上 下
239 / 604
ITADAKI-頂-

PHASE-59

しおりを挟む
 狭い通路を歩いて、程なくして中腰スタイルから這い這いスタイルになり、ロールさんのお尻様を見ることなく、三畳台目さんじょうだいめの茶席に到着。
 
 ――。

「お疲れ様でした」

「いえ、それはオサフネお奉行様ではありませんか。運営進行お疲れ様でした」
 ここでも、ロールさんが応対だ。
 サージャスさんのパーティー結成時の祝辞を述べたのに続いて、ここでもロールさんだ。
 おっさん、もう整備長辞めろ。ロールさんに譲れ。僕でもいいけど。
 
 ――。

「おいしいお茶ですね」

「本日は一番茶、初物です」
 不思議と甘みのあるお茶だ。砂糖が入ってるとかじゃなく、お茶そのものの味なんだろう。
 お茶っ葉入れて飲むのと同じタイプだけど、元々のポテンシャルが違う高価な物だな。
 こういうのをお土産に買って帰るか。
 でも、ワギョウに滞在してルールも分かったから、回し飲みの苦いタイプのでもよかったのに……。
 茶室って分かった時から、間接チューばっちこい! だったのに……。
 はあ、スッキリとした美味しいお茶だこと。
 でも、間接チューも水泡と帰したからか、苦い経験として記憶に残りそうだ……。

「これからワギョウも変わっていくでしょう」
 異人街には役所も建設される。
 デジマの発展が進んで、大きな結果が生まれれば、開国も近いだろう。
 そうなったらワギョウ全体で交易が自由になる。
 デジマは寂しくなるかもね――。
 反面、国全体に大陸からの商人や旅人が増加して、経済的にはプラスになる。
 剣聖の御業によって二つに割れた山にも人が押し寄せるだろう。
 僕も見てみたいものである。
 お金と時間に余裕が出来たら旅行もいいかもな。

「また入らしてください。今度は仕事抜きで」

「是非」
 僕が考えていたような内容が、お奉行様とロールさんの間で交わされている。
 声の調子からして、ロールさん本当にこの国が気に入ったようだ。
 だったら、一緒に旅行ってのもいいですよね。花魁ファッションとか見せてもらいたいな~。

「今回、デジマを全力で楽しんでいただいたみたいですから、ニーズィー殿も次回全力で楽しんでいただければ」

「あ、はい…………」
 ケッケケケケケケケケケケケ――――。
 ただでさえヘコんでたのに、追撃のぐしゃりだ。
 ナイスです! お奉行様。
 誰も見えないところで拇指立ててのサムズアップ。
 
 
 ――――お茶を済ませて仕事抜きの談笑を行い、門前までわざわざ別れの挨拶。
 お奉行様、ライゴウさん。お世話になった思いをこめて、僕たちは深々と一礼。

 奉行所を後にしてからは出港時間まで余裕もあるという事で、ゆったりと歩いて町並みを楽しみながら、お土産を買っていく。
 お茶に、せんべい、おかきに金平糖などなど――――。
 奮発して切子グラスも購入。
 おかげで財布の中はスッカラカンだ。
 お土産を持って歩き出す。
 
 蝉の鳴き声――。初日は木が鳴いてるとか思って、魔王軍の関係者と勘違いして恥かいたな……。
 
 ――――夏の陽射しを堪能しつつ、拠点となった家屋に戻り、旅の荷物も加える。
 土産もだから、重くてかなわない……。
 海が見える高台の家屋から次に向かう先は船着場。
 そこから港まで出ている小舟に乗って移動。
 一気に楽になった。
 水の涼に癒やされて、海まで続く水路の流れにゆっくりと沿いながら進む。
 しばらくすると、鼻孔に潮の香りが届いてくる。

「港に到着」
「重い荷物も持って、狭い小舟にゆられて、腰がいてえよ」
「口を開いたらブチブチと、少しは我慢を覚えてください」
「我慢は覚えてるよ」
「へ~」
「本来だったら、お前のことボコボコだぞ」
「出来もしないことは言わない方がいいですよ――――弱く見えますから」
「なんだ? ここでまた始める気か?」
 はぁ~。不毛。不毛だよ、おっさん。
 昨晩も周囲に迷惑をかけたのに、またここで一緒に乗っている方々にも迷惑をかけようとしてるよ。

「少しはね。前日の事を反省しましょう。ね~、ロールさん」

「そうだね。大人げないよね」
 イエェェェェェ~イ。僕が正義ジャスティス。僕に賛同。絶好調な関係。
 だからこそ、整備長はどんどんと不愉快になっていく~。
 右の頬の傷が弾けて鮮血が吹き出しそうな勢い。

「どうしてこうなった……」
 だから、今までの行いで失墜した、皆無な人徳だっつてんだろうが! 
 それを失うような事ばかりをする事によって、今の貴男が構成されてるわけだ。
 愚者は経験で学ぶって本当だな。

 ――。

 ――――これからまた船の上の生活か――。
 
 眼界には美しき白い船体。マスト三本からなる横帆おうはんのシップ型帆装。
 希望エスポワールの金文字も輝いてるよ。
 船首では船を牽引してくれる、ネーガルからの出港時、ロールさん曰く、可愛い大海蛇モーガウルが、水面から鎌首をもたげている。
 群青のエッジの効いた鱗。翼のような胸鰭を扇のように動かすと、水しぶきが虹を作りだしてる。
 怖いもの見たさに、船の周囲には人だかりが出来てる。
 特に子供が多い。好奇心旺盛である。勇気のある子は、鱗にタッチして直ぐさまそこから逃げ出して、キャッキャしてる。
 楽しませるように、それに合わせて胸鰭を動かしてるみたい。子供たちの度胸試しの遊びに付き合ってくれているようだ。
 
 流石は幻獣。そこいらの獣や、整備長とは頭の出来が違う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。 スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。 だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。 そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。 勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。 そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。 周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。 素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。 しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。 そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。 『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・ 一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。

色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一
ファンタジー
 “色彩の大陸”にある軍事大国・ブラミア帝国の遊撃部隊に所属し、隊長を務めていたユルゲン・クリーガーは帝国首都の城の牢屋で自らが裁かれる軍法会議の開催を待っていた。その軍法会議ではクリーガーは叛逆罪で裁かれることになっている。  弟子であるオットー・クラクス、ソフィア・タウゼントシュタイン、オレガ・ジベリゴワの三人とは戦場で別れた後は連絡はとれないでいた。お互いの安否が気になる。  そんなある日、牢のクリーガーのもとへ軍法会議で弁護人を引き受けると言うパーベル・ムラブイェフが訪れた。弁護士ムラブイェフはクリーガーから事の経緯を詳しく聞き取る。  1年前、“チューリン事件”では帝国の危機を救い、“帝国の英雄”とまで呼ばれていたクリーガーが、なぜ反逆罪で裁かれることになったのか?  帝国軍主流派である総司令官との対決。共和国再独立派による反乱。命令書の偽造による旅団と都市の掌握。  ムラブイェフはクリーガーの話を聞き取り、軍法会議で無罪を勝ち取るための方針を画策する。 そして数日後、ついに軍法会議が開催されクリーガーとムラブイェフは法廷に出向く。クリーガーは何人もの証人と対峙する。  果たして二人は無罪を勝ち取ることができるのか? ----- 文字数 148,497

超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森
ファンタジー
人生最良の日になるはずだった俺は、運命の無慈悲な采配により異世界へと落ちてしまった。  地球に戻りたいのに戻れない。狼モドキな人間と地球人が助けてくれたけど勇者なんて呼ばれて……てか他にも勇者候補がいるなら俺いらないじゃん。  やっとデートまでこぎつけたのに、三年間の努力が水の泡。それにこんな化け物が出てくるとか聞いてないし。  あれ?でも……俺、ここを知ってる?え?へ?どうして俺の記憶通りになったんだ?未来予知?まさかそんなはずはない。でもじゃあ何で俺はこれから起きる事を知ってるんだ?  努力の優等生である中学3年の主人公が何故か異世界に行ってしまい、何故か勇者と呼ばれてしまう。何故か言葉を理解できるし、何故かこれから良くないことが起こるって知っている。  事件に巻き込まれながらも地球に返る為、異世界でできた友人たちの為に、頑張って怪物に立ち向かう。これは中学男子学生が愛のために頑張る恋愛冒険ファンタジーです。 第一章【冬に咲く花】は完結してます。 他のサイトに掲載しているのを、少し書き直して転載してます。若干GL・BL要素がありますが、GL・BLではありません。前半は恋愛色薄めで、ヒロインがヒロインらしくなるのは後半からです。主人公の覚醒?はゆっくり目で、徐々にといった具合です。 *印の箇所は、やや表現がきわどくなっています。ご注意ください。

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

処理中です...