上 下
223 / 604
ITADAKI-頂-

PHASE-43

しおりを挟む
「度々――――三度みたび、申し訳ない」
 心なしかムツ氏の血色がよくなったような気がする。
 試しにと、体のあちこちを動かしている。

「凄い! 回復魔法があれば飛電の欠点も払拭される」

「払拭ではないですよ」

「確かに、自分自身で補って始めて払拭と言うべきですな」
 雰囲気いいなクソッ! まあいいさ。サージャスさんが笑顔でいるし、ここはグッと堪えましょう。

「そろそろ――――よいか?」
 おっと、お奉行様が空気あつかいになっていた。
 確かにこのままだと、表彰の進捗を遅らせてしまう。
 歓声もなくなっているし、続きは? と、待ちくたびれてるようだ。
 今一度とばかりにお奉行様がムツ氏を称える事で、歓声も復活だ。
 そして始まる僕の愉悦タイム。
 歓声を体で受けている時に気になったのは、〝この後いいですか?〟と、ムツ氏がサージャスさんに向けて発していた事だ。
 愛の告白なら、全力で妨害するよ……。

 ――――。

「で――――なんだこりゃ?」

「さあ?」
 整備長にドレークさんと、ライゴウさんも闘技場にやって来た。
 ここに来ての整備長の開口一番に、僕は肩をすくめる所作と共に返答。
 先ほどまでと違って、観衆の方々はいない。

「寂しいもんだな」
 ね~。整備長の声がよく響く。
 殺風景に加えて、夕焼けってのが、寂しさに拍車をかけるよね~。

「いいんですかね?」
 サージャスさん、悪い事をしてるみたいだと、横に立つお奉行様に確認を取っている。

「まったく問題ない。と――いうより私自身が見たい!」

「そうですか」

「うむ」
 子供のように瞳を輝かせてサージャスさんと言葉を交わすお奉行様。
 現在この場にいるのは僕とロールさん、整備長の整備局員。
 エルンさん、フィットさん、リムさん、ミリーさんの御一行。
 ドレークさん、ザイオン氏の大会参加者。
 お奉行様とライゴウさんの奉行所勢。
 この十一人がこれから始まるエキシビションの目撃者になる。

「では――――、今一度」

「分かりました」
 ムツ氏と、頷き、応えるサージャスさん。
 お奉行様の隣から、ムツ氏へと相対する位置に移動。
 決勝戦と同じ状況だ。
 違いは、太陽が高い位置ではなく、薄暮に進んでいく夕暮れ時の時間帯。
 夕陽が三分の一ほど山に隠れる。
 カナカナカナカナ――――と、ヒグラシが鳴き始める。
 風景も相まって、哀愁を感じさせながらも、昼間に忙しなく鳴いていた蝉とは違い、不思議と安心感も与える独特な鳴き声が心地いい。
 
「始めようか」
 モンジ氏の代わりにお奉行様が二人の間に立つ。
 横にはライゴウさんだ。
 主審をお奉行様。副審をライゴウさんが務めるようだ。
 準備が整ったのか、相対する二人の表情が引き締まる。
 でも、決勝と違って、ピリピリとはしていない。のびのびとした雰囲気だ。

「本当にいいんですね?」

「現実を見せつけていただきたい」
 ムツ氏が深くお辞儀をしてお願いすると、問うたサージャスさんが強く頷き――――、待ったなしと判断したお奉行様が、
「では――――、始めっ」
 腹から出した力強い声で、開始を伝える。

「初手から聖闘衣セイクレッド! からの~狂戦士ラーテル!!」

「おう、いきなりの全力だ」
 一切の手抜き無しとばかりにサージャスさんが赤いチャクラを纏う。
 目を丸くするエルンさん一行。
 やはり初めて見ると、驚きを隠せないようだ。チャクラと魔法の融合。
 それも、身体能力を高めるも、興奮状態になり、見境のない状態になる狂戦士ラーテルを使用しているのに、
「行きますよ。ムツさん」
 と、しっかりとした意識で自我をコントロール出来ている事が信じがたいといったところみたいだ。

 宣言通りに、まずはサージャスさんが動く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたにかざすてのひらを

あさまる
ファンタジー
※最終話2023年4月29日投稿済。 ※この作品には女性同士の恋愛描写(GL、百合描写)が含まれます。 苦手な方はご遠慮下さい。 紅花かすみ。 ごく普通な女子高生。 そんな彼女には、幼馴染が二人いた。 いつから一緒にいるのか。 どのようなきっかけで仲良くなったのか。 そんなものは覚えていない。 それでも、かすみは彼女らの幼馴染であった。 雲一つない青空。 真っ黒な日傘と真っ赤な日傘。 今日もかすみは彼女らと登校するのであった。 ※この話はフィクションであり、実在する団体や人物等とは一切関係ありません。 誤字脱字等ありましたら、お手数かと存じますが、近況ボードの『誤字脱字等について』のページに記載して頂けると幸いです。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

MMOやり込みおっさん、異世界に転移したらハイエルフの美少女になっていたので心機一転、第二の人生を謳歌するようです。

遠野紫
ファンタジー
大人気スマホMMO『ネオ・ワールド・オンライン』、通称ネワオンの廃人プレイヤーであること以外はごく普通の一般的なおっさんであった彼は今日もいつもと変わらない日常を送るはずだった。 しかし無情にもネワオンのサ終が決まってしまう。サービスが終わってしまう最後のその時を見届けようとした彼だが、どういう訳か意識を失ってしまい……気付けば彼のプレイヤーキャラであるハイエルフの姿でネワオンの世界へと転移していたのだった。 ネワオンの無い元の世界へと戻る意味も見いだせなかった彼は、そのままプレイヤーキャラである『ステラ・グリーンローズ』としてネワオンの世界で生きて行くことを決意。 こうして廃人プレイヤーであるおっさんの第二の人生が今始まるのである。

スケルトンに転生した。冒険者に倒され続ける毎日だったが、冒険者を倒すとレベルアップするんだな

もぐすけ
ファンタジー
リメイク版をカクヨムに掲載しました。 俺は佐藤、アラフォーのサラリーマンだ。 どう死んだのかよく思い出せないのだが、死の直前の記憶を持ったまま異世界に転生した。 ダンジョンの最初の部屋にいるスケルトンに転生したのだ。 新人冒険者のトレーニング用に毎日毎日斬られては復活する毎日。部屋から出たくても奇妙な結界が張られていて、外に出られない。 そんなある日、遂に部屋を出ることが出来た。そして、いじめられていた冒険者を殺したら、レベルが上がった。 その後、成り行きで、悪い大人たちから救った少女三人の保護者代わりになり、育ての親として頑張って行くことにした。

処理中です...