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トレジャーハントに挑む、三人の公務員

PHASE-32

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「何を怒ってる? そんな事も分からないんですか!」
 初めてだね。ロールさんにこんな大声で吠えたのは……。
 この声でまたも何事かと、ドア向こうに人が集まってるだろう。

「分からないよ。私はただ、ピート君を助けたくて……」

「助けたくて? 助けたくてですって!」
 確かに止めに入ってくれたのは嬉しかったよ。
 ロールさんの駆けつけてくれた優しさに、心なしか痛みも緩和したもんだよ。
 
 でもさ――――、その後だ。

「あの時、あいつに脅されましたよね。それで、あいつの言う事に従って、胸くそ悪い発言を聞き入れようとしていた」

「それは、そうしないとピート君が――――」

「うるさい!!」
 呼吸と一緒に声も荒くなる。目もつり上がれば、自然と拳だって作ってる。
 体中が硬直したと思えるくらいに力んだ状態だ。

「僕を言い訳に使わないでください」
「そんな……」
「そんなじゃないですよ。僕のためにロールさんが一生消えない傷を、心にも体にも負うところだったんだ。あんな下卑た男に好き勝手されるつもりだったんですか!」
「それは……」
「僕を守るためとか、それで傷ついて、そんな現実を僕が知ったら、自分の体がボロボロになるより辛いですよ」
「本当に危険になったら逃げてたし……」
「出来ましたかね。あの時点で、力ない姿になって、あいつの言葉に従ってたんだから」
 執拗に僕の事をネタにされて、揺さぶりをかけられたら、逃げられなくなったんじゃないだろうか。
 僕なんかのために……、そんな事……、最悪な事だ…………。
 
 大公様は邪神の事を口に出してたけど、それも実行すれば、結局は僕が恨まれるかもしれないと考えたら、優しいロールさんの事だ、実行をしないかもしれない。
 そうなれば、最悪の運命を辿ってたかもしれない。
 なんで、そんな危ない決断をしたのか……。

「帰ります。後をついてこないでください。迷惑です!」
 自分の事を大事にしようとしなかったロールさんには、本気で腹が立つ。
 念を押すように伝えると、弱々しく首を縦に動かして返してくれた。
 
 表情は隠れていた。泣いていたのかもしれない…………。

「ウィザースプーン君?」
 応接室を出ると、局長が心配そうに僕と、ドア向こうに目を向ける。

「早退します。明日にでも今日の事を口頭で伝えます」

「え……」
 返答を聞かないまま僕は足を進めて、局長を通り過ぎる。〝あ……ああ〟と、一応の承諾の言質を背中で受けて整備局を出た。

 ――。

「怒っていたね」

「怒りますよ」

「まあ、ピート君のためとはいえ、善意だったとしても、目と耳で、やり取りを受ける側としては、頭に来るものだった。自分も、ゲイアードさんに止めてもらえてなかったら、あの男を痛めつけていたよ」
 整備局前で、ゲイアードさんとゴートさんが僕を待っていた。
 どうやら、僕が早退するとゲイアードさんが読んでいたらしい。
 流石は頭の切れる方だし、今の僕の心底を理解してくれている大人である。
 ゴートさんも、僕の行動に、同調するような発言。今の僕に対しての配慮が入っているんだろう。

「大公様に召喚状を出したのは、ゲイアードさんでしょ?」

「理不尽な物言いには、理不尽な存在で応対するのがいい」
 口角上げて得意げだ。都合のいい時にだけ、元を取って大公と名乗り、王都に簡単に入ってくるし。
 不死王さん達のいる場では元ってつけて、魔王軍として活動してるからね。
 ――――本当に理不尽な存在だよ……。

「ともあれ終わった。お腹も空いたし、バッカスにでも寄らないかい? 自分が奢るから」
 片目を閉じて、胸をドンと叩き、ゴートさんが昼食のお誘い。

「いいですね」
 真っ先にゲイアードさんが口を開いて、しかも了承している。
 人混みが嫌いなはずなのに。
 僕の事を気遣ってるな。

「僕は――――」

「どうせ帰っても、今の荒んだ心だと、食事なんて喉を通らないだろうからね。そうなると明日がしんどくなるよ。ここにはピート君の今の感情を理解できる男が二人だけだ」
 遮ってから、ゴートさんがそう伝えてくれる。
 食欲がないなら、少しでも口に運べる面子といる時に、腹に溜めとけって事だね。
 僕は、周囲に恵まれてるよ。
 ゲイアードさん同様に、ゴートさんも素晴らしい人格者だ。目指すべき大人の人だ。
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