のドレッドノートさん達。
勝利したはずの冒険者さん達。
なぜか空を飛んでいた人達も、冷気から逃げる事が出来ずに、凍りついていた……。
時が止まってしまったかのような、森閑なる氷期の訪れた世界に変わり果てた。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
一振りの刃となって
なんてこった
ファンタジー
拙いですが概要は、人生に疲れちゃったおじさんが異世界でひどい目にあい人を辞めちゃった(他者から強制的に)お話しです。
人外物を書きたいなーと思って書きました。
物語とか書くのは初めてなので暖かい目で見てくれるとうれしいです。
更新は22:00を目安にしております。
一話一話短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる