上 下
249 / 604
公務員が発掘冒険とか……

PHASE-09

しおりを挟む
 ――――。

「こんにちは」

「ご足労様です」
 官庁に到着して直ぐに、受付の美人なお姉さんに挨拶。
 つと立ち上がってこちらに頭を下げてくるお姉さん。
 なんだか、申し訳なさそうにしている。

「応接室へどうぞ」
 そんな強張った表情を見せられると、行く気がしないよ。
 
 進む足が重くてかなわない……。

「いやいや、僕にやましいところなんてない!」
 独白して奮い立たせてみる。
 こうでもしないと、足が動いてくれないんだ……。

 ――。

「失礼します」
 ノックしてからドアノブ握って開き、一歩踏み入ってからの一礼。
 自分の足下から正面に視線を向ければ、
「ウィザースプーン君」

「あ、ゲイアードさん」
 応接室のソファには、ゆったりとした姿勢で腰を下ろしているゲイアードさんの姿。
 なんとも余裕だ。僕のようにあたふたとしていない。
 ああいう姿を見せられると、こちらも鼓舞されるってもんだ。
 説教受けるにしても、顔見知りのほうが楽ってもんだし。
 
 で――、隣に座っている栗毛短髪で、恰幅の良い方は、警務局の兵服を着ている。
 全体が黒。でもって、縁や裾には黒みがかった赤の刺繍が入っている。蘇芳色すおういろっていうのかな? あの刺繍付きの立場は――――、
「どうも、警務局六課、課長のゴート・フランシスカです」
 やはり、ちょうの方だな。

「たしか、叙勲式の時に――」

「ええ、あの時、自分が警務の現場責任を地味にこなしてました。ウィザースプーン君のようには目立てませんでしたよ」
 僕も好きこのんで目立ってたわけじゃないんですけど。
 可愛げのない子供の行いで目立っただけであって、僕たち公務員は、皆で仲良く隅っこで細々と食事を楽しんでただけじゃないですか。

「子爵様の事では、どの様なお咎めを受けるんでしょうか?」
 ゲイアードさんに質問。

「いや、それは私にも分からないよ」

「あれ? ゲイアードさんから僕は何かしらの責を伝えられるんじゃ?」
 堂々と着席してる姿から、そう想像してしまった。
 
「私も君と同じで、責を負わされる側だよ」
 え!? なんでゲイアードさんが責を負わされるの? わけが分からないよ。
 叙勲式のパーティーには参加してないよね――――。



「うむ、揃ったな」
 なんだ偉そうに。
 しゃべり方が気に入らないぞ。
 奥のドアから現れたのは、羽根飾りの付いた赤いベレー帽を被った、ジト目で才槌頭の、見るからに性根の悪そうな顔立ちのおっさんだ。

「私はノムロ・バズンガ。マリド・カルブレース・クラウザー子爵様の使いである」
 このノムロ氏の高圧的な語り方と、皆を見渡せる一人用のソファにドカリと座って、ふんぞり返る横柄な態度。
 そこから察するに、子爵様の性格もろくなもんじゃないってのが間接的に理解出来るな。

「茶」
 なんとも殴りたくなる所作だ。自分の前にお茶を置けと、食指でテーブルをコツコツと叩く。
 この場での若輩者は僕なので、お茶の準備に動き出すと、
「官庁は私が勤務する場だから」
 と、ゲイアードさん。
 言うと同時に、既に紅茶の入ったティーポットを手にしているっていうね。
 無駄なく素早く応対が出来る人って、格好いい。

「まあまあだな」
 こんな奴にお茶の味が分かるとは思えないけども、才槌頭を隠すようなベレー帽のおっさんは、紅茶をさらに一口飲むと、
「菓子も出んとは……もてなしの心がないな」

「申し訳ありません」
 ゲイアードさん、笑顔を見せながら小さく会釈。
 普段からは想像出来ない作り笑顔。
 これが宮仕えの辛いところか……。
 
 僕たち公務員は、勇者御一行なんかには強気に応対も出来るけど、貴族や上司など、上には弱い存在であり、仕事の出来る下からの突き上げに、心を配る日々だ。
 まあ、まだ僕は一番下だから、下からの突き上げは体験してないけどね。
 上司に対しても、整備長限定だけど、強気な態度だし――――。
 
 チョコチップクッキーですか。美味しそうですね……。
 そういえば、お昼ご飯食べてないな~。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたにかざすてのひらを

あさまる
ファンタジー
※最終話2023年4月29日投稿済。 ※この作品には女性同士の恋愛描写(GL、百合描写)が含まれます。 苦手な方はご遠慮下さい。 紅花かすみ。 ごく普通な女子高生。 そんな彼女には、幼馴染が二人いた。 いつから一緒にいるのか。 どのようなきっかけで仲良くなったのか。 そんなものは覚えていない。 それでも、かすみは彼女らの幼馴染であった。 雲一つない青空。 真っ黒な日傘と真っ赤な日傘。 今日もかすみは彼女らと登校するのであった。 ※この話はフィクションであり、実在する団体や人物等とは一切関係ありません。 誤字脱字等ありましたら、お手数かと存じますが、近況ボードの『誤字脱字等について』のページに記載して頂けると幸いです。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。

いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。 成宮暁彦は独身、サラリーマンだった アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。 なにぶん、素人が書くお話なので 疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。 あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Re.パラレルワールドの反逆者〜デブでイジメられていた俺が痩せて帰ってきたら、何故か貞操観念が逆転していた件

ファンタジー
主人公、八神碧月(やがみあつき)は子供の頃、太っていたことが原因でイジメられていた。 そんないじめっ子たちを見返すべく、叔父の元で5年間修行をした結果、細マッチョイケメン(本人無自覚)に変身した。 「よしっ!これでイジメられないぞ!見返してやるっ!」 そう意気込む碧月だったが、山を降りるとなんと、日本は男女比1万人対6000万人になっていた。 何故、こうなったのかも不明 何故、男が居なくなったのも不明 何もかも不明なこの世界を人々は《パラレルワールド》と呼んでいた。 そして…… 「へっ?痩せなくても、男はイジメられないどころか、逆にモテモテ?」 なんと、碧月が5年間やっていた修行は全くの無駄だったことが発覚。 「俺の修行はなんだったんだよぉぉ!!もういい。じゃあこの世界をとことん楽しんでやるよぉ!!」 ようやく平穏な日常が送れる———と思ったら大間違いっ!! 突如、現れた細マッチョイケメンで性格も良しなハイスペック男子に世の女性たちは黙っていなかった。 さらに、碧月が通うことになる学園には何やら特殊なルールがあるらしいが……? 無自覚イケメンはパラレルワールドで無事、生き延びることが出来るのか? 週1ペースでお願いします。

『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。 スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。 だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。 そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。 勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。 そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。 周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。 素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。 しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。 そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。 『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・ 一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。

一振りの刃となって

なんてこった
ファンタジー
拙いですが概要は、人生に疲れちゃったおじさんが異世界でひどい目にあい人を辞めちゃった(他者から強制的に)お話しです。 人外物を書きたいなーと思って書きました。 物語とか書くのは初めてなので暖かい目で見てくれるとうれしいです。 更新は22:00を目安にしております。 一話一話短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

処理中です...