上 下
288 / 604
トレジャーハントに挑む、三人の公務員

PHASE-30

しおりを挟む
 しかしさ、コイツの事を蝿にもなれない蛆虫って呼称したって事は、コイツの口にしていた内容をバッチリと耳にしていたって事だからね。
 僕が暴行を受けている間も、外で聞いていたって事だろ。
 じゃなきゃ、蛆虫野郎の上を行く発言は生まれませんよ……。
 意地の悪い年寄りだよ。もっと早く来いっての!

「その拳の行方は?」
 貴男の登場におののいて、痛みも吹き飛んでいるであろう男に、痛みを思い出させつつ、とどめをさそうとしてるんですよ。
 でも、貴男の登場で、それも出来ずに終わりですね。
 
 上げてた拳をゆっくりと下ろす。
 連動するように、アドレナリンも下がっていった。
 途端に、殴った右拳がズキズキと痛み出してくる。
 ITADAKI-頂-なんてものを見たせいか、自分も出来ると思ってしまったのかな。
 痛む拳は、紛う方なき、自分が素人とだという事を教えてくれる。

「うむ、よい判断だ。後ろの佳人も心配している」
 佳人って言い方。普通に美人でいいだろうに。
 正直、どういう風に背後を見ればいいのか……。今の荒ぶった感情では分からないよ。

「フッフフ――――言った通りであろう。卿は公務員としては出世しないと」
 ああ、そう言えば、叙勲式後の男爵様とのいざこざの時に、そんな事を言われたな~。

「あの時は、誰も避難もせず、私に至っては解説までしてしまったな」
 と、言うと、大公様は、おののくノムロのおっさんの前で蹲踞そんきょの姿勢だ。

「お前のところのしょうもない子爵には迷惑をかけたな~。私が避難をしなかったばかりに――――」

「へ? いや、そんな。それはあそこの者たちの――――」

「悪かったな~」
 うわ~。
 輩だよ。輩がいるよ。
 整備長と違って、権力持ちの輩が僕の前で、頭を傾けながら、ノムロのおっさんに語りかけてる姿は、輩の親玉だ。

「いえ、めめめめっ滅相もない……」
 完全に目の前の権力者の恐怖に飲まれてら。
 同情なんてしてやらない。ざまあみろだ。

「しかし、なぜこんな所に?」

「ん? 叙勲後の会食での説明が必要と、違令管理課から召喚状が来てな」
 直ぐにゲイアードさんを見ると、素知らぬ顔で、さっきまで立ってたのに、いつの間にかソファに腰掛けて、僕が暴れた事も目にしていないとばかりに、紅茶を入れ始めている……。
 何なんだろうあの胆力。大公様がいるのにあの態度。
 ゴートさんは固まってるのにね。
 これが正しいリアクションですよ。ゲイアードさん。

「でだ、お前のところの主にも話はついている。そもそも、この様な事で公務員を動かして、私欲に走る事は貴族として許されぬ行為だ。貴族は黙って優雅に、励んでいる姿を遠くから見て、愉悦に浸っておけばよいのだ。簡単な事だろう?」
「はい、その通りにございます……」
「男爵がいたろ? 名は何だったか?」
「モルドー領主。ペアニト・ドゥール・ハワード様でございます」
「そう、その某だ。モルドーか――欲しいな――――。その某が、自分が原因ならば止めてほしいと、私に泣いて頼んできたぞ」
 某って……。ノムロのおっさん、ちゃんと名前を言ってるのにな。
 しかも、しれっと侵攻を考えている発言してるし……。
 
 元々、子爵様にも、四方山話で避難の不手際を話にしてたそうだし、ここまで大げさになってしまって、この事で大公様の悋気に触れてしまえば……と、男爵様は生きた心地がしなかっただろう。
 だから、そうなる前に、大公様に泣きついたんだろうね。
 その時の心境は、心胆がさぞ寒からしめられた状況だったんだろうな。

「そうでしたか。我が主にも、ハワード様の思いを伝えます」
「そうか」
「はい」
「では、さっさと、いねい! ダラダラと居座るのならば、その才槌頭を利用して、このドアの修繕に従事させるぞ!」
「は、はひぃぃぃぃぃぃ」
 腰が砕けた状態で、四つん這いになりながら、この部屋から凄い勢いで飛び出していった。

「ご足労いただき感謝いたします」

「うむ、謂われのない事で、仕打ちを受けるなど馬鹿馬鹿しいからな」
 ゲイアードさんは、大公様に対しても物怖じせずに接するな。
 余裕がある。
 
 仕打ちを受けるなど、馬鹿馬鹿しいと言いますけども、仕打ちを受けた後なんでね、それよりも早く動いて欲しかったよ。
 聞き耳立ててないでさ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...