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トレジャーハントに挑む、三人の公務員

PHASE-34

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 いつもならこの時間は調理に励んでいるだろうに、僕を待ってくれていたのかな? 察してくれるところは流石というべきか。

「ほら、弁当だ。新作でな、味見してくれ。味見だからロハだ。今日もしっかり働けよ」

「ありがとうございます」
 麻袋を僕に渡すと、直ぐに店内に入っていった。
 僕がどういう状況なのか、誰かに聞いて知ったのかな?
 まあ――、知っているから、普段しない事をするんだろうけど。
 しっかり働けよ――か。
 背中を押してくれたんだろうね。その優しさに感謝ですよ。それでも歩む足は重いけどね……。
 
 目抜き通りと交わるところまで来れば、本日も人の流れが激しい。
 でも、ある位置で歩く方々の顔が同じ方向を向く。総じて男性ばかりだ。以前もあった光景だな。
 更に足が重くなるよ。

「あ……」
 気配でも感知できるのかな? 歩みを止めた途端に、ロールさんがこっちに目を向けてくる。
 心がズキズキする。
 足を前に出したくない。百八十度回頭して部屋に戻りたいくらいだ。
 
 向けられる視線は弱々しい。
 そして――――、目の下が赤い…………。
 それを目にすると、ズキズキに拍車がかかる。
 何とか足を前に出すけど、いたたまれなくて視線下方は四十五度。進む足を速歩にして、出来るだけロールさんを避けるようにしようとしている自分がいる。
 
 待っててくれているこの状況。本来なら飛び跳ねて喜ぶシチュエーションなのにね……。

「おはよう……」
 視線同様に弱々しいあいさつだ。
 それに対して僕はどうすればいいのか分からないという、大人になりきれない年齢のせいか、挨拶を返したけども、口が開いただけだ。
 動いただけで、声は出ていなかった。ヘタレもいいところだよ……。
 それで余計にパニックになって、軽く会釈をするだけで、更に進める足を速めた。

「待って」
 背中を摘ままれる。
 振り払う事も出来るけど、これ以上に拒絶すると、ロールさんを大きく傷つけてしまうかもしれない。
 目の下が赤い姿を見ると、ここで振り払うなんて行動は出来なかった。
 
 ロールさんの顔を直視する事も、今は怖いって感情に支配されて、まともに見れない。
 出来た大人だと、こういう時、傷つけない対応をするんだろうな。
 まあ、出来た大人は、まずこういう状況を作らないだろうけどさ。

「ごめんなさい」
 謝らないでください。

「私が余計なところで介入して、ピート君にあんな事させて。なのに暴力は駄目とか偉そうに言って……」

「あの……あれは僕の応対が悪くて、相手の神経を逆なでさせたのが原因ですから」
 何とか声を絞り出して返答できた。

「私が悪いよ。あの後、ずっと考えてた――――」
 自宅に戻って、もし、僕が言うように最悪な事になっていたら、一生消えない傷を負っていた。
 それを止めるために僕が暴力を行使して、そのせいで僕が厳罰に処されたら――――と、不安に押しつぶされそうになって、ずっと泣いていたそうだ……。
 優しい――――。
 思いやりに善意、それらが具現化した存在だ。
 僕のためを思っての善意が引き金になって、僕の暴力に繋がった。
 でも、元を辿れば、僕のノムロのおっさんへの対応力の無さが悪いだけなのに。

「僕が悪いんです。本来なら、あそこでロールさんの事をいたわらなきゃいけなかったのに、子供みたいに憤慨しただけで、あげく、逃げ帰ったんですから」

「謝るのは私だよ。余計な事して、ごめんなさい」

「いえ…………ロールさん、ごめんなさい」
 人目――、ロールさんの美しさで、とにかく人目を集めていたけど、深く頭を下げて謝罪。
 ここで、変に意地を張って、謝罪もしないで去っていたら、ロールさんを傷つけるだけじゃなく、関係をこじらせたまま仕事をしなければならなくなる。
 それだけは嫌だ。職場で僕に会う度に、ロールさんの傷心が癒やされないってのは、絶対に嫌だ。
 とは言っても、職場には僕の席はないかもしれないけどさ。
 
 この後どうすればいいのかよく分からない僕。
 なので、悲しんでいる子をあやすように、ロールさんの頭を撫でる。
 ふわふわで、滑らかな感触。
 触ってるこっちが癒やされる。

「よかった――――ピート君と仲直りできて」
 笑顔を向けてもらえた。
 うん……。そんなに目を潤ませないでください。罪悪感が僕を襲ってきます。
 安堵した表情の笑顔だけ見せてください。涙はいいですから。
 
 ここでハンカチを持参できていない自分が情けない。
 毎度、ハンカチの件は反省だな。
 
 でも、どうせ辞める事になるだろうから、わだかまりを残したままより、仲直り出来て辞めた方が気持ちも軽くなる。
 実際、ロールさんの笑顔で、昨日から抱いていたモヤモヤが払拭されたもの。
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