拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

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ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ

PHASE-30

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 ――――。
 
 はあ……。
 硬い岩肌の上で起床。皆さん復活したって事で、僕に貸し出された寝袋は故人のものでなく、使い古されたボロボロの処分前の物だった……。
 辛い……。これならシズクさん達の方がいいや。
 シズクさんがここの人達より怖くない気がしてきた。トリックが分かったからね。
 死んでも蘇る。だから、皆、命を軽はずみに散らす。しかもその軽さを、当人達はまったく気にしてない。散り様に美学があるとさえ考えていそうだ……。
 
 シズクさんの【一度、死んでみたら考え方も変わるかしら?】って脅しの台詞が脳内で再生されたけど、一度って、蘇生込みでの発言だったんだろうね。
 死んでも蘇らせるから、ヴィン海域の脅し文句としては軽めの発言だったのかもしれない。
 ここを知らない人が聞いたら、恐怖でしかないけどね……。
 でもって、なんだかんだで、シズクさんは僕の事を殺害しようとも考えてなかったし。
 総合的に考えても、屋根もベッドもある向こうが断然いい。虹彩もしっかりしてるし。

 ――――周りを見れば、極甘の携行食をバクバク食べてる光景。
 見てるだけで胸焼けがしてくるよ。
 で、栄養補給が終われば――――。

「今回は勝つぞ!」

「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」」」」
 ――――なんて?
 てな感じで、昨日の朝と変わらぬ光景……。
 本日も楽しそうに、馬鹿みたいに走り出してる。昨日と違うのは、馬鹿みたいに走り出してる人数が多いって事だ。
 
 大爆発に、振動。一つ大きな光が輝けば、そこではいくつかの命が消えているんだろう。
 透明度の高い海には不釣り合いな血煙が舞い、阿鼻叫喚だ。
 でも不思議と、叫び声の中で、笑い声が耳朶に届く絶命が目立つというね……。
 
 死ぬ時の辞世の発言が、〝よっし! これで女神ちゃんと、やれ…………〟事切れたから最後までは聞き取れなかったけど、言わんとしている事は理解できた。
 蘇るから、辞世ってのも違うんだろうけど……。
 端的に、腐った連中である。
 
 ――――。

 ――――本日も楽しそうに――――、以下略。
 死ねば、コンクエストの決着がつく度に復活し、また戦えば死ぬ。
 グルグルグルグルと円環から抜け出せない、というか、抜け出さない。そんな地獄の世界を謳歌する方々。
 
 エクスペンダブルズが空に舞い、魔法が暴走し、通常の威力と桁違いの魔法が発動。
 大きな水柱に、小島が半分消え去ったり、なくなったり、また現れたり。ここでのありふれた日常を目にする僕。
 
 ここに来て一週間。慣れてきたってのが怖いけども――、残念ながら慣れてきた……。
 
 
 ――――最近、僕を脅かす存在が現れた。
 それは――――、鏡だ。
 僕は鏡を見るのが怖くなってきている。目が……、目が、ここの方々のように、市場で売れ残った魚のような目になっていないだろうか? と、憂い、怯えながら覗き込んで、変化のない事に安堵の息を漏らしてから、身だしなみを整え始める……。
 
 ――。
 
「聞いたか! ドレッドノートを倒したってよ!」

「しゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
 飛び跳ねたり、抱き合ったりと、体で喜びを表現する方々。

「これは私たちも手柄を得ないと!」
 十三歳の、うら若きという表現にもまだ当てはまらないであろう少女が、血気盛んに駆けていく。
 虹彩はないけど……。
 それに続けと、バロニアさんとザンデさん。
 ありがた迷惑な疾風脚ボルゾイを僕の足に唱える。
 なんで僕が、随伴する事が当たり前になっているのだろう?
 
 ――――小島から海上、また小島と連れ回される。
 エライもんで、補助なしで疾風脚ボルゾイを操れるようになっている僕。

「なんて生き生きと……」
 虹彩はないけど……。
 
 マリアンさんは細身の双剣を諸手にして、向かってくるシズクさんの配下をバッサバサと斬り屠り、遠くの相手には詠唱からの大魔法。
 激しいいかずちが天から降り注ぎ、相手を黒焦げにしていく。
 
 仕損じたのは、バロニアさんが大剣を使用し、薪割りの要領で、豪腕と大剣の自重を使っての唐竹割り。
 補助魔法でパーティーの能力を底上げしつつ、いくつものロングナイフを宙に舞わせて標的を切り刻んでいくザンデさん。
 ドレッドノートさんの時はあれだったけど、強いじゃないか。
 
 このパーティーに共通している事は、現況を最高に満喫しているという笑顔だ。
 そんな方々を、僕は冷静に眺めている。

「慣れていくのね……自分でもわかる」
 実戦見学初日は、あまりの凄惨さに気を失ったのに、今では普通に立っている。足が震えるなんて事もない。もちろん、抵抗はある。
 あるんだけど――――、
 飛び散る肉片。倒れていく双方。
 でも、それらを目にしても、憐憫などの感慨が湧くって事がない。
 
 どうせ生き返るんでしょ。と、思うと、いちいち取り乱すのが面倒になってきたからだ。
 と、こういう考え方を抱いてしまっている僕は、元の生活に戻れるか心配になってくる……。
 急性ストレス障害を発症し、それを経て、心的外傷後ストレス障害に苦しむ日々が訪れない事を切に願っている…………。
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